V.接触


極合金ジャスティスのメンテナンスを終え、外の空気を吸う為に自宅から出てきたガウラ。
メンテナンスに少し手間取ったせいで辺りは夜の闇に包まれていた。
そんな時、視線を感じた。
気配は感じないが、今まで何度も同じような視線を感じていた。
エーテルをまともに感じることが出来ない故に、そういった視線や気配を感じ取るのに敏感になっていたガウラは、その視線にいい加減うんざりしていた。

「いるんだろ。いい加減出てきたらどうだ?」

その言葉に、少し間があってからザッと音を立てて木の上から降りてきたのは、青いメッシュの入った黒いミコッテの女。
闇に光る白い瞳は、夜空に浮かぶ月のようにも見える。

「…さすがは英雄と呼ばれるだけはあるな。完全に気配を消していたのに」
「気配は消せても、視線だけは隠せないだろ」
「…理解した」

ガウラの返答に、女は表情を変えずに言った。
女に殺意を感じないものの、相手の目的が分からないガウラは警戒を緩めなかった。

「お前は何者だ?」

その言葉に、女はガウラの目を真っ直ぐ見据えて答えた。

「あたいの名はヴァル、お前を守る者だ」
「私を…守るだと?」

ガウラは「ふっ」と笑うと、意味深な笑みを浮かべた。

「なら、お前が私を守れる実力があるのか試させてもらおうか」

そう言って戦士にジョブを変え、斧を構えるガウラ。
それを見たヴァルはやれやれと言った感じで双剣を手にする。
だが、武器を手に取っただけで一向に構えを取らないヴァルに、ガウラは怪訝な顔をした。

「何故構えない?」
「構える必要が無いからな」
「舐められたものだな!」

先に仕掛けたのはガウラ。
一気にヴァルと距離を詰めた瞬間、ヴァルの姿がスッと闇に消えた。
ガウラの背筋に悪寒が走った瞬間、ガウラは本能的に動きを止めた。
そして、首筋には冷たい感触。
それが双剣の片方だと理解するのに時間はかからなかった。

「…っ!?」
「言い忘れてたが、あたいの家は暗殺者の家系なんだ」

背中から聞こえる声。
まさか、こんな簡単に背後を取られるとは思ってもみなかったガウラは息を呑んだ。

「まぁ、今のはさすがに不公平だったか?暗殺者だって分かっていれば、お前も無闇に突っ込んで来なかっただろうし」

ヴァルがそう言った瞬間、2人に影が落ちた。
ヴァルは咄嗟にガウラから剣を離し、彼女の背中を蹴った。
その反動で、前に転がるガウラ。
その瞬間、彼女の後ろでギィィイイイン!と刃物がぶつかり合う音がした。
慌てて振り向くと、突如現れた人物とヴァルが鍔迫り合いをしていた。

「アリス?!」
「ガウラさんっ!!無事ですかっ!?」

その後ろ姿は、義弟のアリスだった。
ヴァルはアリスに蹴りを放つが、アリスはそれを後ろに飛び退き回避した。
相手がガウラじゃないからか、ヴァルは構えを取った。
その瞳にはうっすら殺意が滲み出ていた。
アリスもそれを察し、ヴァルに殺意を向ける。

「これは好都合だな。あたいにとっての邪魔者が自ら飛び込んでくるなんて」
「なんだとっ!?」

ヴァルはニィっと笑う。
その笑みにガウラはゾクッとした。

「アリス!奴は本気だっ!気をつけろっ!!」

自分の時とは違う雰囲気に、アリスへ警告を発する。
その瞬間、ヴァルが動いた。
物凄い速さで連続攻撃を繰り出す。
アリスはそれを何とか武器で受ける。
だが、受けきれない攻撃がアリスの体に複数の細かい傷を作る。

「─っ!」
「よくもまぁその程度の実力でガウラの傍にいるもんだ。お前みたいな雑魚は、いつかガウラを危険に晒すぞ」
「…うるさいっ!!」

ヴァルの武器を弾き、距離を取ったアリスはそこからヴァルに向かって大きく飛んだ。
武器を振りかぶったその姿は隙だらけであった。

「馬鹿っ!腹がガラ空きだっ!!」
「ふんっ、冥土に送ってやる!!」

叫ぶガウラ。トドメを刺そうと構えるヴァル。
その時、ヴァルは一瞬動揺した。
その隙をアリスが見逃すはずもなく、そのまま勢いをつけて斬撃を繰り出した。
ヴァルは直感で飛び退いたが、着ていた服が胸元から縦一直線に切り裂かれる形になった。

「チィッ!」

そこから追い打ちを掛けようとするアリス。

「待てっアリス!!!」
ガウラの叫びに、ピタッと足を止めた。
「ガウラさん?!なんで止めるんですか?!」

なぜ止めるのかとアリスは問いかける。

「これは私がけしかけたことなんだ、事情を説明するから、2人とも武器を収めろ」

その言葉に渋々従うアリス。それに習い、ヴァルも武器を収めた。
事情説明の前に、アリスの怪我の治療と、2人の服の修理の為に家の中へと入る3人。
アリスは別室で自分の服の修理と治療。ガウラはヴァルの服を裁縫師として直した。
話し合いの準備が整い、席に着く。

「それで、どうしてあんな状況だったんですか?」

話を切り出したのはアリスだった。
ガウラが事情を話すと、アリスは「ガウラさんらしい」と苦笑い。

「ヴァルさん、勘違いで攻撃をしてすみませんでした」

素直に謝るアリスに、ヴァルは無表情で返した。

「あたいはお前を本気で消そうとしてたけどな」

その言葉に場が凍りつく。
流石のアリスも顔が引きつっていた。
明らかな敵視に、ガウラが口を挟んだ。

「なんだってアリスに突っかかるんだい?」
「…あたいの使命に支障があるからだ」
「私を守るのに、どうしてアリスが居ることで支障が出るんだい?」
「こいつはそれなりに実力はあるが隙がありすぎる、それはいつかガウラの身に危険を及ぼす。そして、もう1つ」

ヴァルは瞳に強い意志を宿して言った。

「あたいのもう1つの使命に、こいつは障害になる可能性が高い」
「もう1つの使命?」

ガウラが首を傾げる。

「お前の弟も関わることだ」

その言葉に、アリスが分かりやすく顔色を変えた。
それに気付かないふりを決め込み、ガウラはヴァルに問うた。

「アリスがお前にとって厄介な存在だと言うのは分かったよ。なら、なぜさっきの戦いで絶好のチャンスに躊躇したんだ?」

ガウラの問に黙り込むヴァル。
そして、ヴァルはアリスの顔をまじまじと見つめる。

「な、なんですか?」
「お前、サンシーカーなのか?」
「え?そうですけど…」

戸惑いながら答えるアリス、考え込むヴァル。

「アリスがどうかしたのかい?」

疑問に思い、ガウラは口を挟む。

「いや、さっき戦ってた時に、ムーンキーパーに見えたんだ」
「え?」
「あー…」

驚くアリスの変わりに、思い当たる事があるガウラが答えた。

「こいつ、サンシーカーとムーンキーパーのハーフのせいか、暗い所にいると瞳がムーンキーパーと同じになるんだよ」
「え?!そうだったんですか?!」
「なんだ、お前自分のことなのに知らなかったのかい?」
「いや、暗い所で鏡とか見たこと無かったですし」

アリスとガウラのやり取りを横目に、ヴァルは更に考え込む。

「おい、お前の父と母のどっちがムーンキーパーだ?」
「え?父親ですけど…」
「名前は?」
「アク·アです」
「ファミリーネームは?」
「すみません、名前しか分からないんです。俺が父さんに会ったのは生まれて間もない時なので」
「…」
「で、それと躊躇した理由になんの関係があるんだい?」

ガウラが話を戻すと、ヴァルはなんとも複雑な表情を浮かべた。

「関係あると言えばある。さっき戦ってた時に気になるモノが見えたんだ」
「「気になるモノ?」」

ガウラとアリスの声がハモる。
だが、ヴァルは首を横に振る。

「いや、今は確信がないからそれ以上は答えられない」

ヴァルはそう言うと、その話題について黙秘をした。
とりあえず、ヴァルの存在はガウラにとって悪い存在ではないと結論付け、アリスは帰宅した。
その後、ヴァルはガウラに「なんなら泊まっていけ」と言われたが、それを断り夜の闇に消えていった。



とある冒険者の手記

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