A.アリスの受難


[巴術士がレベル30になりました!!]

そんなメッセージがトームストーンのFCチャットに届いたのは、ギラバニア湖畔地帯のアラミガンクォーターで、パートナーのヘリオの手伝いをしていた時だった。
送信元は、冒険者になりたてのアカネさんだ。

「アカネさん、巴術士30になったって。学者と召喚士どっちやるんだろう?」

チャットに「おめでとう」と打ちながら、隣にいるヘリオに話しかける。

「さぁな、だが、どっちにしろ今までと勝手が違くなるから、慣れさせるのにルレとか誘ってみるか?」

同じくチャットに返信をしながら答えるヘリオ。

「これから風脈とも思ったが、今日ルレ行ってないし、アリスも上げたいジョブがあるんだろ?」
「そうだな…」

たしかに、タンク系のジョブ、もしくは赤魔道士のレベルを上げたいと思ってたし、俺も今日の分のルレに行っていなかった。

「よし!じゃあアカネさんに声掛けてつれてくか!」
「あぁ」

トームストーンでアカネさんの居場所を確認し、そっちに行くことを伝え、俺たちはリムサ・ロミンサへとテレポした。


**********


「あ!アリスくん!こっちこっち!!」
「アカネさん!久しぶり!」

アカネさんとは、色々と忙しくて、1ヶ月ほど顔を合わせてなかった。
彼女はふと、俺の横に視線を動かした。

「ひょっとして、お隣はヘリオさん?」
「どうも、初めましてヘリオです」
「あれ?アカネさん、ヘリオと初対面だっけ?」
「そうだよ!ヘリオさん初めまして!アカネと申します!お話は色々聞いてますよ♪︎」

アカネさんの言葉に、ヘリオは横目で俺を見ながら「ほぉ~」と何を話したんだと言わんばかりのオーラを放った。
うぅっ、特別変な事は話してないのに、なんでそんなオーラ出すんだよぉ~
慌てた俺は、話を本題に持ってくことにした。

「さっき、ヘリオと話してたんだけど、上級職慣れるのに3人でルレに行かないかって思ってたんだ!」

アカネさんは「う~ん」と考えてから

「実は今、止まってるIDがあるのよね」
「なるほどな、じゃあ、そこに行ってからルレでも良さそうだな」
「ちなみに、どこのID?」

すると、アカネさんはトームストーンでIDを確認した。

「えっと~、ハウケタ御用邸」

その言葉に、俺は完全に石化した。

「おう!行こうぜ!」

満面の笑みを浮かべてヘリオが答えた。
俺が顔だけをヘリオに向けると、イタズラ心に火がついた顔をしていた。

「え?なんだなんだ?!」

状況が掴めていない彼女に、ヘリオがニヤニヤしたまま言った。

「特別何かあるってわけじゃないが、ただ、アリスがそこのIDが苦手ってだけだ」

2人の視線を感じ、俺は顔を背けながら「俺、ホラー苦手……」と絞り出すように答えた。
そんな俺をよそに、ヘリオはササッと武器を大剣から弓に持ち替えた。

「アリス、あんたタンクな!」
「う~、わかった………」

断れない空気に、俺は致し方なく武器を双剣から大剣に持ち替えた。
つか、暗黒騎士メインにしてる人の前で暗黒騎士やるって、結構緊張するなぁ……
それなりにタンクの動きを覚えてきてはいるが、やっぱ本職者には適わないわけで……
後で分からないこと、ヘリオに聞こ……

「よしっ!!じゃあ、行くか!!」

俺は自分を奮い立たせ、PTを組み、ハウケタ御用邸を申請した。
そして、館に入ってすぐ、ヘリオがとあることに気がついた。

「アカネ、ソウルクリスタルは?」
「え?」

声をかけられ、顔をヘリオに向けるアカネさん。

「これって装備してなきゃマズかった?」
「それ装備してないと、上級職扱いにならないぞ」

あー…、新米あるある。
実は俺もやったことがある。

「ここ終わったら、装備しておくといい」
「わかった!」

2人のやり取りがひと段落着いたのを確認して、俺は「じゃあ、行くぞ!」と屋敷の中を駆け出した。


*********


「あ~、何とかなったな~」

ハウケタのボスを倒し、少しある待機時間。
野良の冒険者さんが去ったあと、俺は脱力した。

「そうだ、ここ行かなくていい部屋あるから、残り時間でマップ踏破行くか」

唐突なヘリオの言葉に思わず「へ?」っと、間の抜けた声が出た。

「アカネは後からゆっくり部屋を回ってくれ。俺らは敵を一掃しながら鍵開けてくから」
「はーい!」
「よし!アリス、行くぞ!」

言い終えると即座にボスの部屋を走って出ていくヘリオ。

「ま、待ってくれよー!」

慌ててその後を追った。
なんか、こうやって置いてかれるの何回かあったな……
大広間前の通路で何とかヘリオに追いつき、ホッとしていると、ヘリオはおもむろに通路奥の敵を顎で指し示した。

「アリス」
「ん?」
「あれするぞ」
「はい?」
すると、ヘリオは敵を大きく指さした。
「GO!」
「そういう事かよー!」

ヘリオの掛け声で、要求するものを察した俺は、叫びながら敵へと走り出す。
敵の1匹にアンメンドを放ち、集まってきた周りの敵をアンリーシュで巻き込み、ヘイトコンボを叩き込む。
経験上、この辺のレベルのIDはヘイト安定しないことが多いので、コンボの合間合間にアンリーシュを繰り出す。
にしても、ヒラがいない状態だと、HPの削られ方が半端ない!
なんとかその場の敵を一掃したものの、戦闘不能になるギリギリ手前な状態だった。

「し、死ぬかと思った……」

肩でゼーハーと呼吸していると、休憩する間もなく「行くぞ!」との声。
顔を上げると地下へと走っていくヘリオの姿…。

「わわわっ!ちょっと待った!」
「待機時間少ないんだから、待ってる時間はないぞ!」
「ひぃ~っ!」

慌ててヘリオを追い掛ける。
前方にまた敵の姿が見えてくると、ヘリオは立ち止まり。

「アリス!GO!」
「うぉぉぉおおおおおおっ!!」

立ち止まってるヘリオを追い抜き、敵に向かって走っていき、アンメンドを放つ。
地下に残っている敵を一掃して、全ての牢屋を開ける。

「地下はこれで終わりだな」
「そ、そうだな……」

手を膝に付き、上がった息を整えながら答えた。

「そう言えば、2階は開けたのか?」
「いや……敵いたし、さすがに1人じゃ死ぬから行ってない…」
「そうか、じゃあ行くぞ!時間ない!」
「ひぃ~っ!」

また走り出すヘリオ。
情けない声を上げながら追いかけたところでタイムアップ。
館から元いたリムサにテレポさせられた。

「間に合わなかったな」
「さ、さすがにあれはキツイだろ……」
「アリスくん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……多分……」

俺はその場に座り込み、深呼吸をして息を整えた。

「ヘリオ、マップ踏破するなら、制限解除で行った方が早くないか?」
「敵をリンチすればいいか?」

俺の言葉に、ヘリオは物凄く楽しそうな表情をして、弓から大剣に持ち替える。

ヘリオサン、アナタ、楽シソウデスネ……

「解除で行くなら、俺も本職の忍者にするか。その方が若干移動速度も早いしな」

俺は、早々に武器を双剣に持ち替える。

「あ、アカネさん、ソウルクリスタル今のうちに装備しないと」
「あ、そうだった!」

俺が言うと、荷物から学者と召喚士のソウルクリスタルを取り出すアカネさん。

「これでいいのかな?」
「あぁ、ギアセットも登録しとくといい」
「はーい!」

ヘリオの言葉に、アカネさんは元気よく返事をして作業に入った。

「ハウケタ入ったら、全釣りするから、2人とも下手に攻撃しないようにな」
「わかった!」
「じゃあ、俺はその後を鍵拾いながら開けて走るわ」
「頼んだぞ、アリス。アカネはあとからゆっくり部屋を回ってマップを埋めてくれ」
「うん!よろしくお願いします!」
「よし!準備できた!」
「私も!」
「じゃあ、行くぞー」

俺たちは再び、ハウケタ御用邸へと足を踏み入れたのだった。


*********


「マジかよ………」

制限解除でハウケタ御用邸を終えた後、本来の目的であるレベルレを申請したのだが………
飛ばされたところは

ハウケタ御用邸

「なんでまたここなんだよぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!!」

屋敷の中に俺の叫びが木霊した瞬間、ヘリオとアカネさんの笑い声が響いたのだった。



とある冒険者の手記

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