C.トラウマの克服のために
異国情緒溢れるクガネの冒険者居住区、シロガネ。
そこにある1件のSハウスの前に、カルは立っていた。
「此処で、合ってるみたいですね」
手に持った書類とサインボードを確認して、そう呟く。
彼が何故、此処にいるのかと言うと、トラウマ克服の為、双蛇党の計らいで、とある冒険者とペアを組むことになったのだった。
今日は初顔合わせ。
少し、緊張した面持ちで玄関のドアをノックした。
「はいはーい」
声が聞こえドアが開くと、中年の男のミコッテが姿を現した。
種族はムーンキーパー。歳は30代前半だろうか?
薄紫色の髪に、紫の瞳。何とも優しそうな顔をしている。
「初めまして、双蛇党から配属されたカル·ア·カルムです」
「あー、君が!俺はサラン·リ·ラリオル。立ち話もなんですから、中へどうぞ」
「お邪魔します」
促され、部屋の中へと入る。
室内は男の一人暮らしにしては、綺麗に片付いていた。
「適当に座ってください」
「はい、失礼します」
ソファに腰掛けると、サランもその隣に座った。
「カル、だったね。歳は?」
「19です」
「…若いなぁ…」
「サランさん、敬語はいいですよ。僕の方が年下ですから」
「そ、そうかい?なら…」
そう言って、サランは敬語を使うのを辞めた。
「それで、双蛇党から話は聞いてるが、戦場に行けないのは何か訳があるのかい?」
「はい…実は…」
カルは自身の身の上を話し始めた。
すると、サランは「なるほどなぁ」と頷いた。
「トラウマってモンはなかなか拭いされないからなぁ。ま、ゆっくり克服できるようにやっていこうか」
「お手数おかけします。サランさんが優しい人で良かった」
「そうかい?」
カルに言われて、少し照れくさそうな表情をするサラン。
「きっと、サランさんのご家族も、優しい人なんでしょうね」
カルの言葉に、サランは表情を曇らせた。
「いや、そんなことは無いよ」
「え?」
「俺には兄が2人いるんだが、2人にかなり虐められてな」
「そうだったんですか…。すみません、嫌な事を思い出させてしまって」
予想外の暗い過去に、カルは慌てて謝った。
すると、サランは苦笑しながら答えた。
「気にしなくていいさ、今は冒険者になって自由気ままな生活を送ってるから」
「サランさんは、強いですね」
「それなりに苦労はあったけどねぇ。終わりよければなんとやらだよ」
その言葉に小さく笑うカル。
「そう言えば、カルは住むところはあるのか?」
「いえ、いつも宿で寝泊まりしてます」
「そうかぁ…、ならお互いをよく知るために、ここで暮らしてみるかい?」
「えっ?!」
突然の申し出に驚くカル。
サランはそれを気にせず話を続ける。
「一緒に暮らしてればトラウマ解消のヒントも出てくるかもしれないしねぇ。こう言うのは時間をかけて取り除いていくものだから、一緒に暮らした方が効率はいいんじゃないかなぁ」
「いいんですか?」
「構わないさ」
笑顔で言われ、カルはそれならと居候をさせてもらうことを決めた。
「よろしくお願いします。サランさん」
「こちらこそ、よろしく!」
こうして、カルのトラウマ克服の為の生活が始まったのだった。
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