A.暗黒騎士との出会い
双剣士の任務で、俺はエールポートに来ていた。
名前しか知らない海賊の父親の手がかりを求めて入った双剣士ギルド。
規則を守らない海賊を裏から取り締まる任務中、通り過ぎた人物に目が離せなくなった。
大剣を背負った、白銀に黄色いメッシュの入った髪に、その髪の色と同じ色をしたオッドアイのミコッテ。
ボーッとその人物を見つめていると、「おい!ターゲットを見失うぞ!」と仲間に声をかけられ我に返った。
「あ、すみません!」
そう言って、もう一度だけそのミコッテがいた方に目をやると、既にその人物はいなくなっていた。
それからというもの、寝ても醒めても、その人物の事が頭から離れなくなった。
あの人は冒険者なのだろうか?
任務中でなければ、声をかけたかった。
この広いエオルゼアで、もう一度逢うことは出来るのだろうか?
そんな思いが頭の中を駆け巡っていた。
そんな時、耳にした英雄と呼ばれるほどの偉業を成した冒険者の噂。
その冒険者はガウラさんと言うらしい。
女ながらに帝国からエオルゼアを救い、イシュガルドの1000年戦争を終結させたという。
俺も冒険者になってそれなりに有名になれば、父さんから気がついてくれるかもしれない。
そして、世界を巡っていれば、あの時見かけたミコッテにも会えるかもしれない。
そう思ったら居ても経っても居られず、ギルドマスターのジャックさんに事情を説明し、冒険者になる事を許してもらった。
それから数ヶ月後、忍者として冒険をしている途中。
ザナラーンで、あのミコッテを見かけた。
どう声をかけていいか分からず、物陰に隠れながら後をつけていたが、あっさりと気づかれてしまった。
「…忍者、の割には全く気配が消えていないな。尾行するなら堂々と来るか本気で隠れてもらわないと」
中途半端だぞ、と言われ仕方なく相手の前に姿を現す。
気配に気づくほど、相手の実力があったのは誤算だったと、苦笑い。
すると、相手は迷惑そうな顔をしながら口を開いた。
「用はなんだ、俺も忙しいんだが」
「いやー、その。大剣、珍しいなって…」
折角、話が出来るチャンスだと言うのに、気の利いた言葉が出てこなかった。
「暗黒騎士は滅多に表に出ないからな」
「そっかぁ」
「………」
暗黒騎士…、噂にしか聞いた事のなかったジョブ。
そうか、彼は暗黒騎士なのか…
次の言葉を考えていると、相手はさっさと立ち去ろうとしていた。
俺は咄嗟に口を開いた。
「あ、俺フ・アリス・ティア!あなた名前は?」
せめて名前だけでも知りたいと思って、自分の名を名乗った。だが…
「……知らない奴に安易に名乗るなと、幼い頃に習わなかったか?」
「む」
冷たく返され、思わずムッとした。
その間に、彼は立ち去ってしまった。
くっそ!絶対に名前聞き出してやる!
もう、意地だった。
折角のチャンス、逃してなるものかと、必死に情報を集め、彼を追った。
チャンスが巡ってきたのは永久焦土の防衛が始まった時だった。
彼の姿を見つけ、意を決して声をかける。
「こんにちは!」
「またあんたか」
やれやれと言った感じで返される。
ここでしり込みしていたら、また逃げられかねない。
俺は笑顔で答えた。
「俺、まだあなたの名前聞いてませんから」
「教えてどうなると言うんだ」
「別にどうとはないけど…記憶に残るでしょう?」
「ほう」
「だから知りたいんですよ」
教えてくれません?と笑顔を崩さずに続けた。
これで断られても、諦めない。そんな決心でいた。
すると、彼は一瞬諦めた表情をした。
「…ヘリオ・リガンだ」
名乗ってくれた感動と、名前の響きの良さに「おおおおお…」と、思わず声が出た。
「なんだその腑抜けた声は」
怪訝そうな顔をする彼。
俺は嬉しくて仕方がなかった。
「いい名前だなーって…あ、ヘリオ先輩って呼びますね!」
「先輩!?」
俺の先輩発言に、驚いた表情をする。
こんな可愛い顔するんだな、この人。
「はい!いかにも俺よりたくさん冒険者してそうなので!」
「………勝手にしろ」
ぶっきらぼうに返されたが、嫌な気分ではなかった。
お近付きになれる第1歩を踏み出せた喜びで、俺の胸はいっぱいだった。
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