V.詩が記された書物
「私はお前の真面目な一面が意外すぎてびっくりだよ」
「どういうことですか!?」
「さぁな〜」
一族の仮説を纏めていたアリスとガウラ。
ガウラの言葉に頬を膨らませるアリス。
「俺はいつだって真面目ですけど!?」
「戦闘の時にいつもポカをやらかすじゃないか」
「むーっ!!」
ガウラの指摘に完全に拗ねるアリス。
その時、玄関の扉が開く音がした。
「…ただいま」
「おかえり、ヴァル。早かったな」
姿を現したのはヴァルだった。
その手には1冊の書物が握られていた。
「ヴァル、それは?」
「母上の指示で持ってきたんだ」
「指示?」
「あぁ、お前たちは一族のことを調べてるんだろ?なら、黒き一族に伝わっている始まりの祖の詩が全て記載されている書物が、役に立つんじゃないかって言われてね」
目を丸くするアリスとガウラ。
意外な所からの資料提供だった。
「ニア様の術式は、まさに詩。もしかしたら、この詩の中に、術式に関係するものもあるかもしれない…と、母上が言っていた」
「なるほどね。もしかしたら、枷に関する術式もあるかもしれないね」
「枷?」
状況が理解出来ていないヴァルに、アリスが枷に関する仮説を話し始めた。
そして、さっきガウラの仮説を一緒に纏めた物を見せた。
「……理解した。枷…か…」
「はい、枷を外すことが出来れば、黒き一族の人達も魔力を扱えるようになるかもしれません」
「………」
ヴァルは難しい顔をして考えている。
「ヴァルさん?」
「母上が言っていたことは、本当なのかもな…」
「ヴィラさんがどうかしたんですか?」
ヴァルは里であったことを話し始めた。
今日呼び出されたのは、アリスの行動についてだった事。
一族について調べている事を伝えると、族長はあまりいい顔をしなかった事。
そして、そこにヴィラが掟の改正が必要だと言い出した事。
最後にヴィラは"一族を崩壊させるかもしれない"と語ったと。
「母上の言うことは最もなんだ。今は昔と違う。集落にはガウラの母親がミニオンを器として存在しているだけで、混血の者たちは世界に散らばっている為、護りきるのが難しくなっている。そんな時に、異例の存在が互いの一族から1人ずつ産まれた」
白き花よ 咲き誇れ
咲き乱れよ 白き花
香りに踊れ 黒き蝶
黒き蝶よ 舞踊れ
二つは一つに
一つは二つに
巡る 巡る 命の営み
二つの色 一つに混ざり
光の嵐 それを巻き込み
花弁と羽 世界に解き放つ
「この詩が、アリスが放った魔法に酷似していると、母上は言っていた」
「確かに….」
「この詩も、その書物に記載されてるのかい?」
「あぁ」
「じゃあ、父さんが母さんに教えた詩も載ってるのかなぁ」
「叔父上が教えた詩?」
ヴァルの言葉に、アリスは頷き、その詩を口にした。
白き月は白き蕾
黒き蝶は夢を見る
蕾が開く その時を
夢が叶う時
蝶は白く染まるであろう
「そうか、叔父上はその詩を覚えていたのか」
「ヴァルさんも知ってるんですか?」
「あぁ、それもこの書物に載っている」
そう言って、ヴァルは書物をパラパラと捲る。
「枷の話が本当であれば、魔力が使えない黒き一族に、この詩が託されたのは、理解が出来るかもしれない」
「この詩が…術式だから?」
「あぁ。ニア様は白の祖。そのぐらいの魔力を持つ者で無ければ、扱えないのだと思う。この詩を白き一族の者が、始まりの祖の杖を使って唱えてしまうのを防ぐ為、黒の祖の血筋に管理を任せた。ニア様は、今の一族の者より遥かに膨大な魔力を持っていた。それと同等ぐらいの魔力を持たない者がそれを使ってしまった場合…」
「魔力を…エーテルを使い果たし、最悪死に至る……」
「そういう事だ」
そして、ヴァルは一族の転機についても話し始めた。
「一族の転機についてだが、お前達の存在以外にも、心当たりがある」
「「心当たり?」」
「あぁ、ヘラが産まれてから1年の間。黒き一族の里に産まれた赤子全員、痣なしだったんだ」
「全員?!」
驚愕の声をあげるアリス。
「全員だ。しかも、純血の子供でもだ。これは里でも問題になってな」
「問題になるってことは、前代未聞だったのか」
ガウラの言葉に頷くヴァル。
「だが、その1年の間に条件付きの痣持ちが、里外で産まれていた。それがお前だ。アリス」
「………」
なんとも言えぬ空気になる。
それに構わず話を続けるヴァル。
「これは偶然じゃない。必然だった…と、思わざる得ない」
「たしかにな…」
「話を戻そう。この詩が術式かどうか調べるなら、始まりの祖の杖を使って、唱えてみるのが1番だ」
「ほう」
「枷の話が本当であれば、アリス。お前に枷は無い。術式が使えるのはお前だろう」
「うえ?!俺?!」
思わぬ指名に、声がひっくり返るアリス。
「ヘリオはエーテル体だろ?アレが試しにこれを使って、消えてしまう…なんて可能性もあるかもしれない。それはガウラもお前も望まないだろ?」
「………」
「それに、集落跡で術式を1度展開させてるんだ、問題はないだろう…1回が限度だろうけどな」
そう言って、ヴァルは書物を閉じ、テーブルに置いた。
「問題があるとすれば、どれが枷を外す術式なのか…という点だろうな」
書物を見つめる3人。
手がかりの1つを入手したが、残る問題は深刻なものだった
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