A.紅く染まった右目
振りかざされた神龍の大きく鋭い爪が、振り下ろされた。
咄嗟に避けはしたが、判断が一瞬遅かったのか、爪は右目をかする。
「ぐあっ!!」
視界が紅く染り、激痛が走る。
周りを見ると、激戦で皆手が空かない状態だった。
咄嗟にポーションを右目に乱暴にかけ、左目に着けていた眼帯を右目に着け直し、そのまま戦いに戻る。
そして、なんとか神龍を討伐し、皆が思い思いに喜んだ。
「いやぁ、一度倒した相手とはいえ、追体験で再戦すると、やはり手強いもんだね」
と、ガウラさんが声をかけてきた。
「どうだった?初の神龍戦は……?」
振り向いて答えようとすると、俺の顔を見たガウラさんは険しい顔をした。
「…おい」
「はい?」
「眼帯外せ」
逆らえない雰囲気に、おずおずと眼帯を外した。
抑えられていた傷口が開き、ダラダラと血液が流れ出す。
「このアホっ!!」
怒鳴られ、俺の体が硬直する。
「ヒラさん!こいつに回復をっ!!」
「は、はいっ!!」
ヒラさんが俺に駆け寄り、回復魔法をかける。
傷口が塞がり、回復を終える。
「怪我した目は見えるのか?」
そう聞かれ、片方の目を隠してみるが、視界は赤黒く染まったまま何も見えなかった。
それを伝えると、ガウラさんは握りこぶしを震わせながら怒り始めた。
「この大馬鹿者!!怪我をしたならちゃんと回復をして貰え!!」
あまりの剣幕に咄嗟に正座をする俺。
「まともに回復をしないまま戦って、出血多量で死んだらどうするんだっ!!」
「す…すみません…」
「戦ってりゃ怪我をするのは仕方ないけれど、それを放置して無茶をするなっ!!」
「はい…すみません…」
人に怒られたのは初めてだった。
でも、ガウラさんの表情を見ていると、本気で心配してくれているからこそ、怒ってくれているのが伝わった。
その事が嬉しくもあり、同時に無茶をした事を後悔した。
謝る以外に言葉が見つからず、俯いたままでいると、「姉さん、そのぐらいにしとけ」とヘリオの声が聞こえた。
「アリスも反省してるみたいだしな」
「ヘリオ、お前は甘いんだよ」
怒りが収まらない様子のガウラさんを宥めるヘリオ。
俺は立ち上がった。
「ガウラさん…」
「あん?」
「心配かけてすみませんでした。こんなことは二度としません」
そう言って頭を下げると、ガウラさんは「その言葉、忘れるなよ」と言い、その場を去って行った。
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