Another HERA━挨拶━[後編]
集落を軽く見て回った後、ヘラの実家へと戻ってきたアリスとヘラ。
丁度、父親も落ち着いた様で、椅子に座っていた。
ジシャに再度促され、席に着く2人。
「さて、話を再開しようか」
口を開いたのはジシャだった。
「ヘラ。彼には一族の話はしたのかい?」
「ここに来る前に、軽く話したよ」
「そうかい」
すると、ジシャは顔を合わせた時とは違う、厳しい表情でアリスの顔を見た。
「リガンは一族の歴史と記憶を管理する、その家系に入るという事は生半可な力と気持ちは許さないよ」
キツい口調で言い放つジシャ。
うんうんと隣で頷いている父親。
だが、アリスは怯まずに言った。
「俺の気持ちは変わりません!もし、今の俺の力が足りないと言うのなら、認めて貰えるまで力をつけます!」
「母さん、アリスはね、僕と出会ってから、1年半で凄く努力して強くなったんだ!今では僕が助けて貰ってるぐらいなんだよ!」
認めて貰いたい一心か、ヘラもジシャに答える。
睨み合うジシャとアリス。
「覚悟は出来てるんだね?」
「はい!彼女と一緒にいられるなら、どんな事でも受けて立ちます!」
そう言った時だった。
開いている窓から、1本のクナイがアリスに向かって飛んできた。
それを双剣で弾き飛ばすアリス。
突然のことに騒然となる室内。
「何事だ?!」
声を上げる父親。
アリスは家の外に飛び出した。
「アリス!待って!!」
慌ててアリスの後を追うヘラ。
「ヘラ!待ちなさいっ!!」
更にそれを追う父親とジシャ。
「一体何が起こっている?!」
ジシャの言葉に、ヘラが答えた。
「いつもどこからか視線を感じてたんだけど、アリスといる時、その視線に殺意が混じってることがあったんだ!」
「視線?」
ジシャはヘラを追いかけながら、一瞬考え込み、そしてある心当たりを見つけた。
だが、何故アリスに殺意を持っているのかが分からなかった。
ただ、1つ言えることは、アリスの実力がどの程度かは知らないが、下手をしたら命が危ないと言うことだった。
「ヘラ!急ぐよ!下手をしたら彼が危ない!」
「え!?」
アリスを追う3人。
湖のほとりでアリスが周囲を伺っているのを見つけ、足を止めた。
そして、アリスはある一点に投げナイフを放つ。
すると、姿を現したのは夜を彷彿とさせる人物だった。
黒い忍び装束に身を包み、面を被っている。
仮面から見える肌は青黒い。
髪は深淵の闇色、その中に天の川のような青いメッシュ。
そして、種族特有の耳と尻尾。
同じミコッテ族であることが分かった。
「やはり、黒き一族か…」
「あれが…」
ジシャの言葉に、初めて目にする黒き一族に驚くヘラ。
だが、何故か姿を現したその一族の者に、どこか見覚えがある気がした。
「あんただな。ずっと感じてた視線と殺意は」
「…気づいていたとは驚きだな」
「目的はなんだ?」
隙を見せず睨み合う両者。
「あたいは、お前の存在が気に入らないっ!大した実力も無いくせに、ヘラを護る?結婚?笑わせるな!ヘラを護れるのはあたい達の一族だけだっ!!」
「…なら、戦いは避けられない見たいだな…」
武器を構える2人。
ジシャはアリスを止める為、前に出ようとしたが、ヘラに止められた。
「ヘラ?!このままでは彼が危ない!」
「大丈夫。アリスなら必ず勝つよ」
力強く言うヘラに、戸惑いながらもアリスを見守る事にしたジシャ。
静かに睨み合うアリスと黒き一族。
先に仕掛けたのは黒き一族だった。
金属がぶつかり合う音が、何度も響き渡る。
激しい攻防戦。
実力は互角か、力の差でアリスが押しているようにも見える。
アリスは相手の隙を突き、投刃を放とうとすると、相手は大きく距離を取った。
その隙にアリスは戦士にジョブチェンジをし、ホルムギャングの鎖で相手の動きを封じる。
「くっ!投刃はフェイクかっ!」
オンスロートで距離を詰め、攻撃を食らわそうとするが、相手は鎖を壊し、飛び上がり、血花五月雨を放つ。
素早くナイトになり、盾で防ぐ。
相手が地面に着地する間に、詩人の弓に持ち変え、レイン·オブ·デスを放った。
降り注ぐ無数の矢を、相手は何とか防いでいる。
そこに、幻具を持ち呪文を詠唱し始めるアリス。
「ホーリー!」
アリスの放ったホーリーをまともに食らい、スタンする黒き一族。
そこにすかさず突進し、相手を蹴り飛ばした。
「ぐあっ!!」
蹴り飛ばされ、そのまま湖に落ちる黒き一族。
その瞬きもできないほどの戦いに、ジシャと父親は呆然としていた。
「ね?アリスが勝つって言ったでしょ!」
ニッコリ微笑むヘラ。
ジシャも、父親も、アリスの実力を認めざる得なかった。
ザバァっと音をたてて湖から出てくる黒き一族。
面は取れ、見えたその瞳は月のように白く、怒りが滲んでいた。
「……認めないっ!」
「…………」
「認めないっ!認めないっ!認めないっ!!あたいがお前に負けるなんて認めないっ!!!」
叫び、アリスに向かって走る黒き一族。
その時、アリスと黒き一族の間にもう1人の黒き一族が姿を現し、一族の方に刃を向け動きを止めさせた。
「勝負は着いた!負けを認めなさい!」
「は、母上…っ」
悔しそうに刃を納める黒き一族の娘。
それを確認し、母親はアリスの方を向いた。
「娘が手荒なマネをしてすまない。この子はヘラを護る事に命を捧げていてね。ヤキモチの度が過ぎてしまった…」
「いえ、大丈夫です」
"恩に着る"と母親は言うと、今度はヘラ達の方へと向いた。
「白き一族の者達よ、私の娘が騒ぎを起こしてすまなかった」
黒き一族の母親は頭を下げた。
すると、ジシャが答えた。
「その子の行動は問題だが、こちらとしては彼の実力が分かったから、今回は目を瞑るよ」
「そう言っていただけると有難い。この子にはこちらからキツく言い聞かせておく」
そう言って、母親は娘を促し、その場から立ち去って行った。
「アリス!」
アリスに駆け寄るヘラ。
その顔は少し驚いた顔をしている。
「アリス、髪が白くなってるよ!」
「え?あー、これか」
アリスは自分の毛先を弄る。
「魔法を使うと白くなるんだ。まぁ、それ以外に体の異常は無いから大丈夫だよ」
「本当?」
「うん」
「そっか、なら良かった!」
ホッとして微笑むヘラ。
それを見て、自然と笑顔になるアリス。
そこに、ジシャが声をかけた。
「2人とも、そろそろ家に戻ろう」
「うん!アリス、行こう!」
「あぁ」
4人は来た道を戻り、実家へと戻る。
そして、席に着き、話を始めた。
「さて、話の途中だったが、先程の戦いぶりを見て、彼の実力も分かった」
息を飲むアリスとヘラ。
ジシャは目を伏せ、一呼吸おいてから口を開いた。
「あの黒き一族を負かす実力、文句の付けようもない」
「じゃあ!」
「あぁ、アリスとヘラの結婚を認めようじゃないか」
明るい表情になるアリスとヘラ。
ジシャは夫の方を見る。
「父さんも、異論はないね?」
「あぁ、あの戦いを見てしまったら、認めざるえまい」
そう言うと、父親はアリスの方に顔を向けた。
「アリスくん、ヘラを…娘をよろしく頼む」
「はい!必ず娘さんを幸せにします!」
こうして、2人は無事に両親からの許しを得ることが出来た。
その後、ジシャからの提案でそのまま故郷に滞在し、集落で小さな式を挙げた。
この時には、アリスに対する敵意の視線は無くなっていた。
そして、ラベンダーベッドへと戻った2人は、十二神大聖堂へと向かい、エタバンの準備を開始した。
そして、フレンド達に祝福され、エタバンで永遠の絆を誓い合ったのであった。
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