A.オーロラ
「ヘリオ!これから一緒にクルザス西部高地に行かないか?」
深夜をまわる前、突然アリスはそんなことを言い出した。
「こんな時間にか?それにあんた、あっちの方に行くと熱出すだろ」
呆れたように言い返すヘリオ。
だが、アリスは引き下がらなかった。
「オーロラが出る天気なんだよ!ヘリオと一緒に見たいんだ!」
「あー…オーロラ…」
そういえば、以前からちょくちょく一緒にオーロラが見たいと言われていたのをヘリオは思い出した。
「それにしても突然だな?」
「だって、いつも予定が合わなくて見に行けてないからさ…、ダメかな?」
少し遠慮しがちになるアリスに、ヘリオはうーんと考える。
「…明日は予定はなかったはずだから、別にいいぞ」
「ほんと!?やった!!」
アリスは満面の笑みを浮かべ、防寒着に着替え始める。
ヘリオも、寒さを想定して着替える事にした。
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「う~、寒っ!!」
クルザス西部高地の北側にある廃屋の屋根の上。
視界を遮るものが無いその場所は、着込んでいてもかなりの寒さだった。
一方、その隣にいるヘリオは平然とした顔をしている。
「ヘリオ…寒くないのか?」
「着込んでるしな。寒いは寒いが、そこまでじゃない。てか、あんたの方が俺より着込んでるのに、なんでそんなに寒がってるんだ?」
呆れたような表情で聞くヘリオに、震えながらアリスは答えた。
「俺の故郷、冬でもそこまで寒くならないから、寒さに慣れてないんだ…。ましてや、この辺りは氷点下だろ?俺にとっては未知の寒さだよ」
「それなら無理して来る必要ないだろ…」
「だって!滅多に見られない綺麗なものを、ヘリオとどうしても見たかったんだ…」
寒い寒いとその場で足踏みするアリス。
見かねたヘリオは、カバンからファイアクリスタルを取り出した。
「ほら、これを服の中に入れておけ。カイロ替わりになるから」
震える手でそれを受け取り、服の中にしまうと、ファイアクリスタルから温かさを感じる。
「おー!暖かい!」
「まったく、これぐらいの知識ぐらい知っておけ」
「あはは、クリスタル使う機会がないから知らなかったよ」
苦笑いをするアリス。
やれやれといったヘリオ。
そして、時刻が0時になった頃、空に光のカーテンが現れる。
「出た!オーロラ!」
「おい、はしゃいで屋根から落ちるなよ?」
オーロラを見て興奮するアリスに注意を促すヘリオ。
そんなことはお構い無しな様子で、空を見上げ、無邪気な子供のように目を輝かせているアリスを見て、ヘリオは小さく苦笑した。
せっかく見に来たのだしと、ヘリオも空を見上げる。
冷たく澄んだ空気に輝く光のカーテン。
最後に空を見上げたのはいつだっただろうか?
目まぐるしい日常の中で、空を見上げる余裕すらなかったことに気がつく。
「綺麗だな…」
「あぁ、そうだな…」
2人は時間を忘れ、現れては消える光のカーテンを眺めていた。
そして、帰宅後。案の定と言うべきか、アリスは熱を出し、ヘリオは呆れながら看病する羽目になったのだった。
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