A.宝石の名前
帰省中の船の中で、商人に声をかけられた。
聞けば商品を見て欲しいとの事だった。
移動中の船の中でも時間を無駄にしたくないと言う、その商売根性に感心しながら、「見るだけなら」と商品を見せてもらうことにした。
どうやらアクセサリーを取り扱っているらしく、様々なデザインのアクセサリーを並べられた。
その中で一際目を引くものを見つけた。
シンプルで、どんな服にも合わせやすそうなデザインで、キラキラと光る黄色い宝石を使ったイヤリング。
─ヘリオの瞳の色に似てる─
直感的に思って思わず手に取ると、商人は決まり文句の「お兄さんお目が高い!」を言い出した。
「そのイヤリングに使われている宝石は、神からの贈り物と言われてる宝石なんだよ!希望や幸福をもたらし、新しいことに挑戦する後押しをしてくれるとも言われてるんだ!」
「へぇ~、そうなんですね」
黄色い宝石に見惚れていて、それ以上の説明が何も聞こえていなかった。
イヤリングを購入し、割り振られた船室でイヤリングを身につける。
揺れる度にキラキラ光るイヤリングに満足した。
***********
故郷で用事を終わらせた俺は、帰る身支度をしていた。
1年ぶりに帰った故郷では、到着した途端に人が集まり、元気だったか?と皆が声をかけてきた。
質問に答えていると、目ざとくエターナルリングを見つけられ、俺がパートナーを作った事を驚かれ、祝福された。
そして、村の祭りが近いこともあってか、案の定、祭りの手伝いと祭りの舞を踊って欲しいと言われ、結局2週間程家を空けることになってしまった。
荷物を纏め終え、家を出ると、皆が見送りに出てきてくれていた。
「もう行くのかい?」
「はい!パートナーも待ってますし」
俺の言葉に、ルガディンのおじさんはニヤニヤしながら言った。
「おうおう!お熱いねぇ!パートナーが寂しがってるってか?」
「違いますっ!あの人は寂しがるような人じゃないんで…、むしろ、俺が早く逢いたくて…」
うっかり口を滑らせた事に気がついたが遅かった。
ルガディンおじさんや、集まってる人のほとんどがニヤニヤして俺を見ていた。
俺は自分の顔が、熱くなるのを感じた。
「お、俺、もう行きますね!」
「次来る時はパートナー連れて来いよ!」
そんなやりとりをしていると、リンクパールが鳴る。
出ると、それはヘリオからだった。
「ヘリオ!ちょうど良かった!これからそっちに帰るところだったんだ!」
『そうか、何時に戻ってくるのか聞こうと思ってかけたんだが、今からか』
「うん!今、リング使って帰ろうとしてたんだけど、大丈夫か?」
『あぁ、問題ないぞ』
「わかった!じゃあ、一旦切るよ」
通信を切ると、また皆からのニヤニヤとした視線が突き刺さる。
「やっぱり、お熱いじゃねぇか」
「もー!からかうの辞めてくださいっ!!俺帰りますから!!」
ルガディンのおじさんの言葉で皆一斉に笑い出した。
俺はそそくさとエターナルリングを使って、ヘリオの元へと飛ぶ。
一瞬で視界が変わる。
目の前にヘリオの姿が現れた。
「おかえり」
相変わらずの無表情だが、優しい声で言われ、俺は「ただいま!」と勢いよくヘリオを抱きしめた。
「うわっ!!」
「逢いたかったぁ~」
「あ、アリスッ!!」
じたばたと藻掻くヘリオ。
「あんた、周りをよく見ろっ!!」
「へ?周り?」
言われて見渡すと、そこはガウラさんの家の前で、目を丸くして俺を見ているガウラさんの姿があった。
「あ………」
俺が家を空ける間は、ヘリオがガウラさんの家に居ることをすっかり失念していた俺は、固まった。
すると、ガウラさんはフッ微笑んだ。
「微笑ましいねえ」
その言葉に一気に顔が熱を持つ。
慌ててヘリオから体を離し、苦笑いをしながら「ただいま戻りました」と言うと「はい、おかえり」と返事が来た。
そして、ガウラさんは俺をジッと見て、少し呆れた口調で言った。
「微笑ましいついでに、アリス、お前恥ずかしい奴だな」
「面目ない…ガウラさんの目の前でこんな…」
「違う違う、お前のそのイヤリングだよ」
「え?イヤリング?」
イヤリングの何故恥ずかしいのか、よく分からず聞き返す。
「そのイヤリングの宝石、ヘリオドールだろ」
「え?!そんな名前の宝石なんですか?!」
「…お前、名前を知らないで身につけてたのかい?」
「はい…、色がヘリオの瞳に似てるなぁって思って…」
そこまで言って、また口を滑らせたと両手で口を塞ぐ。
ガウラさんはそれを見聞きし、「どっちにしろ恥ずかしい奴だな」と苦笑した。
ヘリオはと言うと、照れくささのオンパレードだった様で、片手で顔を覆い、そっぽを向いていた。
俺も恥ずかしさで俯いていると、ガウラさんは「じゃ、私はこれから出かけるからな」と去って行った。
後日、ヘリオドールを調べると商人が言っていた宝石の詳細と同じ事が書いてあり、1人で恥ずかしさに悶絶したのだった。
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