V.鉢合わせた暗殺者
強い日差しが照りつけるウルダハ。
クイックサンドから出てきたガウラの手には1枚の依頼書。
その内容は、上質な宝石の原石を採掘し加工も出来る者を探している。詳しい話は直接会って話したいというものだった。
採掘と加工の両方を出来るものは少なく、困っていたモモディから話を持ちかけられ、受けることにしたのだった。
依頼書にある住所を元に、依頼主の家へと向かう。
辿り着くと、そこは豪邸。
ドアをノックし、出てきた使用人に依頼書の話をして応接間に案内される。
豪華なソファに腰をかけ待っていると、依頼主が姿を現した。
ヒューラン族の男性。
高級感漂う服を着、ガウラを品定めするように見ていた。
「女か…、依頼書の内容は知っているとは思うが、腕は確かなのか?」
何とも高圧的な態度と物言いに少しカチンと来るが、金持ちなんてそんなもんだろうとガウラは平静を装った。
「それは、これを見ていただければお分かりになると思います」
ガウラが荷物から取り出したのはHQの原石と宝石。
依頼主はそれを手に取り、マジマジと観察する。
「ほう。腕は確かな様だな。これなら問題なさそうだ」
そう言って、ガウラの対面に座る。
「さて、本題に入ろう。こちらの依頼として、いくつかの種類の宝石を採掘し、加工して持ってきて欲しい」
「いくつかの種類?」
「あぁ。実は結婚を考えていてな。相手にあった宝石を使ってプレゼントをしたいのだ。贔屓目かもしれんが、彼女はかなり美人でな。どんな宝石が似合うか迷っているのだ」
「なるほど…」
「いくつか持ってきてくれれば、彼女に選ばせる事も出来るしな。選ばれなかったものはこちらで買い取らせてもらう」
「分かりました」
話が纏まり、ガウラが席を立とうとした時、応接間の扉をノックされる。
「何用だ?」
「お取り込み中、失礼致します。ベル様がお見えになられました」
「おお!ベルが!ここに通せ!」
「かしこまりました」
遠ざかる足音。
依頼主はガウラに言った。
「ベルと言うのが、私が結婚を考えている女性なのだ」
「そうですか」
「同じ女性の視点から、彼女に合いそうな宝石を取ってきてもらうのもいいかもしれん」
そう言われてしまえば、立ち去る事が出来ず、ベルとやらが来るのを待つ事になった。
そして、再びノックをされ、依頼主が「入れ」と声をかけると、扉が開いた。
ガウラは、現れた人物に驚きを隠せなかった。
漆黒の髪に天の川のような青いメッシュ。
髪は下ろしており、毛先は軽くウェーブがかかっていた。
肌は黒く、白い瞳のミコッテ族。
紛れもなく、その女性はヴァルだった。
いつもと違うところがあるとすれば、化粧と髪型、ネイルを施した爪。顔の傷が無く、普段は着ないような胸元が肌けた高級感溢れるスリットの入ったマーメイドラインのドレスを着ていることだった。
「おお!ベル!会いたかったよ!」
依頼主はヴァルの元へ行き、抱きしめる。
「私も会いたかったわ、アンドレ」
そう言って、男の頬にキスをするヴァル。
そして、チラッとガウラを見る。
「あら、商談中でしたの?」
「あぁ。でも、丁度話は終わった所だったんだ」
ガウラを見ても顔色ひとつ変えないヴァル。
「可愛らしい商談相手ですこと。妬いてしまいそう」
「何を言っているんだ。私には君だけしか見えてないよ」
「あら、本当かしら?」
「本当だとも」
男はヴァルの腰に手を回し、顔を近付ける。
すると、ヴァルは男の唇に人差し指を当てた。
「ダーメ。人が見てるでしょ?」
「はははっ!ベルは焦らすのが上手いな」
男はそう言って体を離す。
「ねぇ、アンドレ。私、このお嬢さんとお話がしたいわ」
「うーん…」
「ねぇ、いいでしょ?」
ヴァルの上目遣いに色っぽい声色に、男は逆らえるはずもなかった。
「分かった。話が終わったら部屋においで」
「ふふっ、分かったわ」
ヴァルが再び男の頬にキスすると、男は応接間を出ていった。
それを確認し、今度はヴァルがガウラの対面に座った。
しばらくの沈黙。
溜め息と同時に口を開いたのはヴァルだった。
「まさか、ガウラと鉢合わせるとは思ってなかったな…」
その口調と雰囲気は、いつものヴァルに戻っていた。
「あの男から依頼を受けたのか?」
「あぁ。…ヴァルは任務中かい?」
小声で尋ねると、小さく頷くヴァル。
「その依頼、どのぐらい掛かるか分かるか?」
「それなりに掛かると思うけど、何か問題でも…?」
「いや。あるとすれば、任務の終了が長引くぐらいだ。普段なら、誰が依頼を受けていようが関係ないけどな。流石にお前が依頼を受けたのなら、それが終わるまでは我慢するさ」
「我慢?」
ガウラの言葉に、ヴァルは辺りに人がいないのを確認して答えた。
「プリンセスデーの時に軽く話したろ?相手を誘惑して油断させると。つまりは、体の関係があるって事だ。その相手をするのも骨が折れる」
面倒くさそうに言うヴァル。
ヴァルの言葉に大人の事情を垣間見て、恥ずかしくなるガウラ。
「な、なるべく早く終わらせられるようにはするよ」
「気を使わなくていい。しっかり依頼をこなせ。あたいもプロだ。面倒ではあるが、期間が長引くぐらいはどうってことは無い」
すると、ヴァルは席を立ち、扉を開いた。
そして、ガウラに顔だけを向けた。
「楽しいお話をありがとう、お嬢さん。それでは、ごきげんよう」
一瞬で雰囲気を変え、ガウラに挨拶をして立ち去るヴァル。
その変わり身の速さに、ヴァルの暗殺者としてのプロ意識を垣間見たのだった。
その後、幸いと言うべきか、上質な宝石を運良く発掘し、予想以上に早く依頼を終えることが出来たガウラ。
依頼を終えた次の日の朝。
不滅隊に顔を出したガウラは、昨晩に依頼主が何者かに襲われ、今朝になって風呂場で遺体として見つかったと言う話を耳にした。
犯人の捜索が行われているらしいが、被害者は多くの人間に恨みを買っていた様で、捜索は難航しているとの事だった。
自分だけが知っている犯人
だが、それを誰にも話すことは無かった。
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