A.酒は飲んでも呑まれるな


「ヘリオ~ただいまぁ~♪」

ご機嫌でアパルトメントの自室に帰って来たアリス。
その足取りは、少しフラフラしていた。

「お…、おかえり…」

既にパジャマに着替え、これから寝ようとしていたヘリオは、アリスの様子に驚いていた。

「珍しいな…、アンタがそんなに酔って帰ってくるなんて…、初めてじゃないか?」

アリスから臭う酒の香りで、どこかで飲んできたのは分かったが、アリスがフラフラになって帰ってきたのは初めてだった。

「へへへ~♪そうなんだよ~、実はさ~クイックサンドで軽く飲んでたらさ~、フレさん達が続々と集まってきてさ~、気がついたらどれだけ飲めるか大会が始まってさ~♪」

上機嫌で語るアリス

「全員さぁ~、酔い潰れっちゃったよ~♪」
「そうか…良かったな…」

ケラケラと笑うアリスに、半ば呆れながらヘリオは答え、コップに水を汲む。
酒に強いアリスがここまで酔ってるとなると、相当飲んだのだろう。
ヘリオは、水の入ったコップを差し出した。

「ほら、水」

差し出されたコップに、一瞬キョトンとしたが、直ぐに笑顔になった。

「ありがとヘリオ♡」

屈託のない笑顔に、ヘリオは不覚にも「可愛い」と思ってしまった。
それに気づかない様子で、アリスは一気に水を飲み干した。
それを見て、やれやれと言った表情のヘリオ。

「あ、ヘリオはもう寝るんだろ?着替えてるし」
「あぁ、そのつもりだが?」
「俺もすぐに着替えてベッドに行くよ~」
「わかった、先に行ってるぞ」

アリスの酔っ払い加減に、若干の不安を覚えつつも、ヘリオはベッドのあるロフトを上る。
そんなことは露知らず、アリスはサッと服を脱ぎパジャマをクローゼットから取りだし、着替えを始める。
パジャマに着替えたアリスは、フラフラしながらロフトへの階段を上った。
残り2~3段という所で、階段につまづき、よろけた。

「うわっ!!」
「!?」

ベッドに座っていたヘリオは、慌ててアリスに駆け寄る。

「大丈夫か?つか、飲みすぎだ。危なっかしい…」
「あははっ、ゴメン」
「ほら掴まれ」

差し出された手に、苦笑いをしながら「ありがと」と言って、手をとる。
何とか立ち上がったアリスは、フラフラとしていた。
その様子に、さすがに心配になるヘリオ。

「アンタ、本当に大丈夫か?」 
「だぁーいじょーぶ…」

言いながらヘリオに顔を向けると、心配そうに顔を覗き込まれていた。
近い距離にあるヘリオの顔に、思わず見惚れる。

(綺麗だなぁ~)

「何だ?人の顔をじっと見て…」

じーっと見つめられ、ヘリオは不思議そうな表情を浮かべる。
すると、アリスはヘリオの頬に手を添え、キスをした。
突然の出来事に、ヘリオは一瞬思考が停止する。
酒の香りと共に、2度目のキスをされたところで、状況を理解したヘリオは、顔を真っ赤にしながら抵抗を始めた。

「ちょっ!アリスっ!」

抗議の言葉を発しようにも、何度もキスをされ言葉にならない。
何とか押しのけようとしても、体格差なのか、はたまた相手が酔っていて力の加減ができてないのかビクともしない。
なんとかキスから逃れようと、身体を後ろに逸らして後退すると、ベッドの縁に足を取られ、そのまま2人はベッドに倒れ込んだ。

「「うわっ!」」

ヘリオに覆い被さるように倒れてしまったアリスは、身体を少し起こし、「ヘリオ、大丈夫?」と声をかけた。

「~~~~っ」

押し倒されたような状態のまま、ヘリオは片手で頭を抱えた。
その仕草のせいで首筋が無防備になる。
アリスは、色白の首筋に吸い寄せられるように唇を押し付け、強く吸った。

「なっ!?」

あまりの出来事に、流石のヘリオも落ち着いては居られなかった。

「おい!アリス!ふざけるのもいい加減にしろっ!」

じたばたともがくヘリオ。
アリスはそこから動こうとしない。

「おいって!」

強く呼びかけても何の反応も無い。

「…?アリス?」

様子がおかしいと、アリスを見ると、なんと寝息を立てて寝ていた。

「……は?」

あまりの急展開っぷりに、呆気に取られる。

(お…重い…)

「アリス!起きろ!こんな状態で寝るな!」

アリスの身体を揺するが、起きる様子は全くなかった。


**********


朝日が差し込み、眩しさに目が覚めた。

「んあ…ここ…俺の部屋…?」

アリスは上半身を起こすと、頭をガンガンするような痛みに襲われる。

「~っ」

思わず頭を押さえる。
昨晩、クイックサンドでフレンド達と飲んでいたのは覚えているが、途中から記憶がなく、どうやって帰ってきたのかも分からない状態だった。

「とりあえず、起きよう…」

ガンガンする頭を擦りながらロフトを降りると、キッチンから良い香りが漂う。
顔を覗かせ、朝食を作っているヘリオに声をかけた。

「ヘリオおはよ~…」

すると、いつもなら返ってくる挨拶の代わりに、不機嫌そうな顔を向けられた。

「ヘ、ヘリオ…なんか怒ってる?」

聞いても冷ややかな視線しか返って来ない。
さすがに焦るアリス。

「ひょっとして俺、昨日酔って迷惑かけたのか?!だとしたらゴメン!昨日、途中から記憶がなくてっ!」
「記、憶、が、な、い?」

ヘリオの表情がさらに厳しくなる。

「そーかそーか、じゃあ、帰ってきてから何をしたのか全く記憶にないと?」
「……はい…、ごめんなさい…」

今にも泣き出しそうな顔で俯くアリスに、ヘリオは大きなため息を吐いた。

「じゃあ、これを見たら分かるか?」
「え?」

ヘリオは首に着けていたチョーカーを外した。
その首筋には、くっきりと付いた紅い痣。
それを見た瞬間、アリスの顔から血の気が一気に引いた。
その反応を見て、本当に記憶が無いと確信したヘリオは、昨晩あったことを話した。
すると、アリスはその場に正座をし、土下座をした。

「ヘリオ!本っっっっ当にゴメン!!」

その勢いに呆気にとられ、怒りが吹き飛んでしまったヘリオは、ため息を吐きながら言った。

「まぁ、今回が初めてだしな、多目に見るが…」
「…はい…」
「次からは程々にしとけよ?」
「…わかりました…」

上半身を起こし、正座したまましゅんとしているアリスの頭を、ヘリオはポンポンとした。

「朝食出来たから食べるぞ」

ヘリオはそう言って、朝食を皿に盛りにコンロに戻る。
アリスは立ち上がり、ヘリオを後ろから抱きしめた。
「ヘリオ…、本当にゴメン…」
ヘリオは「もういい」と言うように、アリスの腕をトントンと軽く叩いた。
その日から、アリスは家で酒を飲むようになったのだった。



とある冒険者の手記

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