A.未熟さ
それは、アリスが白魔道士のレベリングをしている時だった。
ダンジョンに行けるようになるまでは、F.A.T.E.で経験値を稼ごうと、黒衣森を走り回っていた。
そんな時、野党に追われている少女を見つけ、助けに入った。
野党を自分に引き付け、少女を逃がしたまでは良かったが、レベルの低い白魔道士では使える術も少なく、あっという間に魔力は枯渇していった。
焦ったアリスは、慣れた忍者にジョブチェンジをしたが、相手は多数。
そして、白魔道士の時にかなりダメージを食らっており、ボロボロの状態だった。
その状態から、野党を何人か戦闘不能にさせたが、1人で何とか出来る数でもなく、隙を見て撤退した。
そして、物陰に隠れ、野党たちが自分を探しているのを確認しつつ、何とかこの場を脱しなければと頭を巡らせていると、左の薬指に収まっているエターナルリングに気がついた。
指輪を使えば、魔力を消費することは無い。
アリスは迷わず、指輪を使ってテレポした。
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ゴブレットビュートにあるアパルトメントの一室。
アリスの部屋で、珍しくゆっくりと過ごしているヘリオの姿があった。
そんな時、指輪からエーテルの流れを感じた。
アリスの帰宅を感じたヘリオは、帰ってきた時のアリスの行動を予想して、軽く身構えていた。
だが、そこに現れたのはアリスの予想外の姿だった。
あちこち傷だらけで、肩には矢を受けた跡があり、そこから鮮血が流れていた。
いつも無表情のヘリオも、この時ばかりは驚きと焦りが表情に表れていた。
「アリスッ!?」
「…ヘリ……オ……」
ヘリオの顔を見て気が抜けたのか、その場に両膝を着いて倒れ込む。
それを慌てて抱きとめるヘリオ。
「あんた、また無茶したなっ?!」
「…ごめん…」
「話は後で聞く!先に手当だっ!」
ヘリオはアリスを支え、椅子に座らせた。
ウラエウスコートを脱がせ、怪我の状態を見る。
軽いものが多いが、深い傷も幾つかある。
だが、傷の割には出血が止まらない。
色んな可能性を考えていると、アリスが咳き込み、吐血した。
「毒も食らってるのか?!」
今、手持ちに解毒薬は無い。
だが、このままだとアリスの生死に関わる。
あまり魔力を使いたくはなかったが、ヘリオはイシュガルドにいた時に少し齧った占星術師にジョブチェンジをした。
天球儀を使いエスナをかけた後、ベネフィラを唱え傷の治療をする。
傷が完全に治療され、アリスの様子が落ち着いた辺りで、ヘリオは何があったかを問いただした。
そして、事情を聞いたヘリオは大きく溜め息を吐いた。
戦いの中で、咄嗟の判断をするのは経験がモノを言う。
アリスは冒険者としては日が浅いのは理解していたが、あまりにも自己犠牲が強すぎる。
少し前にアリスが故郷に帰省し、帰ってきた時に昔の話を聞いた。
病弱な母と暮らしていた事。
周りの大人達に生活の術を教えてもらい、1人で何でもこなしていた事。
その“1人でやらなきゃ“が身体にも思考にも染み付いているのだろうと、簡単に予想がついた。
そう考えれば、少し前に追体験の神龍戦で、右目を怪我した時に痩せ我慢をしたのも頷けた。
「咄嗟の判断は経験がモノを言う。冒険者として日が浅いあんたは、一つのことに突っ走りすぎる。それは仕方の無い事だとは思うが、そんなボロボロの姿を見るこっちの気持ちも考えてくれ」
「……ごめん……」
申し訳なさそうに俯いて謝るアリスに、ヘリオは小さく溜め息を吐くと、アリスの肩を軽く叩いた。
「人を助けるのは良いが、1人の時は自分の無事を優先して行動しろ。PTを組んでる時は周りを頼れ。分かったな?」
「…うん。気をつける」
そんな会話をし、その後は部屋でゆっくりと過ごした。
アリスにとって、未熟さを痛感する出来事であった。
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