A.プロポーズ
冒険者になってから初めてのプリンセスデー。
俺はある決意をしてウルダハでヘリオさんを待っていた。
鞄の中には花束と、小さな箱。
小さな箱の中身は手作りの清純の指輪。
そう。プロポーズをしようとしているのだ。
告白して2ヶ月。ウルヴズジェイルでとんでもない事をしでかしたから、ずっと落ち込んでいたが、諦めきれなかったのだ。
─これでダメだったら本当に諦めよう─
決意を胸に、プリンセスデーを過ごしませんかと連絡をした。
快く承諾してもらい、現在に至るのだ。
「よお、待ったか?」
声に振り向くと、そこにはヘリオさんの姿。
白く染められたアラミガンガウンを着ていると、いつもとは少し違う雰囲気を感じる。
「いえ!今さっき来たところです!」
そう返すと、「なら良かった」と相変わらずの無表情で言われる。
本当にクールだよなぁと思いながら「行きましょう!」と言うと、「あぁ」と返され、俺らはプリンセスデーに参加した。
花冠を配って歩き、報酬でその花冠を貰い、早速2人で被る。
花冠を被ったヘリオさんを見て、心臓が早鐘を打つ。
綺麗で可愛い。
見惚れていると、ヘリオさんから「あんた、なかなか似合うな」と言われ、我に返る。
「あはは、ありがとうございます!」
切り出すなら今だと、俺はそのまま勢いに任せた。
「そうだ!ヘリオさんに渡したい物があるんです!」
「渡したい物?」
俺はヘリオさんにグリダニアンブーケを差し出した。
「花束?」
「ヘリオさんっ!!」
俺は跪き、小箱の蓋を開けて、指輪を見せるように差し出す。
「良かったら、俺とエタバンしてくださいっ!!」
「!?」
ベタなプロポーズに、驚くヘリオさん。
「俺、ずっと諦めきれなくて…っ」
真剣に真っ直ぐヘリオさんの目を見つめる。
しばらくの沈黙の後、ヘリオさんは口を開いた。
「……俺で良いのか?」
「ヘリオさんじゃなきゃ嫌ですっ!!」
「………」
するとヘリオさんは目を伏せて言った。
「そうか…じゃあ、受けようか」
その言葉に耳を疑った。
夢だろうかと思う言葉に、俺は聞き返した。
「ほ、本当ですか……っ?!」
「あんたの想いが熱いからだっ!…まったく、ここまでついてくるなんて、あんたが初めてだよ…」
頬を紅く染めながら、バツの悪そうな表情で言うヘリオさん。
夢じゃないと分かると、嬉しさが込み上げてくる。
「俺っ…俺っ…」
声が震え、目頭が熱くなる。
「本当に嬉しいです……っ」
そう言った途端に、涙が零れた。
それを見たヘリオさんは、困った顔をした。
「泣くなよ、男だろ」
「すみません!嬉しくてっ…涙って嬉しくても出るもんなんですね」
俺は服の袖で乱暴に涙を拭き、ヘリオさんに言った。
すると、ヘリオさんは顔を横に逸らした。
「あんたは笑っとけ、それが1番だ」
まだ紅さが残る頬で照れくさそうに言われ、俺の胸がきゅんとなる。
「はいっ!」
満面の笑みで答えると、ヘリオさんはこちらを向いて「フッ」と微笑んだ。
「で、これから行くのか?」
「ヘリオさんが大丈夫なら!」
「じゃあ、行こうか」
「はいっ!」
こうして、俺はヘリオさんと
十二神大聖堂へ行き、エターナルバンドの準備をした。
指輪に名前を刻み、巡礼をし、衣装を貰い、飾り付けやプランを決めた。
「まぁ、こんなもんか」
「ですね!あ、ヘリオさん、記念に何枚か撮りませんか?」
「…そうだな」
2人で衣装に着替え、向かい合う。
純白の衣装を身に纏ったヘリオさんは、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
「何を呆けているんだ?」
「あっ、すみません!見惚れちゃって…」
「!?」
俺の言葉に頬を紅くするヘリオさん。
「あんた…照れ臭くなることをサラリと言うなよ…」
「あははっ!でも、ホントの事です」
ニッコリ微笑むと、呆れた様にため息を吐かれた。
俺は「ヘリオさん」と名前を呼び、抱きしめる。
「っ?!」
「ヘリオさん、俺、もっと強くなってヘリオさんを守れる様になります」
俺がそう言うと、強ばっていたヘリオさんの身体から力が抜けるのが分かった。
そして、「フッ」と笑ったのが分かる。
「それは楽しみだな」
優しい声に、抱きしめる腕に少し力が込もる。
「ヘリオさん、大好きです。これから、よろしくお願いします」
すると、少し間があってからヘリオさんが抱き締め返してくれた。
「こちらこそ、よろしくな」
「はいっ!!」
ほんのり香る甘い匂いと、ヘリオさんの体温を感じ、俺は幸福に包まれたのだった。
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