V.それは誰の為


ゴブレットビュートにあるアパルトメント。
その一室にヴァルはいた。
何故、ヴァルがアパルトメントを持っているかと言うと、ガウラと接触して間もない時に、動きやすさを考えて冒険者登録をし、GCに所属したのをきっかけに、暗殺家業の拠点にしていたからだった。
一族の掟が無くなり、自由になってからは、部屋の掃除をしに来るだけになっていた。

ヴァルは、ある人物を待っていた。
玄関の扉がノックされる。
扉を開いた先に居たのはザナだった。
ザナはヴァルの姿を見て、溜め息を吐いた。

「やっぱ、男の姿か……」
「余程のことがない限り、女に戻るつもりは無い」

キッパリと言い放ち、"さっさと入れ"と彼を促す。
肩を落としながら室内に入るザナ。
そして、本題に入った。

「で、今日俺を呼び出した要件は?」
「お前に被検体になって欲しい」
「ひ、被検体??」

あまり良いイメージの無い言葉に、ザナはたじろぐ。

「あぁ。特殊メイクの練習台になって欲しいんだ」
「な、なんだ。そういう事か…、なら最初からそう言ってくれよ。俺はてっきり、ヤバい薬を飲まされるのかと思ったよ」
「それは悪かったな」

悪びれる様子もなく、ヴァルは道具をテーブルに並べていく。
ザナは肩を竦めながら言った。

「それで?なんだって特殊メイクの練習をするんだ?」
「ガウラの為だ」
「あー……」

その言葉だけで納得した。
だが、何故特殊メイクが必要かは深くは聞かない。
ザナは黙ってヴァルの指示を待った。

「上半身を出せ」
「分かった」

抵抗することなく、ザナは上半身を露わにする。
その背中は程よく筋肉が付いているが、左側に大きな傷があった。
ヴァルは、その傷を隠すように、特殊メイクを施していく。
作業が終わると、激しく動くように指示を出した。
それに従うザナ。
最初は何も無かったが、5分もすれば特殊メイクは剥がれ落ちてしまった。

「まぁ、こうなるか…」

剥がれた特殊メイクの一部を手に取り、手触りを確認する。

「…なるほどな…」

メイクの仕方を変え、何度も何度も同じ事を繰り返す。
ヴァルの納得する出来にするのに、時間がかかるのは分かっていたようで、また後日練習台になる事を頼み、その日は終わった。

それから、何日もかけながら、特殊メイクを理想に近づけていく。
簡単にメイクが落ちなくなってからは、どんな環境でも対応出来るかの確認。
対応出来なければ、またメイクの仕方を変えてを繰り返していく。

そして、季節は夏にさし掛かろうかと言う時、特殊メイクの最終確認の為、ヴァルとザナは海へと来ていた。

「俺はここで大暴れすればいいんだな?」
「あぁ」

ザナの言葉に短く答えるヴァル。
それを聞いたザナは首を鳴らし、腕を回した。

「よし!行くぜっ!!」

ザナは、手始めに近くにいるシェル系のモンスターを狩り始める。
彼の強さなら簡単に倒せる魔物だが、これは特殊メイクの確認であるため、ワザと攻撃を食らったり、大袈裟に避けて砂浜を転がったりする。
それが終わると、今度は海の中にダイブし、泳ぎ始める。
そして、数分泳いで戻ってきたザナはヴァルの元に戻ってきた。
ヴァルはメイクの状態を確認する。

「うん。良い状態だ」

満面の笑みで言う。
メイクは剥がれることも、落ちることも無い状態であった。

「耐久も、防水も問題ないし、砂にも暑さにも耐えられる…完璧だ」
「そうかい、満足出来たならよかったよ」

満足気に言うヴァルに、苦笑しながら答えたザナ。

そのヴァルの表情は、ザナも見た事がないほど嬉しそうだった。



とある冒険者の手記

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