V.存在の大きさ

「今度、不滅隊で遠征訓練をすることになった」


ある日の昼下がり。

ヴァルの話を、ブラックコーヒーを口にしながらガウラは聞いていた。


「新人訓練の一環で、ザナラーン全域を遠征しながら警備するらしい」

「ヴァルも階級上がったもんなぁ。それで、どのくらいの期間になるんだい?」

「だいたい1ヶ月程だそうだ」


そのくらいはかかるよなぁと言った感じで、コーヒーをもう一口。

そんな彼女の様子に、ヴァルは続けた。


「長く家を空けることになるが、あたいが居ないからって羽目を外しすぎたり、無茶したりするなよ?」

「わかってるよ」

「あと、食事もちゃんとバランスを考えること。それから身だしなみも…」

「わかった!わかったから!お前は私の保護者かい?!」

「それだけ、あたいと会う前の生活が目に余るものだったということだ。影から見てて、どれだけあたいがヤキモキしてたか…」

「う"っ……」


気まずそうな顔をする彼女に、小さく笑うヴァル。


「まぁ、昔より料理も上達してるから、しっかり作るとは思っているけどな」

「……出来る限り、ちゃんと作るよ」


少し自信なさそうに言う。


「あと、遠征中は連絡も取れないから、出かける時も注意してくれ」

「…わかった」


それから2週間後に、ヴァルは遠征訓練に向かった。

久しぶりの1人きりの時間。

ガウラは各ジョブのレベリングをすることに決めた。

時間の合う時はアリスも連れてルレ等に行っていたが、1週間で疲労がどっと出たのか、やる気が起きなくなった。

それでも、何かしてないと落ち着かず、ミニオンの手入れや機械系のマウントの整備等をしていたが、それも限度がある。

そして、気づいたことがあった。

当然、手入れや整備は自宅で行っていたのだが、元々広い部屋がそれ以上に広く感じた。

食事時になった時にキッチンに目をやると、いつもあるヴァルの姿が無いことに喪失感を覚えることが多くなった。

普段感じることの無い感覚に、悲しさに似た感情が胸を締め付けた。

1人は慣れているはずだった。

以前は一時的にヘリオと住んでいたことはあったが、彼がアリスと住み始めても、そんな感情は生まれなかった。


(どうして、今になって…)


自分自身の感情が不思議でならなかった。



3週間目には、気持ちを紛らわす為に、ヘリオとアリスに連絡を取り、ウチに泊まりに来ないか?と誘った。

その日の夜は、3人で晩酌をすることにした。

飲み始めると、楽しくて気が紛れた。


「義姉さん、ペース早くないですか?!」

「ん?そうかい?」

「以前、一緒に飲んだ時、そんな早くなかったと思いますけど…」

「気のせいじゃないかい?」


少し心配そうなアリスには構わず、酒を煽る。

ヘリオはその様子に、何か察した様子だった。

案の定と言うべきか、普段よりペースが早かったせいか、割と早い段階で彼女は限界を迎え、テーブルにうつ伏せて寝てしまった。


「あ~ぁ、だから言ったのに…」


アリスは、やはりペースが早かったんだと溜め息を吐く。


「ヘリオ、俺片付けするから義姉さんをベッドに連れてってくれないか?」

「あぁ。確かヴァルの部屋で寝るって言ってたよな?」

「うん、義姉さんのベッドを俺達で使えって言ってた」

「わかった」

「それにしても、義姉さんどうしたんだろ?突然、泊まりに来いとか、珍しいよな」

「…そうだな」


答えながら、ヘリオがガウラを抱えあげると、彼女は小さい呻き声を上げた。


「ううん……ヴァ、ル……」


それを聞いたアリスは目を丸くし、ヘリオは困った奴だと言わんばかりに溜め息を吐く。


「義姉さん、ヴァルさんが居なくて寂しかったのかな…」

「たぶんな」

「ビックリだな…、義姉さんは1人の方が気が楽なのかと思ってたけど…」

「それだけ、ヴァルとの関係が良好って事だろ」

「あー、なるほど」


納得するアリス。

ヘリオはそのまま、ガウラを抱えて2階へと向かった。

それからアリス達は3泊して帰って行った。

再び静かになった家で、天を仰ぎながらボーッとするガウラ。

ヴァルが帰ってくるまでは、まだ1週間以上ある。

大きな溜め息を吐き、テーブルにうつ伏せる。


「なにかの間違いで早く帰って来ないかな……」


こんなに誰かを待ち遠しいと思ったことはなかった。



***********



不滅隊屯所の休憩室。

時刻は深夜。

そこに書類を広げ、報告書を書くヴァルの姿があった。

遠征訓練を予定より3日早く終え、夕方に屯所に戻ってきたのだ。

新人にはゆっくり休むように伝え、自分は休憩室で1ヶ月の訓練の報告書の作成を始めたのだ。

朝になってから作成しても良かったのだが、帰るのが遅くなるのが目に見えていた。

何より、ヴァル自身が少しでも早く家に帰って、最愛の人に逢いたかったのだ。

訓練の合間にとったメモを見ながら、黙々と報告書を書いていく。

すると、不意に声をかけられた。


「あれ?ブラック中闘士じゃないっすか。何してるんっすか?」

「お前は新人の…アランだったか?」


声の主は、今回の訓練に参加した新人のヒューラン族ミッドランダーの男で、冒険者でもあるアランだった。


「美人の上官に名前を覚えてもらえるなんて光栄っすねぇ!」

「無駄口はいい。お前はこんな時間に何をしているんだ?あたいは休めと言ったはずだが?」

「いや~、やっとウルダハに帰って来たんで、女の子と遊んできたんっすよ~」

「………はぁ」


ヴァルは溜め息を吐くと、眉間に皺を寄せて言った。


「プライベートは別に構わないが、訓練中にも女性隊員をナンパしてたよな?」

「ゲッ!見てたんっすか?!」

「当たり前だ。他の隊員から苦情も来てた。この事はしっかり報告書に書かせてもらうからな」

「ひぇ~厳しいこって」


肩を竦めるが、全く反省していない態度で言う。


「ところで、なんで今報告書を書いてるんっすか?明日でも良くないっすか?」


アランの言葉に、作業をしながら返事をした。


「明日に回すと、帰るのが遅くなるからな」

「ふ~ん」


彼は作業をするヴァルをジッと見ている。


「話はそれだけか?気が散るからさっさと就寝しろ」

「へぃへぃ、わかりましたよ~」


そう言って休憩室から出たアランは、顎に手を当てながら部屋に向かう。


「真面目で厳しい美人上官…か」


小さく呟いたあと、ニヤリと笑った。



***********



早朝に報告書を完成させ、提出したヴァルは、シャワーを浴びて眠気を覚まし、身支度を整え、そのままテレポで帰宅した。


「ただいま」


玄関に入った瞬間にそう言ったが、返事はかえって来ない。

エーテルの香りはするので一階にいるのは確かだが…

そのままリビングに足を向けると、俯き気味に椅子に座っているガウラの姿があった。


「起きてたのか。返事がないから寝落ちてるのかと…」


ヴァルの声に、チラっと目線だけを向ける。


「………おかえり」


なんだか不機嫌そうな声色に、ヴァルは首を傾げる。


「ガウラ、どうした?具合でも悪いのか?」


ガウラは首を横に振る。


「じゃあ…、なにか嫌な夢でも見たのか?」


再び首を横に振る。

ヴァルは困った表情になったのを見て、ガウラは少し口を尖らせた。


「……し……かった……」

「…えっ?」


聞き取れず聞き返す素振りをすると、先程よりは大きな声で返事が返ってきた。


「……寂しかった」

「?!」


予想外の返答に、驚いて固まる。

ガウラは目線は合わせず、拗ねた様子で話し出した。


「1人は慣れてると思ってたのに…、なんか変なんだよ。ヴァルがここに居ないってだけで、なんか喪失感があって…今までこんな事なかったから、なんで今更って思ったら……なんかムカついて……」

「それで拗ねてるのか?」

「…そーだよ」


ぶっきらぼうに認めるガウラが可愛くて、小さく笑う。


「何笑ってるんだい」

「すまない、あまりにも可愛らしかったから」

「拗ねてるのに、どこが可愛いんだよ」

「可愛いし愛おしいよ。ガウラが、そんなにあたいを想ってくれてたなんてね」


ヴァルの言葉に、不機嫌な顔のまま赤くなる。


「それで、どうしたら機嫌を治してくれるんだ?」

「………わからない」

「そうか…じゃあ、機嫌が治るまで何でも言う事を聞こうか」

「なんでも?」

「あぁ、なんでも」


すると、ガウラは少し考え込んだ後、小さく呟いた。


「……とりあえず、ヴァルのご飯が食べたい………」


それを聞いたヴァルは、小さく笑いながら「わかった」と言い、荷物を置いてエプロンを着け、キッチンに立った。

その姿を見て、ヴァルの存在が自分にとって、とても大きな存在になっていたことに気がついた。

その日は、離れていた時間を埋めるように、ガウラはヴァルに甘えるように傍にいたのだった。

とある冒険者の手記

FF14、二次創作小説 BL、NL、GL要素有 無断転載禁止

0コメント

  • 1000 / 1000