V.暴走した想いの果て


※注意。過激な表現が含まれた内容となっています。ご注意ください。






薄暗く、肌寒さを感じる牢獄のような部屋。

その部屋には仕切りはなく、便器と小さな洗面台、簡易ベッドが置かれており、頭の枠組みには外れた手枷がぶら下がっている。

唯一の出入口は、小窓と配膳口のついた鉄製の扉。

外に繋がる窓はなく、灯りは扉の小窓から漏れる光のみ。

そんな場所で、ベッドの上に力無く横たわるヴァルの姿があった。

だが、その姿は悲惨なものだった。

骨の形がはっきりと分かるほど痩せ細り、つややかだった黒髪はボサボサで、以前の面影を残してはいない。

手首には手枷が付いていた形跡として、黒く変色した傷跡。身にまとっている物は、1枚の長方形の布の真ん中に、頭を通す穴が空いた簡易的な物で、その下は下着すら身につけていなかった。

彼女がこの状況になったのは10ヶ月前に遡る。


***************


深夜のラベンダーベッド。

ふと、外に人の気配を感じ目を覚ましたヴァル。

今、この家には彼女1人。

家主のガウラは旅に出ており不在だった。

泥棒かと思い、気配と足音を殺し、ゆっくりと玄関に向かう。

玄関に着く頃には気配は消えていたが、警戒は解かずに向かうと、玄関の扉の下、極わずかな隙間に封筒が挟まっていた。

慎重にそれを抜き取り、開封すると、そこに書かれた内容に目を見開いた。


─ガウラ·リガンは預かった。彼女の命が惜しくば、指示に従え─


続きには、“指定の場所に来い。武器は持たず、誰にも連絡するな。指示を無視した場合、ガウラの命の保証は無い”と綴られていた。


ヴァルは時計を確認する。

一日の終わりに彼女と連絡を取ってから約3時間が経っていた。

寝込みを襲われ、連れ去られたとしてもおかしくは無い時間。

ヴァルはぐしゃりと手紙を握りつぶした後、それを投げ捨てて指定の場所へと急いだ。


指定場所に着くと、1人の男が立っていた。

その男から手紙を受け取ると、そこには新たな指示があった。

指示に従い、抵抗しない意思表示をすると、目隠しをされ、両手を後ろ手に縛られた。

そして、そのまま男に馬車に乗せられた。

そこから、何回か馬車を乗り継ぐ。

情報を得られるのは己の耳だけ。

何度目かの乗り継ぎで、雪原地帯に入ったことが分かった。

雪の軋む音と、肌を刺すような寒さ。

毛布を1枚掛けられてはいたが、寒さを凌ぐには心もとないものだった。


どのぐらいの日数が経ったのか、馬車は目的地に着いたようで、目隠しを外された。自ら歩くよう言われ、顔をマスクで隠した男数人の後を大人しくついて行く。

雪原の中に建つ小さな小屋。

その中に入ると転送装置があり、それに入った。

転送された先には工場のような機械的な建物の中だった。

金属のパイプが張り巡らされている通路を進んでいくと、開けた場所に出た。

そこには白衣姿のアウラ族の男が立っていた。


その男は、マスクをした男達と何か会話したあと、報酬を彼らに渡した。

マスクの男達はそれに満足し、来た道を帰って行った。

手を縛られたままのヴァル。

アウラ族の男はヴァルに向き直ると、恍惚とした表情で口を開いた。


「やっと会えた!アドリアナ!」

「あたいはアドリアナじゃない。ガウラはどこだ」

「いいや!君はアドリアナだ!…あぁ、そうか。君の本名はヴァル·ブラックだったね」

「………なるほど。お前、あたいが過去に潜入任務をした先の、その辺にいた奴らの1人か」

「つれないじゃないか…、クローン研究所で共に研究をした仲だというのに……。まぁ、君はその研究のデータを破壊し、研究所を爆破した。多くの任務のうちの1つでしかなく、記憶に残るほどでもないことか」


男は肩を竦めて溜め息を吐く。


「だが、君はそんな中、私の心を奪ったのだ!研究一筋だった私の心に入り込み、心を乱した!」

「……知らないな。お前が勝手にあたいに好意を持っただけだろ。そんな任務にハニートラップなんて使うまでもないからな。それに…」


ヴァルは冷徹な目をして言った。


「あたいを抱いた男は、1人残らずこの世には残っていない」


そう言って1呼吸置くと、次は地を這うような声で言った。


「そんなことより、ガウラはどこだ」


そう言い放ったヴァルの瞳は、先程とは違い、殺気を放っている。その様子に、男は溜め息を吐きながら答えた。


「本来の君はせっかちさんなんですね。良いでしょう、会わせてあげますよ」


そう言って、男は機械を操作した。

すると、男を挟んだ向かい側に青白い灯りが灯る。

そこには、大きな筒状の水槽の様な容器、何かの液体で満たされたその中に沢山の機械の管に繋がれたガウラの姿があった。


「ガウラっ!!」

「安心してください。生きてますよ。ただ、彼女が生きていられるかは君次第です」

「……」

「私の胸には、心拍数を感知する装置が埋め込まれています。私の心拍が停止すれば、生命維持装置が停止する仕掛けになってます」

「……チッ」


苦々しく舌打ちをするヴァルに、男は続けた。


「私の目的が達成されるまで、君が大人しく協力してくれれば、彼女には何もしません」

「……いいだろう。だが、1つ約束しろ。目的とやらが達成したら、ガウラを解放しろ」

「そんなに彼女が大事ですか……。良いでしょう、約束しますよ」


こうして、ヴァルは大人しく男の指示に従い、監禁生活を余儀なくされたのであった。



***************



監禁部屋の外の騒がしさで、ヴァルの意識が浮上する。

骨と皮だけのギリギリの状態で生かされている彼女の体力と筋力は、極限まで衰えており、すぐに身体を動かすことが出来ない。


[ここだ!]

[すぐ開ける!]


鋼鉄の扉からカチャリと音がしたと同時に、ギィっと軋む音をさせて扉が開いた。


「ヴァルっ!!!」


部屋に入り込む、懐かしい花の香り。


「ヴァルっ!目を開けてくれっ!!」


その声にゆっくりと目を開ける。そこには、必死な様子のガウラの姿があった。


「…ガ……ウ、ラ……?」


やせ細り震える手を、ゆっくりと伸ばす。

それに気づいたガウラがその手を取る。

手に伝わる温もりで、ようやく状況が飲み込めたヴァルは、弱々しく微笑んだ。


「良か……た……、生きて、また、会え…た……」


掠れたヴァルの声に、ガウラは唇を噛み締める。


「ヴァル、助けに来るのが遅くなってすまなかった」

「母、上」


ガウラの隣に、母であるヴィラも居た。

ヴィラがヴァルの状態を確認していると、ガウラが静かに言った。


「お義母さん」

「どうした?」

「ヴァルをお願いします」


そう言って、ガウラは部屋から飛び出した。


「ガウラっ!?」


彼女の唐突な行動に、ヴィラは驚き戸惑う。

すると、ヴァルが口を開いた。


「母上。ガウラを、止めて、くれ」

「何?」

「あたいが、された事を、聞いたら、ガウラは、激昂、しかね、ない。…あの子の、手を、汚させたく、ない」


ヴァルの言葉に、ヴィラは何かを察し、彼女の身体を毛布で包んだあと、リンクシェルで仲間と連絡を取る。


「今、救助要請をした。ここで大人しく待ってろ」


ヴィラの言葉にゆっくり頷く。

それを確認したヴィラは、ガウラの後を追った。



***************



ガウラは白衣を着たアウラ族の男と対峙していた。

そこは、ヴァルが最初に連れてこられたフロア。

ガウラは男を睨みつけていた。


「お前がヴァルをあんな風にしたのか」


声量は抑えているものの、明らかに怒気を纏った声に、男は肩を竦めた。


「そうですよ。抵抗されたりしたら私には止められませんからね」

「もうひとつ。どうやってヴァルを騙した?家に置かれていた紙から私をダシに使ったのはわかった。でも、ここにおびき出したなら、嘘だとわかるだろ」


ヴァルの捜索をしている時から、ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。


「あぁ、それはですね。これですよ」


青白い灯りが灯ると現れた、大きな水槽のような容器の中にに、自分と瓜二つの人物がいた。

口元と胸元は生命維持装置である管が沢山着いており、その管が丁度ガウラにある頬の傷と火傷の箇所にかかり、見えないようになっていた。


「あなたのクローンです。以前、貴方はある人物に襲われましたね?その人物の遺体の傍に落ちていた、あなたの髪の毛を1本拝借して作りました」


クローンであればエーテル視を使っても偽物とバレることは無い。

ヴァルが騙されるのも仕方なく思えた。

そこから、男は聞いてもいないのに、10ヶ月の間、ヴァルに何をしたのかを語り出した。

男の目的は、自分の心を奪っていったヴァルとの間に子を作る事。

ヴァルをおびき出す前は、彼女のクローンを作り子を成せないかを試そうとした。

だが、クローンは不完全で、生命維持装置を外した途端に絶命してしまったらしい。そして、ヴァルをおびき出す計画を立てた。

おびき出したあとは、彼女を監禁。

ガウラの命がかかっていると思っているヴァルは、無抵抗で行為を受け入れた。

反応は無表情で、何とも味気ないものだった。それでも構わないと思っていた男だったが、欲が込み上げた。


“彼女を乱れさせたい”


そんな欲に駆られた結果。彼はクローンの研究資金を稼ぐために開発したラブドラッグを食事に仕込んだという。

それ以降、ヴァルはドラッグを警戒して、あまり食事を摂らなくなった。


そして──


「6か月前に私の目的は果たされたのです!」


その言葉は、彼女と男の間に子供が出来た事を意味していた。


「そして、彼女が変な気を起こさないよう、食事をギリギリまで制限し、簡単には逃げられないように体力と筋力を落とさせました。彼女があまり動けなくなった所を見計らって、真実を告げたのです。あなたに見せたのは本物ではなくクローンだと」


そこまで言うと、男はため息を吐いた。


「絶望した顔が見られると思ったのですが、意外にも微笑まれましたよ。“ガウラが無事で良かった”とね」

「……………」

「ですが、あまりにも彼女の健康状態が良くないので、赤子の安全を第1に考えて、子宮ごと摘出したんですよ」

「なん……だと」

「ここなら、しっかり栄養を与えられますからね」


そう言って、別の場所に灯りが灯る。

筒状の水槽、その中に1本の管に繋がれた胎児が浮かんでいた。


「お前……自分でヴァルを弱らせておいて、赤子が危ないからと摘出するなんて……どうかしてるっ」

「なんとでも…。ですが、これで彼女を抱ける男は居なくなった。これはあなたにとってもいい事なのでは?“パートナー”なんでしょう?」


ヴァルがあの様な状態になった原因が、この男の欲望と身勝手さにあると分かった時点で、ガウラの中になんとも言えない黒い怒りが渦巻く。


「いい事あるかっ!自分の都合や欲望で、相手を好き勝手するのは間違ってるっ!!」

感情を抑えきれず、怒鳴る。

それを見た男は、呆れた様に首を振った。


「それは、あなたが彼女のパートナーになり得たからそう思うのです。どんなに望んでも、パートナーになれない者はこうでもしないと望みは叶えられない」


男は声を張り上げた。


「愛する者が手に入らないのなら!欲望を叶え、愛する者を壊してしまえばいい!!そしたら、最後の記憶に私は鮮明に残る!!」


そう言って、男は狂ったように笑いだす。

あまりにも自分勝手な思想に、ガウラの感情は初めて怒りを通り越した。その瞬間、発砲音が響いた。


「ぐあっ!!」


ガウラの持つ銃口から煙が上がる。

怒りを通り越した彼女は、機工士の銃で、男の足を撃ち抜いたのだ。


「ヒッ、ヒヒヒッ!良い顔だぁ!英雄には相応しくない殺意に満ちた顔!」

「……るさい」

「パートナーを好き勝手されて、私が憎くて堪らないのでしょう!」

「五月蝿いっ!黙れっ!!」


再び銃声が響く。

だが、銃弾は男に当たらなかった。


「なっ?!」


ガウラは驚く。

何故なら、義母であるヴィラが彼女の手を掴み、標準をずらしたのだった。


「何故っ!?」

「ガウラ、お前は私情で手を汚してはいけない」

「でもっ!!あいつはっ!あいつはヴァルをっ!!」

「気持ちは分かる。でも、それをあの子は望んでいないっ」

「っ!!」

「これは、“私達の仕事”だ」


ヴィラの言葉の気迫に、ガウラは下唇を噛み、俯いた。


「ガウラ、お前はあの子の元へ行ってやれ。別部隊にあの子を救助させてある」

「っ……分かりました……」


ガウラは銃をしまい、ヴァルの元へ向かう為、走り出した。それを見送るとヴィラは男に向き直った。


「うちの娘達が世話になった様だね」


その声は低く、それでいて静かだが、背筋が凍るような空気を作り出す。


「お前には死んだ方がマシだと思うほどの地獄を味あわせてやる」


ヴィラはそういうと、男を気絶させる。

そして、別部隊に連絡を取り、男を回収させた。



***************



建物の出口の扉の前。

そこに毛布に包まれ座り込むヴァルと、救助隊としてここまで彼女を運んできたザナがいた。


「本当にここでガウラを待つのか」


ザナの言葉にゆっくり頷く。

彼は、ヴァルがここでガウラを待ちたいという言葉を聞いて、野営地まで行かずに留まっていた。


「それにしても、お前がこんな姿になってるなんて、想像もつかなかったよ」


骨と皮だけの状態のヴァルの姿は、ザナにとっても衝撃であった。

抱えあげた時の軽さが異常に感じるほどだった。


「お前のそんな姿、見たくなかったよ」

「……そう、か」


掠れた声で返答する。


「ま、これはガウラも同じだろうがな」

「………」

「ガウラを護る、助けるが身体に染み付いてるんだろうけど、そんな姿になっちまったら意味ないだろ」

「………」

「もっと自分を大事にしろよ。今までのように自分を道具と思ってたら、命が幾つあっても足りないぞ。ガウラとずっと一緒にいたいんだろ?」


身を引いた立場であり、一緒に育ってきた幼馴染だからこその言葉。

ヴァルは俯きながら「わかってる」と弱々しく言う。


「わかってんなら良いけどよ。お前達が幸せに生涯を終えてくれねぇと、身を引いた俺の立場がねぇだろ」


少し乱暴な言い方。

でも、その中にある2人の行く末を心配している優しさがある。


「……すま、な、いな」


ヴァルがそう答えた時、近づいてくる足音が聞こえ、ザナが警戒モードに入る。

だが、足音の主はガウラであった。

走って息を切らしたガウラに、ザナは言った。


「あとはあんたに任せた。野営地までヴァルを連れてってやってくれ」


そう言って、ザナは早々に出口から外に出ていってしまった。

残された二人。

息を何とか整えたガウラが沈黙を破った。


「なんで。なんでお義母さんに止めさせたんだっ」

「ガウ、ラ……」

「お前をこんな風にしたアイツが許せないっ!なのになんでっ!!」


消化しきれない感情が溢れ、右目に涙が溜まる。


「ガウラ。お前は、こちら側には、来ちゃ、いけない」


掠れた声でゆっくりと言葉を紡ぐ。


「お前が、振るう力は、大勢の正義の為に、使われる、べき、だ。くだらない奴の、為に、手を、汚してはダメだ」

「でもっ、でもっ!!」

「一時の、感情で、手を汚せば、それは、一生、消せない罪と、なって、自分を、苦しめるんだ。」

「……っ」

「お前に、そんな、思いは、させたく、な、い」


久しぶりに多く言葉を発したせいか、ヴァルは激しく咳き込む。

それにハッとしたガウラは、ヴァルの背中をさすった。

咳が落ち着くと、ガウラが口を開く。


「僕のこのやるせない気持ちは、どうしたらいいんだ……」


先程とは違う、震えた声。

そんなガウラに、ヴァルは言った。


「その、気持ちは、母上に、預ければいい。ガウラの、代わりに、母上が、アイツに、罰を、下すさ」


その言葉に、ガウラは「わかった」と返事した。

そして、ヴァルをおぶる。


「とりあえず、野営地に行こう」

「あぁ…」


ガウラは、ヴァルをおんぶして建物を出て、野営地へと向かったのだった。






とある冒険者の手記

FF14、二次創作小説 BL、NL、GL要素有 無断転載禁止

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