A.勘違いからの出会い
俺は、ここ数日上機嫌だった。
それは数日前、想い人である先輩とフレンドになったからだった。
初めて名前を聞いた後、次はフレンドになろうと、例のごとく追いかけ回し、やっとトームストーンでフレンド登録出来たのであった。
「相変わらず活気が凄いな」
強い日差しが注ぐリムサ・ロミンサ。
久しぶりに双剣士ギルドに顔を出し、近況報告を終え、冒険者や商人、海賊でごった返す街をぶらぶらしていた。
そんな時、人混みの中に見覚えのある姿を見かけた。
人混みの奥、かなり離れては居たが先輩を見つけた。
俺は、声をかけようと人混みを掻き分け、先輩の元へと行こうとした。
だが、俺は足を止めた。
なぜなら、先輩は誰かに気が付き、手を上げた。
そして、そこに現れたのは先輩と同じ白銀の髪にピンクのメッシュの入ったミコッテの美女だった。
中睦まじそうに寄り添いながら人混みに消えていった2人を、俺はただ見ているしか出来なかった。
それから1週間が経った。
あの一見以来、俺の気持ちは浮かなかった。
まぁ、あれだけ綺麗でカッコイイ人に恋人が居ないわけ無いよな…
それに、先輩は男だ。女性と付き合ってても何の不思議もない。
同性婚が認められてるとはいえ、異性同士のカップルの方が一般的だ。
先輩を諦めようと、思考を巡らせ、自分に言い聞かせているがなかなか気持ちは納得しない。
そんな時だった。
「こんな所で奇遇だな」
声に顔を向けると、そこには大好きな先輩の姿があった。
「あっ!こんにちは!せんぱ……ぃ……」
いつものように挨拶してる途中で、女性と仲睦まじく人混みに消えて行った姿を思い出し、語尾が勢いを無くす。
「き、奇遇ですね!本当に」
なんとか笑顔を作って顔を向け直すも、先輩の顔は怪訝な表情をしている。
たぶん、俺の反応もそうだが、笑顔も引きつっているだろう。
「どうした?いつものあんたらしくないな。調子でも悪いのか?」
「いえ、そういう訳では…」
「じゃあ、なんだ?」
「…えっと…」
俺が口篭っていると「はっきりしろ」と促され、俺は観念した。
「俺、今まで先輩の後を追いかけ回して迷惑でしたよね…、彼女さんいるのに…」
「………………………は?」
訳が分からないと言う顔をされ、俺は1週間前の事を話た。
すると、先輩はきょとんとした顔をして言った。
「彼女なんていないぞ?」
「え…?でも、仲良さそうにしてたじゃないですか!」
俺の言葉に、先輩は考える素振りをした後、ふと何か思い当たった顔になった。
「アリス。その相手のミコッテ族、俺と同じ髪の色でピンクのメッシュが入ってたか?」
「はい。そうです」
その瞬間、先輩は肩を震わせながら「くくっ」と笑い始めた。
突然笑いだした先輩に、今度は俺がきょとんとする。
「笑ってすまない。そうか、あんたにはまだ言ってなかったな」
笑いを堪えながら、先輩は俺を見た。
「たぶん、あんたが見た彼女とやらは双子の姉さんだ」
「…え?双子?姉さん?」
戸惑っている俺に、先輩は「あぁ」と答える。
疑う訳では無いが、半信半疑なのが顔に出てたのだろう。先輩は「会ってみればわかる」と誰かにリンクパールを発信した。
先輩は発信先の人に簡単な経緯を説明し、通話が終了すると「すぐ来るそうだ」と言った。
すると、少しした頃に「ヘリオ!」と女性の声がした。
先輩は軽く手を上げる。
その方向に顔をやると、そこには先輩と瓜二つの女性。
違うところがあるとすれば、オッドアイが先輩とは逆で、メッシュの色がピンクと言うところぐらいだった。
「悪いな、姉さん。来てもらって」
「いいさ、ちょうど暇してたしな。ところで、これが噂の後輩くんかい?」
「あぁ」
女性は、俺をまじまじと見つめる。
俺はハッとして、慌てて頭を下げた。
「は、初めまして!フ·アリス·ティアです!俺の勘違いでご迷惑かけてすみませんでした!」
俺の勢いに、女性は一瞬きょとんとする。
その表情すら、先輩にそっくりだった。
すると、女性はくすっと笑った。
「ちゃんと説明してなかった弟も悪いんだ、気にするな」
女性の言葉に、先輩は苦笑い。
「で、私が弟と一緒に居て、なんの誤解が生まれたんだい?」
そういえば、先輩が通話でそこまで詳しく説明してかったことを思い出す。
「えっと、1週間前にリムサ・ロミンサで仲良さそうに歩いてるのを見て、彼女が居るのかと誤解して…」
「はい?勘弁しとくれよ」
「本当、すみません」
なんだか、自分の勘違いが可笑しくて、笑いながらそう返すと、先輩は苦笑いしながら言った。
「さっきまで葬式みたいな顔してたのに」
「ほう?そうなのかい?」
お姉さんは俺の顔を見て、一瞬ニヤッと笑った。
「なるほどねえ」
「え?なんですか?」
「いや?なんでもないさ。これからも、弟と仲良くしてやっておくれ」
意味深な言い方をされ、俺の恋心がバレたんじゃないかとドキッとする。
俺は内心慌てて話題を変えた。
「あ、あの!良かったらフレンド登録させてもらってもいいですか?」
「あぁ、構わないよ」
俺の申し出を快く了承してくれたお姉さんは、トームストーンを取り出す。
俺もトームストーンを取り出し、フレンド登録をする。
「ガウラさんで合ってますか?」
「合ってるよ。そういえば自己紹介してなかったね」
うっかりしてたと言う表情をするガウラさん。
あれ?ガウラって名前、何処かで聞いたような…
俺はハッと思い出し、ガウラさんに質問した。
「あの、間違ってたらすみません。もしかして、英雄のガウラさんですか?」
その質問に、ガウラさんは「あー…」っと微妙な顔をした。
「たしかに世間ではそう言われてるよ。ただ、そうなりたくて行動してた訳では無いから、かしこまらないでおくれ」
「あ、はい!分かりました!」
まさか、冒険者になるきっかけになった人物が、先輩のお姉さんだなんて、世間は狭いな。
「ガウラさん!時間がある時に、冒険者として分からないことを教えて貰ってもいいですか?俺、冒険者になって日が浅いんです」
「あぁ、構わないよ」
「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしく!」
俺はガウラさんと握手を交わした。
とんだ勘違いから生まれた思いがけない出会い。
この日から、俺の生活は急激な変化に見舞われる事になったのだった。
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