A.ホラーは嫌い
冒険者ギルドからの依頼で、アリスはタムタラ墓所の前に来ていた。
それまで晴天だった天気は、墓所に着いた途端に悪くなり、暗雲が立ち込め、雲の中からゴロゴロと雷が唸り始めていた。
墓所の入口にはアンデットがウロウロしており、天候と相まって雰囲気は最悪だった。
その状況に、恐怖で顔を強ばらせるアリス。
ホラー嫌いの彼にとって、その中に入るのはとてつもない勇気がいる。
足が竦んで、中に入れないアリスは、墓所から少し離れた所に移動し、リンクパールを起動し、先輩もとい、ヘリオに連絡を取る。
『はい、もしもし』
「もしもし、先輩ですか!今時間大丈夫ですか!?」
『あ?あぁ、大丈夫だが…、どうした?』
「あ、あの!タムタラ墓所に行くの手伝って貰えませんか!?」
『分かった。今どこにいる?』
「墓所の近くにいます」
『分かった』
その数分後、ヘリオが到着した。
ヘリオの後ろには、姉のガウラがいた。
「ガウラさん!お久しぶりです!」
「よお、アリス。久しぶり!」
挨拶もそこそこに、アリスは事情を説明した。
すると、ヘリオは少し呆れた表情で言った。
「そんなに苦手な依頼をわざわざ受けなくてもいいだろ」
「だ、だって、困ってたら放っておけないじゃないですか…」
しゅんと耳を倒すアリスに「自分が出来る場所を選ぶのが1番重要だ」とヘリオは言う。「すみません」と項垂れるアリス。
「まぁ、苦手な物を克服するには慣れるしかないし、荒療治だと思えば良いんじゃないかい?」
ガウラの言葉に、ヘリオは「確かに」と納得し、アリスにPT申請をさせ、タムタラ墓所へと突入した。
タムタラのスタート地点。
薄暗くアンデットが徘徊しているのがチラホラみえている。
それを見て、ヘリオが口を開いた。
「そういえば、姉さんこういうの苦手じゃなかったか?」
「あ?ホラー話とかは苦手だよ。でもね、倒せる敵は別だよ!倒せるなら恐いもんじゃないだろ?」
「なるほど…」
やる気満々のガウラに、ヘリオはそんなもんかと微妙に納得した。
「さぁ!さっさと依頼とやらを終わらせようじゃないか!アリs…」
ガウラがアリスに振り向くと、言葉を失った。
顔面蒼白、半べそで全身がガタガタ震えているアリス。
「…こっ…」
「こ?」
アリスの発した声に、ガウラが首を傾げた瞬間。
「怖いぃぃぃいいいいいっ!!」
「うおっ!?なんだ?!」
叫んでヘリオの背中に飛びつき、しがみつくアリス。
突然のことに慌てふためくヘリオ。
普段、あまり感情を表に出さない弟の慌てた様子に、目を丸くするガウラ。
「は、離れろ!アリス!!」
「いやだぁああっ!!怖いぃぃいいいいっ!!」
力一杯しがみつくアリスを、ヘリオは何とか降ろそうと四苦八苦する。
その様子が可笑しくてたまらないガウラは、笑いを堪えてニヤニヤが止まらない。
そんな時、ふとガウラはある事を思いつき、さらにニヤニヤが止まらなくなった。
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「うぅ~…先輩、本当にすみません…」
「ま、まぁ、あんなに怖がってる状態で、あれだけ動けたなら上出来じゃないか?」
ガックリと項垂れ、落ち込むアリスに、苦笑いしながらフォローを入れるヘリオ。
入口で怯えるアリスを何とか宥め、依頼の為にタムタラを踏破した。道中小さく「ヒィッ!」と悲鳴を上げながら敵に立ち向かって行ったアリス。だが、スキルはめちゃくちゃで、とてもじゃ無いが褒められたものでなかったのは本人が1番自覚していた。
踏破した安堵感から、腰が抜け座り込んで動けなくなっているアリスの背中を撫でるヘリオ。
「ガウラさんも、本当、ご迷惑をおかけしました…」
「よっぽど苦手なんだねぇ。苦手というより、もう弱点ってレベルだな」
「うぅっ…すみません…」
「これから冒険者として、色んな依頼が来るだろ。そしたら、こういった雰囲気の場所に行くことも増える」
そう言ってガウラは小さくニヤッと笑った。
「少なくとも、1人でも行けるようにならないと話にならない!今回みたいに私等が手伝える状態じゃない時だってある」
その言葉に、アリスはいたたまれなくて俯く。
「でだ、克服まではいかないだろうけど、慣れるまで付き合ってやろうじゃないか」
「「え!?」」
思わぬ言葉にアリスとヘリオの声がハモる。
「次はハウケタに行くよっ!!」
「うぇぇえええええええええっ?!!!!」
タムタラにアリスの叫びが木霊した。
その後、有無を言わさずアリスはハウケタに連行され、屋敷内にアリスの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもなかった。
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