A.許せないこと
「ただいま」
「あ!おかえり!ヘリオ!」
家に帰宅したヘリオをアリスは笑顔で出迎えた。
「今日、第一世界に行ってきたんだったよな?何してきたんだ?」
今日の話を聞きたいと言わんばかりに、アリスは紅茶をテーブルに運び、紅茶をカップに注いだ。
「あぁ、妖精王に用があってな、そのついでに、姉さんに大量に出来たスイカを配って欲しいって頼まれた」
「スイカって………このアラガンメロンの事か?」
「!?」
アリスの指さす先には、床をゴロゴロ転がるアラガンメロンがあった。
「な、なんであんたが持ってるんだ?」
「あー、昼間ガウラさんが来てさ!お裾分けだって貰ったんだよ。カットウォーターメロンもあるぞ!食べる?」
「……いや……いい…」
姉の家で散々食べた後なので、流石に食べ飽きていたヘリオは拒否をした。
そして、大きく溜息を吐いた。
「お疲れだな」
「あぁ、ちょっとな…」
紅茶に砂糖とミルクを入れ、スプーンでかき混ぜながら、ヘリオは答えた。
「危うく矢に当たりそうになったしな」
「え?!」
アリスの反応に、ヘリオはしまったと言う表情をする。
ヘリオの事になると、どうにも感情の起伏が激しくなるアリスに、この話はするまいと思っていたのに、帰宅した安堵感か、はたまた疲れが出ていたのか、うっかり口を滑らせた。
「怪我は?!」
「かすりもしてないから大丈夫だ。だからそんなに騒ぎ立てるな」
「…うん。わかった…」
なんだか腑に落ちない顔をするアリスだが、ヘリオの言葉に大人しくなる。
それ以上、その話題には触れず、別の話をしているとリリンも帰宅してきたので食事を摂ることになった。
だが、アリスは矢の話がひっかかり、翌日、忍者のスキルをフルに利用し、情報を集め始めた。
そして、情報が集まったアリスはそのままモードゥナへとやってきた。
そこから聞き込みを始め、探していた人物のいる場所へとやってきた。
そこはモードゥナのすぐ近く。
ギガントードが徘徊する場所で、その人物はエレゼンの女の子と特訓をしていた。
アリスは気配と姿を消し、しばらく様子を見る。
2人が休憩に入ったのを見計らって、探していた人物の足元にクナイを投げた。
「うわっ!なんだ!?」
「あ!すいません!ちょっと手元が狂ってしまって!」
申し訳なさそうな顔をしながら、その人物の元に近寄るアリスに、エレゼンの女の子は怒った。
「ちょっと!危ないじゃない!!それでも貴方、冒険者なの?!」
その言葉に、アリスは冷ややかな目付きに変わった。
急に雰囲気を変えたアリスに、2人はたじろいだ。
「その言葉、隣のミコッテに言ったらどうです?」
「な、なんのことだ?」
「貴方、昨日手元を狂わせて矢を在らぬ方向に放ちましたよね?」
アリスの言葉に、ミコッテは「あ!」と思い出したようだった。
「た、確かにそうだが…、なぜあんたがそれを…」
「その矢が、2人を危険に晒したんですよ?」
言われて「ぐっ」と俯くミコッテ。
情報を集めている時に、ヘリオに矢が当たりそうになった後、その矢が義姉ガウラの横で寝ていたギガントードに当たったのを知ってしまったアリスは、昨晩以上に怒りを覚えてしまっていた。
すると、エレゼンの女の子が口を開いた。
「さっきからグ·ラハを責めてるけど、貴方一体何者なのよ!」
「俺はフ·アリス·ティア!昨日、矢で危険にさらされたヘリオのパートナーで、ガウラさんの義弟だ!」
しばらく沈黙が続いた後、2人は声を合わせて「えええええっ!?」と叫んだ。
「う、うそ…ヘリオにパートナーがいるなんて、そんな素振り全然なかったわ…」
「………」
戸惑うエレゼンの女の子、驚きで何も言えないグ·ラハ。
「おや、珍しい組み合わせだねえ」
唐突にかけられた言葉に振り向けば、そこにはガウラの姿があった。
「「ガウラ!」」
「ガウラさん!」
エレゼンの女の子は、ガウラに駆け寄った。
「ねぇ!ガウラ!この人がヘリオのパートナーって本当なのっ?!」
彼女の勢いに、戸惑う表情になるガウラ。
「え?あぁ、アリスは弟のパートナーだよ。それがどうかしたのかい?」
「……パートナーがいるなんて、全然分からなかった……」
「まぁ、あいつも私と一緒で必要以上のことは話さないからな。聞かれなければ答えないだろ。それぐらいは分かっていただろ?アリゼー」
ガウラの言葉に「それはそうだけど…」と、呟いたアリゼーは、今度はアリスに詰め寄った。
「ヘリオとはどこで出会ったの!?いつエタバンしたのよ!!」
「え?!な、なんでそんなこと話さないといけないんですか?」
「まったく想像が付かないからよ!自分とガウラのこと以外は興味無いって感じだったし、人を寄せ付ける雰囲気なんか持ってないもの!」
「そんなこと無いですよ?ヘリオ優しいし…」
「優しい?!」
ぐいぐいと詰め寄られ、押され気味のアリスの様子に、ガウラはリンクパールで連絡を取る。
その数分後、連絡を受けた人物が姿を表した。
「お、来たな」
「面白いものが見れるって、一体なんだ姉さん」
その人物はガウラの弟のヘリオその人だった。
「ほら、あれ」
「………なんだ、あの状況は…」
詰め寄るアリゼーに、たじたじになっているアリス。それを呆然と見ているグ·ラハと言う、何ともおかしな状況に、ヘリオは怪訝な顔をする。
「ところで、なんでアリスが暁の2人と一緒にいるんだ?」
「さあ?私が来た時には一緒に居て、いきなりアリゼーに詰め寄られたからな」
「詰め寄られた?」
「あぁ、開口一番「この人がヘリオのパートナーって本当か」ってな」
「………」
軽く頭を抱えるヘリオ。
とりあえず、この状況を何とかしないとと、ヘリオは2人に向かって行った。
「何を揉めているんだ」
「「ヘリオ!?」」
ヘリオの姿に驚く2人に、ヘリオはアリスに疑問を投げた。
「アリス、あんたはなんでグ·ラハ·ティアとアリゼーの2人と一緒にいるんだ?」
「えっと…それは…」
言いにくそうに、ぽつりぽつりと事情を説明すると、ヘリオはやっぱりかとため息を吐いた。
昨晩うっかり口を滑らせた事を気にしていただけに、予想通りのアリスの行動に呆れる。
「怪我はないから騒ぎ立てるなとあれほど言っただろう」
「でも、危ない目にあったのは事実だし!しかも、1歩間違えればガウラさんだって危なかったって言うじゃないか!」
そこまで情報を集めるとは、さすが忍者と言ったところか…と、思いながらも、とりあえずアリスとアリゼーを引き剥がすことにする。
ヘリオはアリスのコートの後ろ襟を掴み、無理矢理アリゼーから引き剥がした。
「ほら行くぞ!」
「待ってくれよ!俺はまだあの二人に話し終わってない!」
「矢の話なら、事があった直後に牽制しといたから問題ない」
「で、でもっ!!」
引き摺られながら強制連行されるアリス。
ハッと我に返ったアリゼーが、ヘリオに声を掛けた。
「ちょっとヘリオ!私、貴方に聞きたいことがっ」
「俺とアリスの話ならしないぞ」
キッパリと言われ押し黙るアリゼー。
抵抗するアリスを引き摺りながらヘリオが立ち去ったあと、ポツンと残された3人。
引き摺られていくアリスの姿が可笑しくて、クスクスと笑っているガウラに、グ·ラハが声をかけた。
「ガウラ。昨日の事、改めて謝るよ。危ない目に合わせて悪かった」
「怪我も何もなかったんだから気にしないでおくれ。アリスの事を気にしてるなら、あれはいつもの事だからね」
ガウラはそう言うと、弟達が去って行った方向に視線を戻し、この後どうなったかを次に会った時に聞いてやろうと思うのだった。
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