V.良いところで邪魔は入る
ガウラがトライヨラへと向かって幾日か経った頃。
1人で彼女の帰りを待ちながら、家の管理をしていたヴァル。
そんな時、リンクシェルが鳴った。
「はい」
「あ、ヴァルかい?」
「ガウラ?どうしたんだ?何かあったか?」
発信元は家主のガウラ。
新たな場所に行く時は、あまり連絡を寄越さない彼女から、連絡が来たことに少し驚きながら尋ねる。
「今、トライヨラ第1王女の王位継承の儀の助っ人をしてるんだよな?」
「あぁ。実はさ、その王女を見てたら、ちょっとだけ自分と重なるものがあってさ」
「そうなのか」
「うん。それで…なんか、声が聞きたくなったと言うか…」
尻すぼみになっていく言葉を聞いて、ヴァルの表情筋が緩む。
きっと、今のガウラは自身の気持ちに戸惑い、それと同時に言葉を口にして恥ずかしさも感じていることだろう。
そんな彼女が愛おしくて堪らない。
「逢いに行こうか?」
「えっ?!」
「ガウラが良ければ、だが」
「あ、うん、私は全然…。ヴァルの方は大丈夫なのかい?」
「あたいはなんの予定も無いから平気だ」
「そ、そうか!じゃあ、トライヨラに着いたら連絡してくれ!」
「了解した」
そこで、遠くの方からガウラを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、そろそろ行くみたいだ」
「気をつけてな」
「うん!ヴァルも気をつけて来てくれな!待ってる!」
「あぁ」
通話を終えると同時に、ヴァルは旅支度をし、トライヨラへと向かった。
***********
ガウラからの連絡から数日経った。
ヴァルは今、トライヨラの桟橋に立っていた。
現在、継承の儀の最中だという事で、警備隊に声を掛けられ立ち往生をしていた。
一応、第1王女の助っ人の知人だと伝えたが、警戒態勢が強いのか信じて貰えず、仕方なくガウラに連絡を取った。
状況を説明すると、「すぐ行く」と返答を貰い、警備兵と待つことになった。
そして数分後、ラフな格好をしたガウラが走って来た。
「ヴァル!」
名前を呼び、ヴァルの元まで来ると、警備兵に事情を説明するガウラ。
そこでやっと納得した警備兵達は、頭を下げて去っていった。
「すまない、手をかけさせた」
「私がここに来た時も、こんな感じだったよ。先にウクラマト経由で話を通しとくんだったよ」
失敗したと言うように苦笑するガウラ。
「それにしても、随分ラフな服装をしてるな?」
「あぁ!ちょうど試練が一区切りついて、次の試練までの休憩って言うので戻ってきてたんだよ」
「なるほどな、それでか」
「とりあえず、宿に案内するよ」
「了解した」
ガウラに案内されながら街の中を歩く。
「活気があって色鮮やかだな。ラザハンとはまた違った鮮やかさだ」
「だよな!私も街をみて同じこと思ったよ!」
テンション高めに返すガウラ。
その顔は、まるで子供のように輝いている。
「他部族国家ってだけあって、色んな部族がいるし、珍しい物も沢山あるし!」
「服装も、初めて見るデザインだよな」
「そうなんだよ!やっぱ、文化が違うと、国で着てる服も違うから、見てるだけで楽しいよ!」
嬉々として語るガウラが微笑ましくて、ヴァルは笑みを浮かべる。
新たな土地で、彼女と同じものを見て語り合える事が嬉しかった。
宿に到着すると、そこはリゾート感満載の水上コテージだった。
「なかなか良い宿だな」
「旅行とかで、新婚さんが泊まりそうな感じだよな」
そんな会話をし、ヴァルもラフな服装に着替える。
着替えを終えると、ソファに座っているガウラの元へ向かい、隣に座る。
すると、ガウラはヴァルに体を預け、首元にスリ寄った。
「最近、甘えん坊だな?」
「強がらなくて良いって言ったのはお前だろう?」
「ふふっ、そうだな」
そう言って、ガウラの頭を優しく撫でる。
気持ちよさそうに至福の表情を浮かべるガウラ。
「ガウラ、逢いたかった」
「…私も…逢いたかった……」
ガウラは小さく返事をした。
その顔は少し照れくさそうであった。
嬉しさと愛おしさに、ヴァルは彼女の左頬にキスをする。
すると、お返しと言わんばかりに、ガウラはヴァルの右頬にキスを返した。
次は唇にキスをする。
何度もキスを交わし、その度にディープなものに変わっていく。
ガウラの気持ちが強く現れているのか、体勢はどんどん押されていき、ついにはヴァルは彼女に押し倒される形になった。
あの事件の前なら考えられない状況に、ヴァルは夢見心地であった。
唇を離し、ヴァルの表情を見たガウラは顔を紅くしながら言った。
「だから…その顔はズルいって……」
「それはお互い様だ…」
"どういう事だ?"と彼女が聞き返す前に、ガウラを抱きしめキスをする。
そんな至福の時間を打ち破るように、ドアがノックされた。
ハッとして、ヴァルから勢いよく身体を離すガウラ。
「はーい!今行くっ!!」
顔を紅くしたまま慌てた様子でドアに向かう。
邪魔をされたヴァルは眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちをした。
ガウラがドアを開けると、そこに立っていたのはアリゼーだった。
「さっき、皆でタコスを食べに行こうって話しになったから、声をかけに来たんだけど…熱でもあるの?」
「へっ?!いや!熱はないよ!!イヤ~!ナンカ今日ハ暑イナ~?ハハっ!」
棒読みで誤魔化すガウラ。
アリゼーは不思議そうな顔をしている。
ヴァルは溜め息を吐き、ガウラの元へ向かった。
そこでアリゼーは、ヴァルの存在に気がついた。
「あら、お客様が来てたの?ごめんなさい」
「あ、いや、大丈夫だよ!」
焦った様子のガウラ。
その顔は、色んな感情が入り交じっている。
「ガウラ」
「な、なんだい?」
「少しこの国を見て回ってくる。あたいの事は気にせず、仲間と食事に行ってこい」
「えっ、でも…」
申し訳なさそうな顔をするガウラの頭を軽くポンポンとし、大丈夫だと言うように短く笑顔を向けた。
そして、ヴァルはアリゼーに軽く会釈をしてその場を後にした。
取り残された2人の間には、暫く沈黙が流れた。
先に口を開いたのはアリゼーだった。
「ねぇ…まさかとは思うけど、あの人…ガウラのパートナー?」
その言葉に、少し気まずそうに頷く。
すると、アリゼーは頭を抱えた。
「なんで来てることを言わないのよ!最悪のタイミングでお邪魔しちゃったじゃない!」
「き、気にしなくていいって!その辺はあいつも分かってるはずだから!」
「それでもよ!もーっ!罰として、ガウラにはパートナーのこと色々聞かせて貰うわよ!」
「えっ!?」
驚くガウラを無視し、アリゼーは"行くわよ!"と言い、ガウラの腕を掴んで皆の待つ場所に向かったのだった。
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