V.自由になったなら
ヴァルが詩の書物を持って帰ってきた日の夜。
アリスが帰宅をし、夕食を摂り、食後のお茶をしていた時に、ガウラが何気なく言葉を発した。
「なぁ、ヴァル」
「なんだ?」
「目が腫れてる」
「!!」
ヴァルは思わず俯いた。
ガウラは、いつもと変わらない様子でお茶を口に運んだ。
「里で何かあったのかい?」
「…いや、母上にちょっと…な」
「?」
母親に何かあったのかと聞くと、そうじゃないと答えるヴァル。
「母上に、確信をつかれたんだ…、あたいのことを誰よりも1番理解していた…」
「それで、その目の腫れかい?」
「…まぁ、そんなところだ」
そう答えて、ヴァルもお茶を口にする。
「ガウラ」
「ん?」
「黒き一族の掟が崩壊したら、恐らく使命は無くなるだろう。そしたら、あたいはお前の傍に居る義務が無くなる」
ヴァルの言葉を黙って聞くガウラ。
その声は、心做しか震えているように聞こえた。
「その時が来ても、これまで同様、ガウラの傍に居てもいいか?」
ガウラはお茶をグッと飲み干した。
「お前の好きにしたらいいんじゃないか?掟が無くなるって事は自由になるってことだろ?」
「…迷惑じゃないか?」
「迷惑と思ってたら、家の出入りなんかさせない。むしろ、お前が居てくれて助かってる。感謝こそすれど、迷惑と思うことはないさ」
その言葉を聞き、ヴァルの瞳には涙が溢れ出した。
予想外の事に、ギョッとするガウラ。
「なっ!?何泣いて…っ!?」
「…良かった…迷惑じゃなくて…」
「ヴァル…」
俯き、静かにボロボロと涙を零すヴァル。
そんな姿を初めて見たガウラは、困った顔をしたのだった。
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