A.闇属性魔法


「うーん…参ったなぁ…」
 
グブラ幻想図書館で唸りながら後頭部を掻くアリスの姿があった。
闇属性の魔法を調べに来たのは良いが、思ったように資料が見つからない。
ドレイン、アスピルなどの吸収系は闇属性と言うのは分かったが、相性を調べるのには効果が分かりづらい。
だが、この膨大な本の中で見つけられた闇属性の魔法の記述は高度なものばかりで、術式が理解出来ない。
と言うのも、一般的に扱えるものと、研究されたものの間に差がありすぎるのだ。

「これは、詳しそうな人に話を聞いた方が早そうだな…」

アリスは書物を棚に戻し、モードゥナへテレポした。
そのまま真っ直ぐ石の家と入る。

「こんにちはー!」
「フ·アリスさん!お帰りなさいでっす!」
「タタルさん、ヤ·シュトラさんはいますか?」
「はい!あちらにいらっしゃいますでっす!」
「ありがとうございます!」

手で示された方へと向かうと、椅子に腰掛け、義姉のガウラとウリエンジェとテーブルでお茶をしているヤ·シュトラがいた。

「義姉さんも来てたんですか?」
「あぁ、お前は?」
「ちょっと、ヤ·シュトラさんに聞きたいことがあって」
「あら、何かしら?」
「実は闇属性の魔法について知りたいんです」

アリスはグブラ幻想図書館で調べたが、内容が初級と最上級のものしかなく、レベルが飛躍しすぎて理解が出来なかった事を伝えた。

「なるほどね。闇属性は呪術に近いものだから、そっちの方で調べた方が分かりやすかったかもしれないわ」
「そうだったんですか」
「それにしても、どうして闇属性魔法を調べているの?」

ヤ·シュトラの問いに、アリスは少し悩みながら答えた。

「自分の血筋に関係することで、少し気になった事があって…」

その言葉に、ガウラも耳に意識がいった。
アリスの血筋ともなれば、自分の血筋にも関係があるのは明確だ。
すると、ウリエンジェが口を開いた。

「でしたら、私が闇属性についてご説明致しましょう」
「本当ですか!ありがとうございます!」

アリスは空いている席に座り、手帳とペンを鞄から取り出し、ウリエンジェの闇属性講座を聞き始めた。
真剣に話を聞き、メモを取り、その姿は、ガウラですら初めて見る姿だった。


************


「と、言うわけです」
「なるほど…、勉強になりました!」

ウリエンジェに礼を言うアリス。

「これなら、術式が理解出来そうだな…」

小さく呟いたアリスに、ヤ·シュトラが口を開いた。

「闇属性の魔法を覚えたかったのかしら?」
「はい。俺の先祖が闇属性と相性が良かったみたいなんですけど、なにか理由があって、魔力ごと枷を付けた可能性があるんです」
「枷を?」
「俺と同じ血筋を持つ人達は、そのせいなのか、皆魔力が乏しいんですが、俺は普通に使えるので枷が外れてるのかもしれないと思ったんです。それを確かめるには、相性の良かったとされる闇属性魔法を使ってみるのが1番かと思って」

アリスは"ドレインやアスピルでは効果が分かりづらかった"という事も付け加えた。

「そういう事なら、威力を比較するのが1番でしょうね。付き合うわよ」
「良いんですか?!」
「えぇ、ダーク·ファイアぐらいなら使えるわ」
「ありがとうございます!」

席を立つアリスとヤ·シュトラ。
すると、ガウラも席を立った。

「私も見学させてもらおうか。相性が良い属性魔法が、どれほどの威力の違いがあるのか気になる」
「あくまで、仮説の段階なので本当に差が出るか分からないですよ?」
「その時はその時だろ?」
「義姉さんがそれで良いなら、良いですけど」
「私もご一緒させて頂いても?」
「はい!どうぞ!」

4人は外に出て、モードゥナの周辺にいるギガントードを標的に決めた。

「まずは、私から」
「お願いします」

ヤ·シュトラが杖を構え、呪文を唱える。

「ダーク·ファイア!」

黒い炎がギガントードを包み、黒焦げになった。

「凄い…」

思わず呟くアリス。

「さぁ、次は貴方の番よ」
「あ、はい!」

3人が見守る中、緊張を解すために深呼吸をする。
そして、呪文を唱える。

「ダーク·ファイア!」

放たれた魔法は、先程とは様子が違った。
アリスの放ったそれは、黒い炎の柱となり、ギガントードを焼き尽くした。
炎の柱が消え去ると、ギガントードは灰となっていた。

あまりの威力の差に、唖然とする4人。
自分が放ったものの威力に、呆然と立ち尽くすアリス。

「これは…相性が良いと言う言葉では生ぬるい程の威力よ、フ·アリス·ティア。貴方、一体何者なの?」
「俺にも分かりません。だから調べてるんです」

アリスの少し震えた声が、静かに響いていた。




とある冒険者の手記

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