A.髪型


「ヘリオ、髪伸びたよなぁ」

昼食を済ませた後の少しまったりとした時間。
ヘリオの髪の毛をブラシで解かしながら、アリスはポツリと呟いた。

「ここの所、忙しかったからな。時間を見つけて切るつもりだ」

これから出かけるヘリオは、予定を書き込んだ手帳を確認しながら答えた。

「そっかぁ…、なんか勿体ないなぁ」

サラサラとして柔らかい髪。
ゴワゴワで硬い自分の髪とはまったく違う触り心地の良い髪を切ってしまうのは、少し残念な気がするアリス。

「寝起きに髪を直すのが大変なのは、あんたも知ってるだろ」
「まあね。シャワーに入って直しても、長いと乾くのに時間かかるしな」

ヘリオの髪を一纏めに結う。
時計をちらりと見ると、まだ時間がありそうなのを確認し、遊び心が出たアリスは、三つ編みを編み始めた。
手帳に集中して気が付かないヘリオ。

(そうだ。どうせなら…)

アリスは地下に行き、棚の引き出しからリリン用に買ってきてあった幅が広めの青いリボンを取り出し、リビングに戻ってヘリオの髪に着けた。
大きな青いリボンが着いた後ろ姿は、女性に見えなくもない。
満足をしたアリスはリボンを外そうと手を伸ばした。
すると、ヘリオは手帳を閉じ、カバンにそれを突っ込むと、席を立ち上がり大剣を背負った。

「じゃあ、行ってくる」
「あっ…えっ…」

家を出る時、必ずアリスが行ってらっしゃいのキスをするのだが、ヘリオはそれを防ぐ為にそそくさと出ていってしまった。

「…行っちゃった…、帰ってきたらリボンのこと怒られるかなぁ…」

そこでふと時計を見ると、家を出発すると言っていた時間より、15分ほど早く家を出たことに気が付いたアリスは「あー!」と1人で叫んだ。

「キスする前に逃げられた!」

慌てる時間でもないのに足早に出ていったという事は、キスから逃げる為しかないとアリスは気付き、不満顔になった。


************


「よお、ヘリオ!」
「姉さん、早いな」

待ち合わせ場所に到着すると、既に姉のガウラが待っていた。

「じゃあ、行くか」

そう言って、目的地へと向かう為にヘリオはガウラに背を向けた。
その後ろ姿に、ガウラは目を丸くして問いかけた。

「お前、その髪型どうした?」
「?」
「三つ編みになってる…」

そう言われて、ヘリオは「あー…」と洩らした。

「アリスが結ってたからな、遊び半分で編んだんだろ。戦うのに邪魔にならなきゃ問題ない」
「ふーん、ご丁寧にデカくて青いリボンも着けて…」
「は?」

ヘリオは慌てて後頭部に手を伸ばし、リボンの端を引っ張り解く。
紛うことなき青いリボンに唖然とする。

「そこまでやられてて気が付かなかったのかい?」
「……」

言葉を失う弟に、笑いを堪える姉。

「やっぱり双子だからかねぇ、リボンの着いた後ろ姿は女に見えなくもなかったよ」
「…だからか、来る途中にやたら男に声をかけられたのは…」

待ち合わせに向かう途中、頻繁に男性から声をかけられ、振り向くと「あ…人違いでした」と去っていく事があった。
それを聞いたガウラは、ついに堪えきれずに笑い出したのだった。



とある冒険者の手記

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