A.パートナーをくださいと言われた


ある日突然、知らない女の子に声をかけられた。

「すみません、あなた、ヘリオさんのパートナーですよね?」

ウルダハのエーテライト·プラザ付近での事。
彼女の言葉に「そうですけど」と、呆気に取られた感じで答えた。
すると、彼女は突然、大きな声で言った。

「私、あなたのパートナーが好きになりました!彼を私にください!」

一瞬、何を言われたのか分からず「へ?」と間の抜けた声が出た。
そんな俺に構わず、彼女はヘリオの事をどれだけ好きかを必死に熱弁する。
どうやら、たまたまIDでヘリオと同じPTにマッチングし、一目惚れをしたのだという。
その後、ずっとヘリオの事を調べ見つけた時、俺が隣に居たという。
そして、俺達の関係を調べ上げたらしい。
さすがに一方的にベラベラと話す彼女を静止した。

「ちょっと待ってくれないか?」

俺は気持ちを落ち着かせて言った。

「なんで俺にそんな事言うの?」
「えっ…」

驚いた表情をする女性。
俺は構わず話を続けた。

「それに、くださいって彼はモノじゃないんだから、ちょっと失礼じゃないかな?」

俺の言葉にハッとする女性。

「君の気持ちは君だけの物なんだし、告白したいなら好きにすればいいんじゃないかな?それでもし、彼が君を選んだのなら…」

声が震える。
頬に生暖かいものが伝う。

「その時は俺は潔く身を引くよ。好きな人と一緒にいた方が幸せだからね」

俺は服の袖で目元をゴシゴシと拭き「それじゃ!」とその場を後にした。
早く家に帰ろう。
こんな状態じゃ冒険どころじゃない。
人気のない所でハウステレポをし、自宅に戻る。
そのまま家の中に駆け込み、地下の寝室へと向かい、ベッドの上で体育座りをした。
まさか、「彼が君を選んだのなら」の言葉で、自分にこんなダメージがあるとは思わなかった。
言ったと同時に、その場面を想像してしまい、耐えられなかった。

やだ、やだ、やだやだやだやだっ!
誰かにヘリオを取られるのは嫌だ!
でも、どちらを選ぶかなんて、ヘリオ次第。
俺が強制出来る事じゃない。
ヘリオの気持ちはヘリオだけのものだって分かってる。
ヘリオには幸せになって欲しい。
でも…でも………っ

思考が堂々巡りをする。
涙が止まらない。
そんな時だった。

「ただいま…って、あんたこんな所にいたのか」

ヘリオが帰宅してきた。
俺はそちらを向かないまま、しゃくりを上げながら「おかえり」と返す。

「…あんた何泣いてるんだ?男が泣くなよ…」
「なんでもない…」

涙を止めなきゃと思うのだが、なかなか止まらない。
俺の様子がおかしいのを察したヘリオは心配そうに声をかけてきた。

「なんでもないわけないだろ。そんな状態で…。何があった?」
「………」

俺は、ヘリオの方に向き直った。
俺の涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て、ヘリオは驚いた表情をする。

「…さ、さっき…街で、女の子に…話しかけ…られたんだ…」

涙を流したまま、しゃくりを上げながら話す。

「そしたら…、ヘリオの事、好きに、なったから、私にくださいって…言われて…」
「……」
「お、俺…、それは、へリオが決める、事、だから、告白、したい、なら、好きにすればって、言ったんだ…」
「で、あんたは俺がその女を選んだら身を引くって言ったんだろ?」
「う、うん…」
「あんたは、相手の事を第1に考えるからな…」

ヘリオは小さく溜め息を吐いた。

「で、でも、俺、本当に、へリオが、その子の、所に、行ったらって、思ったら、嫌で…、嫌で……っ」

うーっ、と勢いよく涙がボロボロと溢れる。

「俺、自分に、自信が、ないから、いっきに、不安になっ、て」
「自信が…ない?」
「プロポーズ、した、時、ヘリオは、気持ちを、言ってなかったし、梅泉鄉で、気持ちを、聞いた、時、も、ハッキリ、言って、なかったし」
「……」

ヘリオは困った表情をする。

「ヘリオも、男、だし、本当な、ら、女の子の、方が、いいんじゃ、ない、かっ、て、思ったりも、して、きて…」

それ以上は言葉に出来なかった。
俺は俯く。
止まらない涙がボロボロととめどなく落ちていく。

「…悪かったな」

ヘリオの言葉に、俺は顔を上げる。
ヘリオは申し訳なさそうな顔をして、頭を掻いていた。

「1度しか言わないから、しっかり聞けよ?」
「…うん」

ヘリオは息を大きく吸った。

「アリス、俺は自分の気持ちってのを上手く言えないし、気恥しいってので今まで言えなかったが…」

真っ直ぐ俺の目を見るヘリオ。

「あんたのプロポーズを受けたのは、ちゃんとあんたに惚れてたから受けたんだ。それは、今も変わらない」
「…ほ、ほんと、に…?」
「あぁ、だから…」

ヘリオは頬を少し赤らめて、視線を逸らした。

「自信を持っていい…、あんたは、凄い奴だよ」

そう言って、ヘリオは背を向けた。

「これ以上は言わないからな」

その言葉に俺はベッドから飛び出し、ヘリオを力いっぱい抱きしめた。

「なっ?!」
「ヘリオっ…ヘリオっ」

涙は止まらない。
でも、この涙はさっきまでの涙と違う。
プロポーズを受けて貰った時と同じ、いや、それ以上の嬉し涙。
ヘリオの肩口に顔を擦り付ける。
すると、そっと頭を撫でられた。

「ヘリオ…」
「ん?」
「俺、ずっと、傍に、居ても、いい?」

俺の問に、ヘリオは「あぁ」と優しい声で答えてくれた。


俺の涙と感情が落ち着いてきた頃だった。

「アリス、お前に話しかけてきたって奴、ミッドランダーの背の低い女か?」
「そうだけど…」

ヘリオの言葉で俺は、彼女があの後、行動に出たのだと察してしまった。

「なるほどな、どうりで…」
「女の子は行動が早いな…、で、ヘリオはその子をどうしたの?」

俺が問いかけると、ヘリオは疲れきった顔をして答えた。

「こっちの話も聞かずに、捲し立てられてな、自分が、自分が、しか言わないから、「自分の事しか考えてない奴とは合わない」って言って放っておいた」

ヘリオの言葉に、俺は思わず吹き出した。
ヘリオらしい。
そしてなにより、へリオが俺を選んでくれたのが本当に嬉しかった。

「でもあの子、ちょっと可哀想な気もしてきたな…」
「なんだ、あっちを選べば良かったか?」
「それは絶っっっっ対に嫌だ!」

力いっぱいそう答えると、ヘリオは「どっちだよ」と笑った。



とある冒険者の手記

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