V.善は急げ



「……これが、僕の答えだ」


顔を赤くして、オレを見つめながら言われた。

紅蓮祭から、そう日にちも経っていないその日の夜。

オレが寛いでいる隣に座った彼女が、ぽつり、ぽつりと自身の想いを語り出した。

そして、両手でオレの顔を包み、額にキスをし、先程の言葉を口にした。


正直、こんなに早く答えが貰えるとは思っていなかった。

彼女の変化には気が付いてはいたが、下手をしたら答えは一生貰えない可能性も少なからずあった。


だが、彼女は答えてくれた。


「僕だって、答えが出るとは思わなんだ」


と最後に言った彼女の顔は、赤みを残しながらもスッキリとした表情を浮かべていた。


オレはきっと、この日を一生忘れることは無いだろう

そして、これから続くであろう日々も忘れることは無い



************



答えを貰ってから数日後。

男になってからは初めて行くランチデート。

初めて2人でランチに行ってから、ちょくちょくランチの約束を取って、一緒に行くようになっていた。

待ち合わせ場所に向かうと、前方に彼女の姿を見つけた……が、表情が引きつっているのが分かった。

そして、彼女の目の前にはエレゼンの男がニヤニヤしながら何かを話しかけているのが見て取れた。

そして、男の手が彼女の方に伸び始めたのを見た瞬間、縮地で一気に距離を詰め、男の腕を掴んだ。


「ヴァル!?」

「なっ、なんだお前は?!」


突然現れたオレに2人は驚いていたが、それに構わず男を睨みつけた。


「彼女に手を出すなっ」


地を這うような声で言うと、掴んでいる手に力が入りすぎたのか、男は痛みを訴える。


「痛い!痛い!分かった!分かったから!離してくれぇ!」


情けない声を聞いて手を離すと、男は“ひぃ~~っ!!“と更に情けない声を上げて逃げていった。

そして、彼女の方に振り向く。


「大丈夫か?ガウラ」

「あ、あぁ。大丈夫だ。助けてくれてありがとう」


ホッとした表情で微笑む彼女に、オレも胸を撫で下ろす。


「いやぁ、フロンティアドレスみたいな可愛い服だと絡まれると思って、普段とそこまで変わらない服にしたんだけど…、それでも絡まれるとは思わなかったよ」


苦笑しながら語る彼女。

全く…、本当に自分の魅力には疎いと言うか…、なんというか…。

オレは内心溜め息を吐きながら、彼女に近寄る。


「なぁ、知ってるかい?想い人がいる女性は、知らず知らずのうちに綺麗になるんだって」

「へっ?」

「いつも言ってるだろ?女としての魅力を自覚しろって。恋人が出来たんだから、その魅力が増して見る目のある奴らが寄ってくるんだろ」

「…んなバカな…」


何を言ってるんだと言う顔をする彼女に、オレは目を真っ直ぐ見つめて言った。


「嘘だと思うか?それまで、こんな事あったか?」

「………ない」

「だろ?武器を持っていれば冒険者だと思って下手な事はしてこないだろうけど、武器を持ってなければ一般市民だと思って簡単に寄ってくる。だから、気をつけてくれ」

「う、うん。わかったよ」


少し浮かない表情で頷く彼女。

このままでは、楽しいランチが台無しになるのは目に見えている。

オレは彼女の手を取り、手の甲にキスをした。


「?!」


顔を真っ赤にし、驚く彼女。

その様子に自分の顔の筋肉が緩むのが分かった。


「さぁ、行こうか」

「う、うん」


頬を赤くしたまま、手を引かれて歩く彼女。

それだけで、今日の予定は楽しい1日になりそうだった。



************



ランチを終え、ラベンダーベッドへと向かう途中。

オレは足を止めた。

それに気づき、彼女も足を止める。


「どうした?」


振り返る彼女に、オレは言った。


「エタバン、しようか」


その言葉に、豆鉄砲でも食らった鳩のような顔をする。


「ず、随分唐突だな」

「今日の事で、やっぱり虫除けは必要だと思った」


そう言うと、彼女は困った顔をした。


「で、でも、ほら!私も気持ちを自覚してから日も浅いし…」

「お前は、ずっと一緒に居たいと言ってくれた」

「ゔっ……」


顔を赤らめながら、彼女は気まずそうに俯く。

彼女に歩み寄り、彼女の手の平に小箱を置き、蓋を開ける。

中を見た彼女は、目を丸くする。


「よ、用意周到だな…」


清純の指輪。

エターナルバンドをするのには必須アイテムだ。

それを手に取り、まじまじと観察している。

そして、何かを見つけ彼女はハッとした表情になる。


「て、手作りかい?!」

「もちろん」

「い、いつの間に彫金師を始めたんだい…」

「つい最近だ」


指輪を見つめたままの彼女に、オレは尋ねた。


「受け取ってくれるか?」


長い沈黙の後、彼女は観念したように言った。


「分かったよ。受け取らせてもらう」


隠しきれない照れを隠しながら、素っ気なく答える。

だが、オレにとっては十分な答えだった。


「じゃあ、行こうか」

「何処に?」

「十二神大聖堂」


行き先を告げると、ポカーンと口を開ける。


「善は急げ、と言うだろ?」

「流石に急すぎやしないかい?!」


呆れ気味に言われたが、しれっと言ってやった。


「ただでさえ、お前はじっとしてないからな。時間のあるうちに用事は済ませておきたい。今回を逃したら、次、いつ予定が空くか分かったもんじゃないだろ?」

「……」


痛いところを突かれたのか、黙り込む彼女。


「いやか?」


顔を覗き込むように尋ねると、彼女は赤い顔で言った。


「あーもうっ!わかった!行くよっ!!」


若干ヤケを起こしている姿に、思わず小さく笑ってしまう。


「なに笑ってるんだい!早く行くよ!!」

「あぁ!」


ずんずんと進んでいく彼女に追いつき、手を繋ぐ。

すると、赤面した顔のまま横目でチラリとこちらを見た。

そんな彼女に小さく微笑みを返す。


こうして、十二神大聖堂へ向かい、エターナルバンドの準備と予約をしたのだった。




とある冒険者の手記

FF14、二次創作小説 BL、NL、GL要素有 無断転載禁止

0コメント

  • 1000 / 1000