V.守るべき者を探して


グリダニアの外れにある小さな集落の木の上に、ミコッテの母子が、1人のミコッテ族の少女を見ていた。
子供の名前はヴァル·ブラック。
裏の世界で生きる暗殺者。黒き一族の族長の孫娘である。

「あの子がお前が守ることになる娘だ」

母の言葉に、ヴァルは少女をじっと見つめる。

「母上、名前はなんと言うのですか?」
「ヘラと言う、歳はお前より5つ下だ。もう時期儀式を行うと、あちらの族長から通達があった」

それを聞き、ヴァルの顔が引き締まる。
儀式が無事に終われば、少女を守ると言う使命が待っている。

「今のうちに、あの子のエーテルを良く覚えておけ」
「はい」

闇に紛れて生きる為、エーテルを視る能力は重要になる。
一族の中でも、その能力に長けたヴァルは、少女のエーテルを視、それを脳裏に焼き付けた。
その数日後、偵察隊から儀式は成功とは言えない状態で終わったと報告があった。
詳しく話を聞くと、予測のできない事態が起きたと言う。
エーテルの分離までは良かった。だが、そのエーテルは人の姿を成し自我を持って動き出したと言う。

「彼女はっ?!ヘラはどうなったんだっ!?」
「ヴァルっ!!取り乱すんじゃないっ!!どんな時も心を乱してはならぬっ!!」
「でもっ!!」
「ヴァルっ!!」

厳しい声に、仕方なく黙る。

「儀式は途中の段階で止まってしまった状態だ。エーテルさえ彼女に戻せれば儀式は成功する」

族長はそう言うと、ヴァルに視線を向けた。

「ヴァル。お主はヘラを探し出し使命を全うしろ。そして、エーテルを彼女に戻し、必ず儀式を完成させるのだ」
「はいっ!必ずや!」

ヴァルは急ぎ身支度を整えて旅立った。

─ヘラ、必ずお前を見つけ出して守ってみせる─


************


年月が経ち、ヴァルは24歳になっていた。
エーテルを感知しようにも、エーテルが分離しているせいか、上手く探し出せずに今に至っていた。
だが、その頃から英雄と呼ばれる人物の噂を世界中で耳にするようになった。
特徴を聞けば、幼き日に見た彼女の特徴と当てはまるが、名前と目の色が違う。
だが、万が一という可能性を考えて情報を集め、英雄と呼ばれる人物を確認することにした。
辿り着いた場所はイシュガルド。
そこで感知した彼女のエーテル。

─いる!─

気配を消し、辺りを探る。
教皇庁から出てきた英雄は、まさに幼き日に見た少女の顔。なのだが、彼女からはエーテルを全く感じられなかった。
彼女のエーテルを強く感じるのに、英雄からは何も感じない。
まさかと思い、エーテルを視る能力を発動させる。
すると、彼女とすれ違った男から彼女のエーテルが視えた。

─まさか、あれが彼女のエーテル?!─

その男をよく見ると、彼女とそっくりの顔。英雄とは左右逆の瞳の色をしていた。

─間違いない、アイツがヘラのエーテルだ!─

ヴァルは、彼女の後を追いかけようとする男を引き止めた。

「おい、お前。ヘラのエーテル体だろ」

その言葉に振り返る彼女そっくりの男。

「…なんの事だ」
「とぼけなくていい。お前から彼女のエーテルを感じる」

睨みつけるヴァルに、警戒を強める男。

「あんた、何者だ」
「先にあたいの質問に答えろ」

怒気を孕んだヴァルの声に、男は大剣の柄に手を伸ばす。

「知ってどうする?」
「どうもこうも、あたいは彼女を守る使命がある」
「守る?」
「そうだ」

ヴァルは男から視線を外さずに答えた。

「お前があたいの質問に答えれば、全てを話してやる」

その言葉に、男は溜め息を吐き、柄から手を離した。

「そうだ。俺はあいつのエーテルだ」
「やっぱりそうか」
「で、あんたは何者だ」

早く答えろと言うように、男はヴァルを睨みつける。

「あたいは黒き一族。白き一族を守る使命を持った一族だ」

ヴァルの言葉に驚いたように目を見開く男。

「驚くのも無理はないだろう。我が一族の存在はそちらの族長しか知りえないからな」
「…なぜ、それを俺に?」
「お前はヘラのエーテルだ。今や白き一族の純血はヘラしかいない。なら、ヘラ自身でもあるお前に話すのは道理だろ?」
「……」

黙り込む男に、ヴァルは更に言葉を続けた。

「あたいは、ヘラを守る為に儀式を完成させないとならない。今のヘラの状態は生きた死人と大差ない。いつ何が起こるかも分からない。それはお前も分かっているだろう?なぜ、早くヘラの身体に戻らない」

静かに言ってはいるが、その言葉は男を責めていた。

「戻そうとしている。だが、見つけたと思うとすぐに居なくなる。今も、あんたが引き止めたせいでまた探し直しだ」
苦々しく男は言い放った。
「そんなのは言い訳だろ」
「言い訳でもなんでもない。これだけのエーテル量を一瞬で戻せるわけがないだろう」

ヴァルは反論しかけたが、辞めた。
口論をしたところで、時間を食うだけだと判断したからだ。

「もう1つ聞きたい。ヘラはなぜ[ガウラ]と名乗っている?」

ヴァルが1番疑問に思っていたこと。
ヘラの捜索で困難を極めた理由が名前だった。
僅かに感じたヘラのエーテルを追って聞き込みをしても、「そんな名前の人物は知らない」と言われ、今まで見つけることが出来なかったのである。

「それは、記憶を失っているからだ」
「なんだと?」
「儀式以前の記憶は俺の中にある。ガウラという名は、あいつの育て親が付けた名前だ」

記憶まで分離していたのかと驚きはしたが、納得はできた。
他にも聞きたいことはあったが、これ以上時間を費やすのを避けたかったヴァルは「理解した」と答えた。

「あたいは使命に戻る。お前とは二度と会うことが無いと願いたいよ」

そう言い残し、ヴァルは男の前から姿を消した。


***********


ヘラもとい、ガウラを追い続けていたある日。
男とガウラが2度目の接触をしている場面に出くわした。
1度目の接触は男が取り次ぐ間もなく去っていってしまっていたが、今回は違う様子だった。
やり取りを影で聞いていると、耳を疑った。

─お前がなんであろうと、お前は私の弟だ─

彼女に記憶が無いとはいえ、男に何かを感じ取ったのは確かだろう。
だからと言って、話も聞かず、本来の自分に戻れる機会を…なぜ?

─私の前から消えてくれるなよ─

聞こえた言葉にヴァルはハッとした。
彼女は、身近な者が居なくなるのを恐れている。そう直感した。
英雄として活躍をしていれば、関わりを持った者たちの死を目の当たりにすることは多かったであろう。
だが、それ以前に、記憶を失っていても、潜在意識のどこかに儀式の事が燻っているように感じた。
拒否をされてしまえば、簡単には戻れない。
男はガウラの言葉を受け入れ、彼女の双子の弟と言う位置づけを得た。
そして、さらに月日が経ち、ヴァルにとって信じ難い出来事が起こる。
「弟」にパートナーが出来たのである。
エーテル体がガウラに弟と認識されてからは、2人の接触が多くなった事でガウラを守ることを優先していた。

─何を考えているんだ─

自分の判断不足とはいえ、人でないものがパートナーを作るなんて正気の沙汰とは思えなかった。
そんな者を作ってしまえば、いざ戻る機会が出来た時に、迷いが生まれる可能性だってある。
ヴァルは悩んだ末に、この事態を何とかするべく、ガウラと接触を試みる決断をしたのであった。




とある冒険者の手記

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