A.故郷からの旅立ち


これは、俺がまだ故郷にいた頃の話。
とある小さな島にある、小さな集落。
そこには色んな事情で住み着いた人達が暮らしていた。
来る者拒まず、詮索不要。
それがその集落の決まりだった。
俺の母さんは、海賊の子供を身篭った事でフ族の集落を追い出され、この集落に辿り着いたらしい。
母さんは病弱で、周りの助けを借りながら俺を産んで育ててくれた。
病弱だったけど、いつも明るくて、優しかった母さんの役に立ちたくて、俺は色んなことを出来るように、周りの大人達に色々と教えて貰った。
掃除の仕方、洗濯物の洗い方、壊れた物の修理の仕方、狩りや漁の仕方。
料理だけはどうしても苦手で、下拵えだけして後の調理は母さんにお願いしてた。
そして、皆が寝静まる夜になると、何だかやけに目が冴えて落ち着かない事が多かった。
幼いうちは、家から離れるのは危ないと思って、家の外に置いてある樽の上に座って、気が済むまで夜空の月や星を眺めてた。
13歳になってからは、その時間は狩りの時間になった。
夜の方が人がいないってのと、夜に狩りをすればその分昼間に時間が出来るって言う理由もあった。
その姿を知った集落の人達は「夜に狩りをするなんてムーンキーパーみたいだな」って笑ってたけど、村には俺と母さん以外にミコッテ族がいなかったから、当時は何を言ってるのかよく分からなかったな。
そんな生活をしていた15歳のある日、幼なじみのヒューラン族の女の子から告白をされた。
でも、俺は日常のサイクル的に一緒に居られる時間を作るのが難しいのが分かっていたから断ったんだが、彼女は「出来ることは手伝う、だから付き合って欲しい」と言ってきた。
何故、俺を好きになったのか聞いてみると
「いつも一生懸命で、その姿を好きになった」
と照れくさそうに言った。
そこまで言われると、何だか断りづらくて、彼女の告白を受け入れた。
それからは、彼女の助けを借り、空いた時間を2人で過ごすようになった。
2人でいる時間は思いのほか楽しかった。
と言っても、散歩とか、一緒に買い物したりとか、そんなことしか出来なかったけど(苦笑)
ある日、手を繋ぐぐらいしか出来なかった俺に、彼女は業を煮やしたのか、突然キスをされた。
あまりの突然さに、俺は凄く驚いて何も言えずにいたら、彼女は少し拗ねた顔をして
「もうっ、全然恋人らしいことしてくれないんだもん。こういうのは男の人がリードしないとダメなんだからねっ」
と言われた。
彼女と付き合い始めるまで、恋愛とか恋人とか、考えた事のなかった俺は、少し彼女に申し訳なさを感じた。
それからは、周りのカップル達がどんな事をしてるのか、気にかけるようになった。
なんだか気恥しかったけど、それなりに相手の気持ちに応えようとした。
だが、付き合い始めて半年後。
彼女から別れを告げられた。
他に好きな人が出来たと言う。
それを聞いて、俺は悲しさよりも申し訳ない気持ちの方が大きかった。
他のカップルに比べたら、会う時間も少なかったし、恋人に対する行動も努力はしたが結局は彼女がリードしてる事が多かった。
そういったのもあって、彼女自身が不満を持っていてもおかしくはないだろう。
俺は「好きになってくれたのに、ごめんな」としか言えなかった。
それが、16歳の時だった。
そのあとは、いつもと変わらずな生活を送った。
集落内で彼女が幸せそうにデートをしてるのを見かけたりはあったが、不思議と心は痛まず、むしろ幸せそうで良かったと思う程度だった。
今思えば、俺は彼女の事は幼なじみとして好きだったのであって、恋愛感情はなかったんだろうな。
そして、彼女は1年後にその男性と結婚した。
それから更に1年が経った頃、母さんの容態が悪化した。
日に日に容態は悪くなり、ベッドから起き上がれない程になった。
それでも母さんは、弱音を吐かず明るく振舞っていた。
料理の出来ない俺は、集落の人にお願いして調理をしてもらい、その代わりにその家の修繕等をした。
だが、その年の冬。
母さんは俺の手を握りながら
「強く生きて、そして幸せになりなさい」
そう言って息を引き取った。
俺はその時、初めて泣いた。
物心付いた頃から母さんの力になりたくて、必死に色んなことを覚えて生活してきて、泣いた記憶がなかった。
目から止めどなく流れる涙を止める術も分からず、泣き続けた。
守りたかった。
たった1人の母さんを守りたかった。
その母さんはもう、この世にいないと言う現実。
どれだけの時間泣いたか覚えてないが、ふとある事を思い出した。
海賊をしている父さんの事だった。
昔はよく、母さんにねだって父さんの事を聞いていた。
思い出した途端に、父さんに会いたくなった。
顔は知らないけれど、名前は覚えている。
少し前に興味本位で買った世界の本を引っ張り出してページをめくる。
海賊が集まって作られた都市リムサ・ロミンサ。
ここに行けば、父さんと会うことが出来るかもしれない。
そう思ったらいてもたっても居られなかった。
俺は母さんの葬儀を済ましたあと、リムサ・ロミンサに向かうためにお金を貯め始めた。
そして、19歳の誕生日。
俺は集落を出て、リムサ・ロミンサへと向かった。


とある冒険者の手記

FF14、二次創作小説 BL、NL、GL要素有 無断転載禁止

0コメント

  • 1000 / 1000