A.抑えられぬ想い
ヘリオさんに告白してから1ヶ月が経った。
あれから、自分自身が何となく気不味くて、連絡をしていなかった。
─冒険者仲間以上の感情を意識した事がない─
あの言葉がずっと胸に刺さったまま、時々ズキズキと痛む。
その痛みを感じる度に、諦めようと努めたが、「好き」という気持ちはどんどん膨れ上がる一方だった。
そして悩んだ末、もう一度ヘリオさんと話してみようと決めた。
丁度、ウルヴズジェイルで行われているPvPがどんなものなのか気になっていたので、案内板を見ながらリンクシェルで連絡をした。
すると、ヘリオさんは丁寧にPvPの種類とルールを教えてくれた。
案内板を確認しながら説明を聞き、分からない事を聞くとすぐに返ってくる声。
─逢いたい─
そんな気持ちが溢れ出す。
でも、それをグッと堪えた。
だいたい内容を把握出来たところでお礼を言って通信を切る。
案内板を見ながら、教えて貰ったことを頭の中で反芻し、イメージを作る。それが終わり、「よしっ!やるぞ!」と気合いを入れてその場を移動しようと視界を隣に動かすと、そこにはヘリオさんの姿があった。
「うえ!?へ、ヘリオさん?!」
「お、やっと気がついたな」
なぜ、彼がここにいるのか分からず動揺する。
「な、なんでここに…?」
「暇だったしな。あんた、いつも初めての事に挑戦する時、不安そうにしてるから、一緒の方がいいと思ってな」
その言葉に胸が締め付けられる。
どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう。
でもきっと、これは誰にでもする気遣いなのだろう。
自分にだけじゃない…。
そう、自分に言い聞かせる。
「ありがとうございます!実はかなり不安だったんです」
俺が苦笑いしながらそう言うと、「だと思ったよ」と返すヘリオさん。
「不安なら呼べばよかったのに…、珍しいじゃないか」
「あ、えっと…、ヘリオさんも忙しいのに迷惑かなぁって思って…」
「迷惑だったら、あんな風に説明しないし、連絡も受けないさ」
心の中で「そういう意味じゃないんだけどなぁ」と思いながらも、気遣いが心に染みていく。
「じゃあ、行きましょう!」
「おう!」
俺らはヒドゥンゴージへと繰り出した。
何戦かしたが、俺のメンタルはボロボロだった。
魔物や野党とは違い、歴戦の冒険者が相手となると、まったく動きが違ってくる。
大人数同士での陣取り争いに、どこから飛んでくるか分からない攻撃。
でも、近接の俺は敵に近づかなければならないが、周りが把握出来ず何度も戦闘不能になった。
最終的に水汲みの役目しか出来なかったのである。
「うぅ…なかなか難しい…」
「最初のうちはそんなもんだ。回数こなして慣れてくしかない」
誰もが通る道だと肩に手を置かれ、ヘリオさんの顔を見ると、少し苦笑いをしていた。
夕日を背にしたその姿と表情に見惚れる。
その瞬間、俺はヘリオさんに口付けをしていた。
唇を離した時に見えたヘリオさんの顔は、大きく目を見開きキョトンとした表情をしていた。
それを見た瞬間、ハッと我に返った。
「ご、ごめんなさい!お、俺、何やってんだ…っ!」
自分の行動に慌てふためく。
キョトンとしたまま固まっているヘリオさん。
「お、俺、もう一度ヒドゥンゴージに行ってきます!ほ、本当にごめんなさいっ!!」
一気に捲し立てて、俺はヒドゥンゴージへと走って逃げたのだった。
************
アリスの姿が見えなくなったあと、取り残されたヘリオは唖然としていた。
何が起こったのか分からない。
─今、あいつは俺に何をした??─
凹んでいるアリスをフォローしていた。肩に手を置いた時に振り向いたアリスの顔。
目を細め、熱っぽく愛おしそうな表情をしているのを見て、息を呑んだ。
そして、次の瞬間には目の前にアリスの顔と、唇には柔らかい感触。
そして、真っ赤な顔をしながらパニックを起こしたアリス。
恐らく、無意識の行動だったのだろうが…
「…キス…された…のか……?」
何をされたのかしっかりと認識した途端、顔が一気に熱を持ち、思わず口元を片手で覆ったのだった。
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