A.誕生日プレゼント


ウルダハにある宝飾店。
ズラリと並ぶ宝石を使ったアクセサリーを見て、俺は頭を悩ませていた。
ヘリオとエタバンをして7ヶ月。
最近ではやっと呼び捨てに慣れてきた。
そして、今月はヘリオの誕生日。
何か自分に縁のある物をプレゼントしたくて、宝飾店に足を運んだのだが、決まらない。
この前、故郷に帰省した時に、何か見てくれば良かったと後悔しつつも、その時は誕生日を知らなかったので思いつきもしなかった。
誕生日を知ったのはつい最近。
それから、ずっと何をプレゼントしようか悩んでいた。

「う~ん…」

頭を捻りながら宝飾店を後にし、マーケットに向かう。

自分に縁のあるもの……
リムレーン……
海………

マーケットを漁ってみるも、リムレーン関係は魚か家具しかなく、難航を極めた。
悩みながらウルダハの街を歩いていると、ドンッと誰かにぶつかった。

「きゃっ!」
「あっ!すみませんっ!…あれ?セレンディピティーさん?」

そこに居たのは彫金師ギルドのマスターだった。

「あら、フ·アリスさんじゃないですか」
「ご無沙汰してます!すみません、考え事しててぶつかってしまって…」

彼女は「お気になさらず」と笑顔で返した。

「ところで、考え事をしてたと言ってましたが、何かお悩みですか?」
「あぁ、実は…」

俺は事情を話した。
すると、彼女はなるほどと言う表情をする。

「パートナーへの贈り物をそんなに真剣に悩まれるなんで素晴らしいことです!」
「あ、いや、そんな」
「そういえば、フ·アリスさんが彫金師ギルドの門を叩いたのも、プロポーズする為に清純の指輪を手作りしたいって理由でしたね」
「は、恥ずかしいのでその話は辞めてください」
「なぜです?とても素敵じゃないですか!」

彼女は目を輝かせて言った。

「パートナーがいらっしゃるって事は、プロポーズは成功したんですね!」
「はい、星2月の5日に式を挙げました」
「わー!素敵!」
嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
「それで、パートナーの方に自分の縁のあるものをプレゼントしたいとの事でしたね」
「はい、でも、いい物が見つからなくて…」
「そういえば、フ·アリスさんは守護神がリムレーンでしたっけ?」
「はい、あと、出身が漁村なので、海に纏わる何かがあればと…」
「なるほど…」

彼女はうーんと考え込む。
すると、何か閃いたように顔を上げた。

「ご自分で作るって言うのはどうでしょう?」
「え?」
「フ·アリスさん、手先が器用なので既存のものではなく、オリジナルの物を作ってプレゼントをしてみては?」
「なるほど…」

自分でデザインして作る。
そんな事、考えたこと無かったな。

「海に纏わる物も取り入れたいなら、水を意味する名前の付いたアクアマリンを使うのもいいと思います」
「アドバイスありがとうございます!頑張って作ってみます!」

「その意気ですよ!」と、彼女は言って、その場を去っていった。
俺は、材料を揃えるために再びマーケットへと向かったのだった。

ウルダハの宿屋で紙とペンを持ち、考える。

「アクセサリーは荷物圧迫するよなぁ。邪魔にならない物がいいよなぁ」

邪魔にならず、いつでも持っていられるもの…
そんな時、アーマリーチェストに付いた、ネームプレートチャームが視界に入った。

「そうだ!これだ!」

俺は紙にペンを走らせる。
長方形のプレートの上部中央にアクアマリンを埋め込み、残りのスペースにリムレーンのマークを彫る。
そのプレートに細くて短いチェーンと留め具を付けて、カバン等にぶら下げられる、至ってシンプルなデザインにした。

「シンプル過ぎる気はするけど、あまり凝りすぎると、他のものと合わせづらくなるしな」

デザインが決まり、俺はその日から日中は宿に籠り、プレゼントの製作に取り掛かった。


ヘリオの誕生日当日、なんとかプレゼントが完成した。
シンプルなもの程難しいとは、よく言ったものだ。
リムレーンのマークを彫るのに何度も失敗して、完成が予定よりかなり時間がかかってしまった。

「さて、最後の仕上げだな」

俺はリムサへテレポし、アンカーヤードへ向かう。
そして、そこにあるリムレーンの石碑に、プレートを手に握ったまま祈りを捧げる。
すると、石碑が光り、プレートに加護が付与された。
それを確認した俺は、プレゼントケースにそれを収めた。
そのままビスマルクに寄り、予約して作って貰っていたバースデーケーキとオードブルを受け取り、テレポでアパルトメントへ移動。
ここ数日、食事と睡眠の為だけに帰っていたアパルトメントに、この時間に帰るのは久しぶりだった。

「さ、へリオが帰ってくる前に準備しないとな!」

俺はお祝いの準備を始めた。


「ただいま」
「ハッビーバースデー!」

ヘリオの帰宅と同時に、特大クラッカーを鳴らす。
豆鉄砲をくらった様な顔をするヘリオ。

「な、なんだ…突然…」
「今日、ヘリオ誕生日だろ?」
「え、あ、あぁ…」

かなり戸惑っている様子に、不安になる。

「今日、霊5月の18日だよな?」
「あぁ、合ってるぞ」

まだ、キョトンとした表情をしているヘリオ。

「良かった、日付勘違いしてたらどうしようかと思ったよ」
「あ、あぁ、悪い。突然の事で驚いた」

「こう言うのに慣れてないんだ」と、ヘリオは苦笑した。
そして、テーブルに並べられた料理を見て、目を丸くする。

「随分豪華だな」
「そりゃ、お祝いだからな!さ!座って座って!」

ヘリオを席に座らせ、バースデーケーキのロウソクに火をつける。
部屋の灯りを消して、バースデーソングを歌う。
ヘリオはロウソクの火消す。
灯りを付けて、改めて「おめでとう」と言うと、ヘリオは照れくさそうに笑った。

「はい!誕生日プレゼント!」
「プレゼントまで用意してたのか…」
「当然!」
「開けていいか?」
「どーぞどーぞ!」

プレゼントを開ける様子を、ドキドキしながら眺める。
容器を開けた瞬間、「ほう」と言う表情をする。

「これは、まさか自分で作ったのか?」
「うん。いつも持ち歩けて、邪魔にならない物って思って」
「このマークはリムレーンか?」
「そそ!リムレーンの加護も付与してあるから、まぁ、お守り的な感じかな」

「へへっ」と笑うと、ヘリオは「有難く使わせてもらう」と微笑んだ。

「ところで、誕生日なんてどこで知ったんだ?姉さんにでも聞いたのか?」
「うん!この前、他愛のない話をしてた時に聞いて……あ」
「どうした?」

俺は軽く頭を抱えた。

「プレゼント作るのに熱中し過ぎて、ガウラさんへのプレゼント考えてなかった…」
「あーあ」

ヘリオは「まぁ、そこまで気にしなくても平気だとは思うがな」と苦笑しながら言った。

後日、ガウラさんには老舗のアップルパイをプレゼントした。
「気を使わなくて良いのに」と嬉しそうにアップルパイを受け取ってくれた。
俺の隣で笑いを堪えているヘリオ。
ヘリオの様子で、俺がプレゼントを忘れていたと言うのがバレるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのは言うまでもなかった。






とある冒険者の手記

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