A.2人の門出を祝す


「お邪魔しまーす」
玄関のドアをノックし、挨拶をして室内に入るアリス。
その後に続いて、ヘリオも室内に入った。
ここは義姉の家。
今日は義姉のガウラではなく、同居人のヴァルに呼ばれて来たのだった。

「来たか…」
「あれ?義姉さんは一緒じゃないんですか?」

ガウラの家だと言うのに、肝心の家主が居ないのを不思議に思ったアリスは、疑問を口にした。
すると、ヴァルは溜め息を吐いた。

「ガウラは相変わらずウルヴズジェイルに籠ってる」
「あー…」

アリスは苦笑いをして納得した。
じっとして居ないのは彼女らしい。
隣でヘリオも苦笑いをしている程だった。

「それで、用って?」
「あぁ、これをお前達に渡しておきたくてな」

手渡されたのは純白の招待状だった。

「これ…エタバンの招待状?」
「あぁ、今度ガウラとエタバンすることになった」
「……えぇっ?!」

予想もしていなかった事に驚いた。
ヴァルがガウラに執着していたのは周知の事実だが、ガウラがヴァルをパートナーとして受け入れたことが意外だったのだ。
各言うヘリオはと言うと、そこまで驚いている様子は無なかった。

「ヘリオは知ってたのか?」
「まぁ、なんとなくは…な」

そんな2人に構わず、ヴァルは話を続けた。

「あと、他の奴らにも招待状を届けて欲しいんだ。リリンとそのパートナー。あと母上にも」
「ヴィラさんにも?」
「あぁ」

それを聞いて、ふとアリスは思い立ったように言った。

「ヴァルさん。あともう一通招待状くれませんか?」
「なぜだ?」
「ヴィラさんに渡すなら、義母さんにも渡したいんです」

理由を聞いて、なるほどと納得したヴァルは、新たに招待状を一通用意し、アリスに手渡した。
用事が終わったアリスは、ヘリオと共に集落跡地へと向かう。
目的地に着くと、ジシャとヴィラが和やかな雰囲気で話し合っていた。
すると、こちらの気配に気がついた2人は、アリス達に手を振った。

「今日は2人揃ってどうしたんだい?」

ジシャの質問にアリスは笑顔で答える。

「郵便配達に来ました!」
「郵便?」
「ヴィラさんにもありますよ!」
「私にも?」

ジシャとヴィラは顔を見合わせた。
アリスは、カバンから預かった招待状を取り出し、2人に手渡した。

「これは…」
「エターナルバンドの招待状です!」

2人は差出人を見て目を見開いた。
驚くのは当然だろう。
自分たちの子供の名前が、連なって記載されていたのだから。

「……そういう事か……」

ヴィラは軽く頭を抱えた。
それを見てジシャが首を傾げる。

「どういうことだい?」
「最後に娘に会った時、男の姿になっていたんだ。本人からは冒険者として活動する為に男になったと聞かされていたんだ」
「ほう?」
「それがまさか、こんな事になるなんて…」

罰が悪そうに頭を掻くヴィラ。

「娘の気持ちを理解はしていた。ヘラの傍に居たいと言う気持ちは、昔からだったから。色恋沙汰に興味が無いのも、ガウラの傍に居る為、使命を全うする為だとも思っていた。掟が無くなれば、友人、または姉妹のように自由な関係になれるとは思っていだが…、まさか恋心を持っていたことは気づかなかった…」
「おや、ヴィラでも気づかなかったのかい?」

小さく笑いながら尋ねるジシャにヴィラは困ったように言った。

「あの子はヘラが産まれて間もない時に、修行をサボってここに来ていてね。その時にヘラを見てから、“可愛い“、“一緒に居たい“と仕切りに言っていたから…」

それを聞いて“ふふっ“と笑いが出るジシャ。

「本人達が同意しての事ならいいんじゃないかい?娘も嫌な相手を傍には置かないだろう?」

ジシャはそう言ってアリス達を見ると、アリスとヘリオは同意する様に頷いた。

「アリス達は、気づいていたのか?」
「いえ、今回招待状を貰って、初めて知りました。ヘリオはなんとなく勘づいていたみたいですけど…」
「そうか…」

ヴィラの質問に正直に答えるアリス。
それを聞いて大きくため息を吐き、複雑な表情で俯いている彼女に、ジシャは口を開いた。

「2人が幸せなら、それでいいんじゃないかい?2つの一族を縛る掟はもう無いんだから」
「……そう…だな」

ジシャに言われて思い直す。
縛る物が無くなり、自由になった今、自分の心のままに生きる事が出来るようになった子が、一緒にいたいと思う大事な人と想いが通じ合ったのだ。
喜び祝福すべきだと。
反対する理由など、1つもないのだから。

「すまない、あまりに予想外で混乱したようだ。2人が幸せなら祝福すべきだな」

笑顔で顔を上げると、ジシャもまた笑顔で返したのだった。


************


用事が終わり、FCハウスに戻ったアリスとヘリオは、リリンとアリシラにも招待状を渡し、ガウラ達のエタバンの日の準備を始めた。

そして、当日。
会場の待合室には、アリス、ヘリオ、リリン、アリシラ、ジシャを抱えたヴィラと、ガウラの親友ナキの姿があった。
そこで、ジシャとナキが会話をしている姿を見て、アリスは改めてナキが白き一族の里の人間なのだと再認識した。
全員が会場に入場し、席に着いたところで、新郎新婦入場のアナウンスが流れる。
扉が開き、ゆっくりと入場してくる主役に参列者は拍手で出迎える。
純白のドレスにブーケを持ったガウラと、純白のタキシードを来たヴァル。
堂々とした面持ちのヴァルに対して、少し緊張しているようなガウラの表情が印象的だった。

何事もなく式は進行し、交流タイムになる頃にはガウラも緊張が溶けたようで、いつも通りになっていた。
参列者から「おめでとう!」と声をかけられる度に、「ありがとう」と少し照れくさそうにお礼を言っていた。

「ガウラおめでとう!すごく綺麗だよ!」
「ナキ!ありがとう!」
「まさか、ヴァルちゃんとエタバンするなんて思って無かったよ!でもお似合い!」
「ははっ、そう言われると照れくさいな」
「ヴァルちゃんもおめでとう!ガウラを宜しくね!」
「あぁ」

ナキの言葉に、笑顔で短く答えるヴァル。
そこに、ジシャを抱えたヴィラが歩み寄る。

「2人ともおめでとう」

声をかけたのはジシャの方だった。

「母さん、ありがとう」
「ありがとうございます、母君」

ガウラは照れくさそうに、ヴァルは軽くお辞儀をしながら答えた。
すると、次はヴィラが口を開く。

「私からも、2人ともおめでとう。ガウラ、貴女とこうして顔を合わせるのは初めてだったね」
「初めまして、ヴァルのお母さん。御足労いただき、ありがとうございます」

ガウラは、ヴィラが肌と目の色が違うだけでヴァルにそっくりだった為、すぐにヴァルの母親だと察したらしかった。

「以前、ジシャと互いの子供達に最愛の人が出来て欲しい、なんて話をしたことがあったが…まさか、その子供同士でパートナーになるとは思ってもみなかったよ」

微笑みながら言うヴィラに、親同士がそんな話をしていたのかと驚き、顔を見合わせる主役の2人。
その2人の様子に母親達は小さく笑う。

「ガウラ、ヴァルは貴女の事になると過保護なところがあるとは思うが、宜しく頼みます」
「ヴァル、私の娘を宜しく頼む」

親からそう言われ、2人は同時に「こちらこそ、宜しくお願いします」と頭を下げた。
それを見て母親達は、また小さく笑った。

「息がピッタリだね」
「ふふっ、まったくね」

そう言われ、ガウラもヴァルも顔を紅くした。

こうして、2人は祝福されながらパートナーになった。

後日、何処からかその情報を聞きつけたアリゼーが大騒ぎし、「なんで貴方も知らせないのよっ!!」と、アリスにまで彼女の怒りが飛び火したのは言うまでもなかった。






とある冒険者の手記

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