V.怒られる側の気持ち
ハウケタ御用邸から帰宅したガウラ。
自宅の玄関前に来ると、そこには扉の隣で、目を閉じたまま壁に背を預け、腕組みをしたヴァルの姿があった。
「ヴァル、ただいま」
ガウラの声に目を開けたヴァルは、鋭い瞳でガウラを睨みつけた。
「……おかえり」
明らかに不機嫌なヴァル。
ガウラは平静を装いながら家に入ろうとすると、突然腕を掴まれた。
「な、なんだい?」
「…………」
無言でヴァルは、ガウラの腕を掴んだまま家の中へと入る。
「ちょ、ちょっと!?」と戸惑うガウラを無視し、キッチン前のダイニングテーブルの前まで来ると「座れ」とガウラに言い放つ。
逆らえない雰囲気に、大人しくガウラが座ると、対面側にヴァルも座った。
しばらくの沈黙の後、ヴァルは勢いよくテーブルを叩いた。
「ガウラ、あたいが言いたいことは分かってるな?」
ヴァルの気迫に、目を丸くするガウラ。
「な、なんのことだい?」
「しらばっくれるな!あたいが何も知らないとでも?!」
ヴァルの言葉に、ハウケタでの出来事が脳裏を過ぎった。
「何故、あたいを呼ばなかった?ああいう場所は、呼ばれなければ入れないんだっ!あたいはあのバカより実力が劣るとでも思っているのかっ?!」
「い、いや、そんなことは思ってないさ」
ヴァルの剣幕に気圧されながらも答えるガウラ。
こんな風にヴァルが怒っているのを見るのが初めてなせいか、完全にヴァルのペースに巻き込まれていた。
「ましてや、エーテルが少ない状態で無茶しようとしてっ…お前は消えたいのかっ?!」
「そんな訳ないだろ!てか、なんでそんなことまで…」
「全部聞いていた!当たり前だろ!御用邸から出て来た時のエーテル状態、お前たちの会話、全部筒抜けに決まってるだろっ!!」
「うっ…」
痛いところを突かれ、何も言えなくなるガウラ。
ヴァルはわなわなと震えながらも止まらない。
「お前はもう少し人を頼れ!今までどんな窮地に立たされても、切り抜けてきたその実力は分かっているが、その自信はいつか身を滅ぼすぞっ!!」
ヴァルはガウラから目線を外さずに続けた。
「お前にとっては、あたいの存在はよく知らない他所の人かもしれないけどな。あたいにとっては、幼い頃からずっと見て来た護るべき対象だ!儀式の失敗以降、あたいがどれだけ必死にお前を探して来たかも知りもしないだろうさ!だから、これだけは覚えておけ!あたいにとって自分の命よりも大事なのはお前の命だ!」
ガウラは、ヴァルの言葉に反論しようとしたが、再びテーブルをバンッと叩かれ押し黙る。
「お前は白き一族の最後の純血。自分の存在がどれほど貴重で、どれほど尊いものか自覚してくれ!!」
そう言ったヴァルの瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。
初めて見るヴァルの姿の連続で、言葉が出なくなるガウラ。
「頼むから…、自分を大事にしてくれ…。ヤバイと思ったら、直ぐにあたいを呼んでくれ…」
「…わかったよ…すまなかったね」
ヴァルの必死な様子に、申し訳ない気持ちになるガウラ。
自分に怒られていたアリスの気持ちが、分かったような気がしたのだった。
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