V.帰る場所

「お前さぁ…、オーバーワークって言葉を知らないのか?」


呆れたように言ったのはザナだった。

目の前には、右手首に包帯を巻いたヴァルの姿。

監禁生活の間に落ちてしまった筋肉を取り戻すために、歩くリハビリをしていたのだが、倒れた拍子に手首を捻挫してしまったのだった。

予定されていた時間を更に超えて、リハビリを続けていた結果がこれである。


「全く……、ガウラに怒られるぞ?」

「……うるさい。わかってる」


静かに言い返すヴァル。

今日、ガウラは里にいない。

長い期間、家を空けていられないと一時的に帰宅していた。

そんな矢先の怪我。

ガウラが戻ってきたら、間違いなく怒るだろう。


「焦る気持ちは分からんでもない。でもよ、怪我したら逆にリハビリが長引くんだぞ?」

「………」

「早く元に戻りたいなら、時間超過せず、決められた範囲でやれ」


ザナに説教を喰らい、何も言えずにいるヴァル。


「ヴァル?!どうしたんだいその手首!?」


そこに、里に戻ってきたガウラが声をあげる。

ザナが事情を説明すると、ガウラは溜め息を吐いた。


「俺からちゃんと言い含めておいたから、あんまり怒らないでやってくれ。あんたが同じ立場なら、同じ事しただろ?」


ザナのフォローで、少し小言を貰う程度に落ち着いた。

ザナが立ち去ったあと、ガウラが口を開いた。


「ヴァル、痛いかい?」

「少し」

「……」

「ガウラ?」


ガウラはそっとヴァルを抱きしめる。


「頼むから、僕の知らないところで怪我をしないでくれ」


その言葉は、ヴァルの心に重く響いた。

それ以降、ヴァルは決められた時間以外は無理にリハビリをしなくなった。

少しずつ、確実に筋力をつけていき、杖があれば一人で歩けるまでに快復した。

それを機に、ヴァルはラベンダーベッドへ戻ることに決めた。



***************



ラベンダーベッドへ戻る日。

ヴァルはヴィラから、今後のリハビリのプランと、体力のトレーニング等を纏めた書類を渡された。

ガウラと二人でヴィラに礼を言い、ラベンダーベッドへと戻る。

玄関の扉をガウラ開け、中に入る。

ヴァルも杖をつきながら中に1歩入った瞬間、久しぶりに感じた安堵感に足が止まった。


「ヴァル?どうした?」


不思議そうに尋ねるガウラに、ヴァルは言った。


「帰ってきたんだって実感したら、なんか…気が抜けた」


その言葉に、ガウラは「ふふっ」と笑う。

そして、満面の笑みで言った。


「おかえり!ヴァル!」


ガウラの言葉に、胸がいっぱいになりながらヴァルは返す。


「ただいま、ガウラ」


このガウラが居る場所が、自分の帰るべき場所なんだと、実感したのだった。

とある冒険者の手記

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