V.ヴァルの一日
夜が明けようとしている頃、ヴァルはラベンダーベッドにあるガウラ宅の近くの木の上で目を覚ます。
軽く伸びをし、木の葉を擦る音をさせ、地面に着地する。
まっすぐハウスの玄関へ向かうと、合鍵を使って中に入る。
そのままキッチンへと向かい、朝食を作り始めた。
と言うのも、ガウラの食事バランスがどうにも気になってしまい、作ることを申し出たのが始まりだった。
自炊はする様だが、料理が苦手な様で、ヴァルの目に余ったのだ。
調理を終え、テーブルに出来たものを並べて居ると、寝癖で爆発している頭を掻き、欠伸をしながらガウラが起きてきた。
「おはよー…」
「おはよう…、相変わらず凄い寝癖だな…」
今日も凄い寝癖に呆気に取られるヴァル。
そんなことは気にせず席につくガウラ。
「いただきます。いつも悪いね」
「好きでやってるんだ、気にする事はない」
「そうかい」
今朝のメニューは、スクランブルエッグにウィンナー、サラダにオニオンスープ。きつね色に焼けたトーストに、飲み物にミルク。
それを美味しそうに食すガウラは、口を開いた。
「いつも思ってるんだが、ヴァルは食べないのかい?」
「この食材はガウラが買ったものだろう」
「こっちが作って貰ってるんだ、気にせず自分の分も作ってくれていい。次から一緒に食べよう」
ガウラの言葉に「了解した」と簡単に返すヴァル。
食事を終え、ガウラが食器を片そうとするより早く、ヴァルが片付けを始める。
「今のうちに支度をしてきな」
「…食器ぐらいは洗わせておくれよ」
「いいから支度してきな。髪を整えるのに時間がかかるんだから」
「…わかったよ」
ヴァルの引かない姿勢に、ガウラは溜息を吐き、自室へと戻っていく。
食器を洗い、シンクも綺麗に拭きあげをしたヴァルは、ガウラの自室へと向かい、ノックする。
「入って大丈夫だよ」
中から聞こえた言葉に、扉を開けて入室する。
そこには洗顔と歯磨き、着替えを終えたガウラの姿。
ヴァルは、ガウラをドレッサーの前に座るよう促し、ヘアメイク用の道具を広げる。
スプレーを髪に吹き掛け、髪を痛めないように丁寧にブラッシングをしていく。
「そのスプレー凄いよな。寝癖が簡単に治まるもんな」
「プロも使用してる奴だからな」
「プロ仕様かい?!」
「あぁ、ヘアメイクの道具も化粧道具も、全部プロ仕様だ」
「はぁ…」
驚きを隠せないガウラに、黙々と作業をするヴァル。
「髪型はいつものでいいのか?」
「あぁ」
髪型を確認し、いつものポニーテールヘアを作っていく。
髪をセットし終わり、道具を片付けていると、ガウラが席を立とうとしていた。
「まだ終わってないぞ」
「…やっぱり化粧もするのかい」
「当たり前だ、若いうちに日焼けなんかの対策をしないと、歳をとった時に悲惨だぞ」
「…別に歳をとった時の事なんて…」
化粧をされる事に若干の抵抗を見せるが、大人しく席に戻るガウラ。
化粧道具を広げ、ヴァルはガウラにナチュラルメイクを施していく。
メイクを終え、ガウラは鏡を見て驚く。
「いつも思うけど、凄いな。化粧してないみたいだ…」
「ナチュラルメイクだからな。普段化粧をしてなかった人間が、いきなり化粧をするようになったら、何かと詮索されて面倒だろ?」
「確かに…」
鏡をまじまじと見るガウラを尻目に、メイク道具を片付けるヴァル。
そして、ガウラは「よし!」と立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ出るよ」
「ちょっと待て、スカーフがおかしい」
言って、スカーフを直し始めるヴァル。
「これぐらい、いいじゃないか…どうせ戦ってる間に形は崩れてくんだし」
「身だしなみはしっかりしろっ!」
「………」
何故かヴァルの言葉に逆らえず、押し黙るガウラ。
「よし、直ったぞ」
「…ありがとう」
ガウラは白金の弓を背負い、玄関へと向かう。
ヴァルもその後を追う。
庭に出た所でガウラはヴァルに向き直る。
「行ってくる…って言っても、ヴァルは影から見てるんだっけか」
「あぁ。お前を守るのが仕事だからな、今日も無茶はしてくれるなよ?」
「ははっ、肝に銘じておくよ」
そう言って、ガウラはその場を立ち去る。
ヴァルは忍び装束にミラプリを変え、ガウラの後を追う。
そして、ガウラが危険な時は周りに気付かれないように助けに入る。
ガウラが戦闘に加わる度にそれを繰り返し、あっという間に夜になる。
その日は外で夕飯を摂ったガウラが自宅に入るのを見届け、家の明かりが消えるまで木の上で辺りに神経を配る。
明かりが消えるのを確認すると、今日一日の報告書を書き、ハヤテの足に括り付け、里へと飛ばす。
そして、ヴァルは木の上で目を閉じ、眠りにつくのだった。
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