A.アリスの本気


モードゥナの南西、銀泪湖を望む開けた場所で、響き渡る魔法の発動音。
訓練と称して、アリスとアリゼーが赤魔法で手合わせをしていた。
それを興味深そうに見ているヤ·シュトラ、サンクレッド、ウリエンジェ、アルフィノの姿があった。

記憶に新しい闇属性魔法の威力。
その話を聞いて、興味を持ったのはサンクレッド、アリゼー、アルフィノ。
そして、対抗意識を持ったアリゼーはアリスに詰め寄った結果、赤魔道士同士での手合わせとなったのだった。
2人の手合わせを見ているヤ·シュトラとウリエンジェ、アルフィノの3人は、同じ事に気がつく。
赤魔法の無属性魔法。
その威力がアリゼーよりもアリスの方が高い事。
何より、発動時の魔法の美しさが群を抜いていた。
そして、魔力の差。
既に息を切らしているアリゼーに対し、アリスはまだまだ余裕といった様子が伺えた。

「おや、姿が見えないと思ったら、ここに居たのかい」

手合わせを見ていた全員が振り向くと、そこにはガウラとグ·ラハの姿があった。

「アリスとアリゼーは手合わせ中かい?」
「あぁ。アリゼーのいつものヤツだ」
「なるほどね」

サンクレッドの言葉に納得するガウラ。
グ·ラハも覚えがあるのか、苦笑いをしている。

「どうだい?2人の様子は」

ガウラの質問に答えたのはヤ·シュトラだった。

「そうね。彼、無属性魔法も相性が良いみたいだわ。威力も見栄えも、アリゼーとは違うもの。それと、魔力の量もずば抜けてるわ」

その返答にガウラはアリスをじっと見つめる。
白と黒、2つの血を持つ者。
アリスが白の特徴を持っていてもおかしくは無いと、妙に納得していた。
儀式の失敗が無ければ、自分も同じだったのだろうか?と、考え込む。
その時、金属音と共にアリゼーの「しまった!」という声が聞こえ、全員の視線が集まった。
見ると、アリゼーの細剣が弾き飛ばされ地面に刺さり、アリスの武器が彼女の首を捉えている状態であった。

「俺の勝ち…ですね」
「~~~っ!!!!」

アリゼーは悔しさを全面に見せ、顔を真っ赤にしていた。

「いやぁ、見事なものだね。ガウラが実力を認めているのも頷けるよ」
「ちょっと!私だって弱くないんだけどっ!?」

軽く拍手をしながら言うアルフィノに、アリゼーは膨れっ面をしながらアルフィノに食ってかかる。
アルフィノは「べ、別にアリゼーが弱いとは思ってはいないよ?」と、押され気味に弁解をしていた。
そんな2人を他所に、サンクレッドが前に出た。

「アリス。体力はまだあるか?」
「はい。まだまだ大丈夫です」
「じゃあ、俺とも手合わせ願おうか」
「えっ?!は、はい!」

サンクレッドの申し出に、戸惑いながらも了承するアリス。
ナイトにジョブチェンジして、サンクレッドと対峙する。
睨み合う2人。
先制を掛けたのはサンクレッドだった。
そこから激しい攻防戦が始まる。
その様子を見守る6人。
激しく攻撃を繰り出すサンクレッドとは対照的に、アリスは盾で防戦一方だった。
だが、アリスの表情を見る限り、焦っている様子はなかった。
何かを見据えているような瞳。
攻撃を仕掛けてこないアリスに、サンクレッドは攻撃の手を止めずに言った。

「どうした?攻撃を防いでるだけじゃ、俺は倒せないぞ!」

サンクレッドの挑発する様な言葉。
それでもアリスの姿勢は変わらない。
その状態が長く続いていた次の瞬間、アリスがサンクレッドのガンブレードを片手剣で止めた。
ギチギチと刃と刃が擦れ合う。
そこから、戦況が変わった。
アリスの繰り出す攻撃を、今度はサンクレッドが防ぐ形に変わる。

「アリスの奴、サンクレッドの動きを読む為に様子を見ていたな」

ガウラがボソリと呟く。
それを聞いたアリゼーとアルフィノ、グ·ラハは一斉にガウラの方に振り向いた。
ガウラは2人の手合わせをじっと観察している。
これまで見たことの無いアリスの戦い方に、内心驚いていた。
ガウラの知らないところで、アリスなりに鍛えていたのだろう。
暁に入ると決意したアリスの本気が伝わってくる。
すると、サンクレッドがアリスと距離を置いた。

「奥の手を出させてもらう!」

そう言うと、サンクレッドの姿が見えなくなった。
観ていた者達のほとんどが驚いたが、ヤ·シュトラだけは冷静だった。

「普通の人なら、この技は有効かもしれないけれど、相手が悪いわ」

そのヤ·シュトラの言葉通り、アリスは驚きも戸惑いもしなかった。

「サンクレッドさん。その技、俺には通用しませんよ」

アリスはそう言うと、ホーリースピリットを放った。

「ぐわっ!!」

魔法を食らったサンクレッドが姿を表す。
そこにすかさず、アリスは盾を構えて突進した。

「!?」

派手に突き飛ばされ、ゴロゴロと転がるサンクレッド。
呆気に取られる5人。

「彼、エーテル視が出来ると言っていたわ。姿を消しても、エーテルだけは消せないものよ」

ヤ·シュトラの解説に、ガウラは納得した。
アリスの右目は視力を持たない。
その代わりエーテル視が出来る。
ヤ·シュトラの言う通り、あの技を使うには分が悪い相手だ。

「流石、ガウラが実力を認めてるだけはあるな」

そう言って立ち上がるサンクレッド。
その顔は、実に楽しそうだ。

「アリス。お前、元々忍者だったんだろ?」
「はい。そうですけど」
「そっちの方が動きやすいんじゃないのか?」
「….…」

アリスは答えない。
だが、サンクレッドにはそれが肯定を意味すると悟っていた。

「どうせなら、忍者で手合わせしたい」
「…………分かりました」

アリスは双剣に武器を持ち替えた。
ガラリと雰囲気が変わる。

「顔付きが変わったな…、寒気がしそうだ」

そう言いながらも嬉々とし、武器を構えるサンクレッド。
そして、今度はアリスから攻撃を仕掛けた。
嵐のように繰り出される斬撃を捌くので手一杯になるサンクレッド。
隙を見てサンクレッドも攻撃を繰り出すが、大きく距離を取られ避けられ、また激しい攻撃を繰り出され、押されていく。
そのアリスの動きに、既視感を覚えるガウラ。

「……ヴァル……」

それは、ヴァルの動きそのものだった。
そういえば、ここの所、ガウラが予定がない日は、必ず何処かに出かけていたヴァル。
おそらく、アリスに頼み込まれ、訓練をしていた可能性があるのではと推測した。
その時、「わっ!」と声が上がる。
ガウラを除く5人が、驚いた顔をしていた。
その視線の先を見ると、決着が着いていた。
サンクレッドの背後を取り、首に当てられた双剣。
両手を軽く挙げ、「参った」と言うサンクレッド。
今まで認識していた実力より、高くなった戦闘能力に、ガウラも驚きを隠せなかった。
6人の元に戻ってくる2人。
アリスの能力の高さに、暁のメンバーが褒め称え、照れ笑いをするアリス。

「でも、さすがに疲れました」
「そりゃ、立て続けに3戦もすれば疲れるだろ」

アリスの言葉に、ガウラが答える。
すると、アリスの腹の虫が鳴った。

「ははは…、お腹も空いたみたいです」

恥ずかしそうに笑うアリス。
その後、石の家に戻り、タタルが作った昼食を摂った。
暁のメンバーと会話に花を咲かせるアリス。
それを、横目で眺めながら、ガウラは考えに耽るのだった。



とある冒険者の手記

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