A.双剣士ギルド
故郷を出てから1週間、俺はリムサ・ロミンサの地に降り立った。
賑わう港に、少々殺気も混じってるのは海賊も混じってるからなのか、独特の雰囲気が印象的だった。
キョロキョロと辺りを見渡す俺の姿は、完全に田舎者のおノボリさんに見えたことだろう。
一通り街の中を探索し、地理を頭に叩き込み、溺れた海豚亭で一休み。
少し早めの昼食を摂っていると、1人の男性がカウンターから出てきて話しかけてきた。
「お兄さん、新顔だね。冒険者志望だったりするのかい?」
その人はバデロンと名乗った。
どうやら冒険者ギルドの受付をしているらしかった。
俺は事情を説明し、冒険者志望では無いことを伝えた。
「そうかい、海賊の父親を探すために田舎から出てきたって訳かい」
「はい。到着して街を見て休憩して、これから情報収集しようかと…」
「相手は海賊だからなぁ、あまり目立った行動はお勧めできないが…」
「大丈夫です。身を守る術は身につけてるので」
「だがなぁ…」と難色を示すバデロンさん。
でも、父さんを探す為には避けられない事だ。
俺は食事を終えると、そのまま聞き込みを開始した。
海賊と取引していそうな商人や、海賊に直接声をかけたり、色んな人に父さんの名前を出して聞き込みをした。
夜は外の木の上に登り、木の上で野宿をした。
そんな生活を1週間続けていたある日、漁師ギルドの船着き場の前でそれは起きた。
「お前か、俺たち海賊の事を嗅ぎ回ってんのは」
振り向くと、そこには数名の海賊。
海賊の父さんを探しているのをよく思わない輩が出てくるのは想定していただけに、驚きもしなかった。
「はい。そうですけど」
「何が目的だ」
「父さんを探してるんです」
「嘘つけ!本当の目的を言いやがれ!」
「だーかーらーっ!!アクアってミコッテ族の海賊を探してるんです!!」
しばらく押し問答をした後、痺れを切らした海賊が襲いかかってきた。
それを素早く避け、相手の急所に攻撃を叩き込んだ。
それを見て、残った海賊は伸された仲間を引きずりながら「覚えてろよー!」とベタな捨て台詞を吐き捨てて去って行った。
大きく溜め息を吐いていると、「お兄さん、なかなか肝が座ってるな」と声をかけられた。
そこには、緑の服を身にまとった男性が立っていた。
「あなたは?」
「俺はジャック。あんた、海賊を探してるんだって?」
「そんなに噂が広まってるんですか…」
「ここいらじゃ、海賊を直接探そうって奴はなかなか居ないしな。それに新顔なら尚更だ」
「なるほど…」
見慣れない顔の奴が、海賊を探そうとしてたら、こうなるのは当然かと、納得していると、ジャックさんはマジマジと俺の顔を覗き込む。
「?なんですか?」
「あんた、海賊を探してるって、なんか恨みでもあるのか?」
「いえ、赤子の時以来、姿を見せなくなった父親を探してるんです」
「父親……あんた、それ以外に直接的に海賊と関わりがあるか?」
「ありません。母親が亡くなって、1人になったので父がどんな人なのか知りたくて探してるんです」
「なるほどな…そういう事なら、あんた双剣士ギルドに入って見ないか?」
「双剣士ギルド?」
聞き慣れない職業に首を傾げると、ジャックさんは「立ち話もなんだから」と倉庫番に話をして、俺を中に招いた。
入るとそこは倉庫ではなかった。
双剣を腰に着けた人達が、室内で思い思いに行動していた。
「まぁ、かけてくれ」
「はい、失礼します」
促され、椅子に腰掛ける。
そして、双剣士ギルドとは何なのかを説明し始めた。
表では処理できない、裏世界の取締役。
規則を守らない海賊を、追い詰め、問題を解決する集団らしい。
「まぁ、その昔は「命をも盗むシーフ」なんて名前で恐れられてたけどな」
「…」
少し物騒な話に、なんと答えていいか分からなくなる。
「で、どうだい?ここなら海賊の情報は自然と入ってくるし、あんたの腕っ節なら、なかなか良い戦力になってくれそうなんだが…」
「えっと…」
「夜は野宿をしてるんだろ?ここなら、衣食住も保証されてる。悪い話では無いと思うんだが」
言われて俺は考え込んだ。
自然と情報が入ってくるなら、さっきの様な、個人で危険な目に合うことはないだろう。
確かに悪い話では無い…が。
「俺に…務まりますかね?」
「最初のうちは皆出来なくて当たり前さ。新人育成も大事な仕事だしな」
「そうですか…」
そこまで言って貰えるならと、俺はその話を受け、その日から双剣士ギルドの一員として、ラノシア地方を駆け巡ることとなったのだった。
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