A.塔の上の魔女
黒衣森の奥深く、人が立ち入らない鬱蒼とした場所に小さな集落と、その近くには高く聳え立つ塔があった。
俺がなぜここにいるかと言うと、双蛇党からの依頼で、内容は森の調査である。
人が踏み入れない森の奥がどうなっているのか?それを確かめてきて欲しいとの事。
俺は愛方のヘリオを連れて、森の奥に入り3日目にここにたどり着いたのだった。
「こんな所に集落か…、あの塔はなんだろう?」
「さあな。だが、外界と繋がりがない所を見ると、独自の文化や風習があったりするから、警戒はしておいた方がいいかもな」
ヘリオの言葉に気を引き締めて集落内に足を踏み入れる。
すると、1人の老人が俺たちを見るなり、感動した表情をして近づいてきた。
「おおっ!これは!神はワシらを見捨てはしなかった!」
「「はい?」」
突然の訳の分からない言葉に、俺とヘリオの声がハモる。
「皆の者!救世主様が現れなさったぞ!」
老人の言葉に、家から次々と人が出てきた。
「き、救世主?」
「なんのことだ?」
困惑している俺たちに、老人が話し始めた。
「どうか、我らをお救い下さい!あそこに見える塔には、恐ろしい魔女が住んで居るのです」
「…魔女?」
「はい、塔の中に恐ろしい魔物を飼っていまして、いつその魔物がこの集落を襲うかと思うと、恐ろしくて夜も眠れないのです」
その話を聞いて、ヘリオと顔を見合わせる。
お互いに、なんだか腑に落ちない、そんな表情をしていた。
「わかりました。とりあえず調査、という形で塔に行ってみます」
「本当ですか!ありがたい!」
集落の人達に見送られ、塔へと足を進める。
「安請け合いして良かったのか?」
ヘリオの言葉に「んー…」と唸りながら答える。
「あのままだと、帰してくれそうに無かったしな。モンスターが居るなら殲滅しておいた方がいいだろ?」
「それはそうだが…」
「それにさ、塔の内部を知るのも調査のうち!」
「……」
「あとさ、なーんか胡散臭さを感じたんだよな。何か隠してる感じがして」
「あんたもか…」
仮に、悪い魔女がいたとしたら、とっくにあんな集落なんて簡単に消せるだろうし、それこそグリダニアの方まで被害があってもおかしくは無い。
あの集落の人達は何を恐れているのか?
なぜ、襲われてもいないのに、恐怖に駆られているのか?
辻褄の合わない疑問ばかりだ。
それを知るためにも、塔の調査は必要不可欠だと考えた。
「真相を探るためにも、塔に行ってみないと…だろ?」
「あまり、厄介事に首を突っ込むのはどうかと思うが、仕方ない」
そんな会話をしながら、塔へと向かう。
集落の近くにあるのかと思ったが、辿り着くのに意外と時間がかかった。
塔の前に到着し、改めて見上げると、結構な高さと、おどろおどろしさがあった。
「け、結構雰囲気があるな……」
俺の少し震えた声に、ヘリオが笑いを堪えている。
「笑うなよ…」
「いや、相変わらずだなと思ってな」
「仕方ないだろ!怖いもんは怖いんだから…」
「それでも、行くんだろ?」
「調査だからな…」
「くくっ、臆病なんだか勇気があるんだか」
「むぅ~!笑ってないで行くぞ!」
「はいはい」
笑われて恥ずかしくなりながらも、塔の扉に手をかける。
そして、深呼吸をして扉を開けて中に入ると……
「ケケケケケッ!」
「ぎゃぁぁぁあああああああああっ!!!」
目の前に宙に浮いた頭蓋骨がカタカタ音をたてながら笑っていた。
驚きのあまり、思わず叫びながらヘリオに抱きついた。
「こ、こらっ!抱きつくなっ!よく見ろ!これは幻影だぞ!」
「へ?」
ヘリオの言葉に、恐る恐る視線を戻すと、先程の頭蓋骨が壁を出たり入ったりしていた。
「ほ、本物のお化けとかじゃなくて?」
「あぁ、疑うなら魔法で攻撃してみろ。当たらずにすり抜けるはずだ」
半信半疑で赤魔にジョブチェンジをし、ヴァルサンダーを放つ。
すると、ヘリオの言う通りに魔法の雷は頭蓋骨を貫通し床に落ちた。
「ほんとだ…」
「幻影を使ってまで人払いをしたい何かが、この塔にはあるって事だな」
ヘリオの言葉に同意見だった。
一体、この塔には何があるのか?
気味の悪い幻影に、ちょいちょい驚きながらも、塔の階段を昇る。
どれほどの時間がかかっただろうか?階段が終わった先に1つの扉が現れた。
俺はヘリオとアイコンタクトをし、ゆっくりと扉を開けた。
「え……?」
俺は目を疑った。
そこに居たのは、床に着くほど長く、淡い水色の髪をしたミコッテ族の女の子。
こちらに気づく様子もなく、床に座り込んで本を読んでいた。
「…女の子……?」
あまりに予想外の出来事に固まって居ると、少女がこちらに気がついた。
「きゃっ!」
少女は、俺等を見ると驚いて家具の後ろに隠れた。
「お、お兄ちゃん達、誰?!」
「え!あ!俺達怪しいものじゃな……」
「リリンに手を出すなクポーーーーーーっ!!」
「あだぁっ!!」
説明をしようとした直後に、別の部屋の扉が開き、1匹のモーグリが俺の顔面目掛けて突撃。
見事にそれを食らった俺はそのまま、後ろに倒れそうになった。
「アリス!大丈夫か?」
すんでのところで、真後ろにいたヘリオが支えてくれて、倒れるのを免れた。
「だ、大丈夫……」
「お前達は何者クポ?!リリンをいじめに来た悪いやつクポ?!」
「ち、違う!とにかく落ち着いて話を聞いてくれ!」
俺は事の経緯を話した。
「場合に寄っては、って事も考えてはいたけど、どう見てもその子は悪さをしてるようには見えないし、一体なんで集落の人達はあんなに怯えているんだ?」
すると、モーグリは少し考える素振りをした後、少女を別室へと促し、俺達は部屋の外に移動させられた。
「集落とリリンの話をするクポ。あの子には聞かせたくないクポ」
「分かった」
モーグリはポツリポツリと話し始めた。
事の始まりは、この塔の前で赤子を連れた女性に出会った事だったらしい。
その女性は、「娘を、リリンをお願いします」と言って、モーグリに赤子を託し、何かから逃げるように去っていったという。
モーグリは仕方なく、赤子を塔の上の部屋まで運び、面倒を見ることにした。
だが、人間の子供を育てたことのないモーグリは、集落に子育ての様子を見に行った。
そこで耳にした噂話しは驚くべき内容だった。
集落はその昔、魔力の暴走によって滅びかけた事があるらしい。
それ以来、集落で大きな魔力を持つ赤子が生まれると、魔力の暴走を恐れて命を奪っていたという。
そして、託された赤子の家はその魔力を持った者を見極める能力を持った一族だったらしい。
そんな一族から大きな魔力を持った赤子が生まれてしまった。
習わしにより、赤子の処刑日を決めていた矢先に、母親と赤子が失踪。
父親は、母親と赤子逃がした罪を着せられ、集落の者に処刑されたと言う。
その話を聞いたモーグリは、集落の人間に赤子が見つかったら危ないと思い、塔の中に幻影を放ち、少女を守っていたらしい。
「リリンの母親は生きているかどうかは分からないクポ」
「なるほどな…でも、幻影だけなら、集落の人達はどうして魔女がいるなんて言っていたんだ?」
「それは数年前に、集落の人が塔の中に入ってきたクポ。その時に魔女の塔から立ち去れって言って追い払ったことがあるクポ」
「それが原因か……」
魔女の経緯は納得した。
あの少女、リリンちゃんの生い立ちも分かった。
だが、魔力は制御出来るものだ。
その術を学べないこの環境は、あまりにも彼女のこの先の人生を考えると、不憫でならなかった。
「なぁ、あの子を外の世界に連れ出したらダメか?」
「クポ?!」
「アリス、お前はまた…」
「だって!可哀想じゃないか!魔力は使い方さえ間違えなければ制御出来るものだろ?それを学ばず、塔の中で人生を送ってても、自滅の未来しかないじゃないか!」
「…まったく、あんたは言い出したら聞かないからな」
「じゃあ!」
「あんたの好きにするといい」
「ありがとう!ヘリオ!」
ヘリオの許可を得て、改めてモーグリに話をする。
「俺達がリリンちゃんを引き取って、魔力を制御出来るようにさせる。君と彼女がそれを受け入れてくれるのが前提だけど」
俺の言葉にモーグリは、考え込んだ。
「それで、リリンが幸せになれるなら…モグはそれが一番と思うクポ」
「ありがとう!モーグリ!」
「クポ!?モグの名前はピリスクポ!」
「ピリスか!ごめんな!名前をまだ聞いてなかったから」
俺は苦笑いをしながら謝った。
そして、俺たちは彼女に話をする為に部屋へと戻り、ピリスはリリンちゃんを呼んだ。
「リリン、この人達は悪い人じゃないクポ。だから安心して良いクポ!」
「ピリス……ほんと?」
リリンちゃんは警戒しながらも、こちらをじっと見つめている。
「はじめまして!リリンちゃん。俺はフ·アリス·ティア。気軽にアリスって呼んでくれ」
「アリス…お兄ちゃん?」
「そう!で、隣にいるのが俺のパートナーの」
「ヘリオ·リガンだ」
「ヘリオ…お兄ちゃん?」
リリンちゃんは俺とヘリオの顔を交互に見る。
まだまだ警戒は薄れない。
何か良いきっかけがあれば…
その時、ふとある事を思い出した。
「実は、リリンちゃんにプレゼントがあるんだ!」
「プレゼント?」
俺は荷物を漁り、目的のものを手に取り、リリンちゃんに見せた。
「じゃーん!」
「あっ!ピリスそっくりのぬいぐるみ!…いいの?これ、貰っても」
「うん!プレゼントだからね!はい、どーぞ!」
「わぁ!ありがとう!アリスお兄ちゃん!」
「どういたしまして!」
渡したモーグリのぬいぐるみを満面の笑顔で抱きしめるリリンちゃん。
その笑顔に、俺もつられて笑顔になる。
「あんた、ぬいぐるみなんてよく持ってたな」
「実は任務を受ける前に、店で衝動買いしたんだ」
「また無駄遣いを…」
「でも、結果的に役に立ったんだからいいだろ?」
「それにしても、自分が欲しくて買ったのに、簡単に手放して良かったのか?」
「なぁーに、またお金を貯めて買えばいいから」
俺の言葉に、半ば呆れ顔のヘリオ。
俺は気にせず、リリンちゃんに向き直る。
「ねぇ、リリンちゃん」
「なぁに?アリスお兄ちゃん」
「今日初めて会って、こんな事言うのは驚くと思うんだけど、良かったら俺達と一緒に外の世界に行かないか?」
「え?」
「リリンちゃんが嫌なら、俺達は諦めて帰るよ。でも、リリンちゃんが外の世界に興味があるなら、一緒に行かないか?」
真っ直ぐ彼女の目を見つめる。
その目からは戸惑いが見えた。
「お外には、怖い人がいっぱいいるんでしょ?」
「んー、確かに怖い人は居るけど、でも、それ以上に良い人、優しい人も居るよ!それに、怖い人がリリンちゃんの前に現れたら、俺達が守ってあげるから、安心して?」
「……ピリス……」
リリンちゃんは迷った表情でピリスを見つめた。
「リリンのしたいようにするクポ!リリンはもう15歳クポ。自分の未来は自分で決めるクポ!」
ピリスのその言葉に、リリンちゃんは決断をしたようだった。
「リリンは…お兄ちゃん達とお外に行きたいっ!」
その言葉にピリスは、うんうんと首を縦に振った。
「よし!そうと決まれば準備しないとな!」
「準備?」
「うん!その長い髪の毛だと、外で木の枝に引っかかったりするし、服も着替えないと、木の枝とか、草とかで身体中怪我しちゃうからな!」
「どうしたらいいの?」
「まず、髪の毛をある程度切りたいんだけど、いいかな?」
「うん!」
「ピリス!リリンちゃんの前髪を持っててくれ。ヘリオは後ろ髪を頼む」
「分かったクポ!」
「あぁ」
俺の指示で、ピリスとヘリオが髪を持った。
「ちょっと危ないから、リリンちゃん目を瞑っててな?」
「わかった!」
リリンちゃんが目を瞑ったのを確認し、双剣を構え、一気に髪を切る。
ふぁさぁっと落ちる髪の束。
「もう、目を開けて大丈夫だよ」
「わぁ!頭が軽い!」
「さて、少しじっとしててね」
「?うん、わかった」
俺は、リリンちゃんの髪の毛を真ん中から分け、両サイドに三つ編みを結った。
「鏡を見てごらん」
「わぁっ!可愛い!ありがとうアリスお兄ちゃん!」
「どういたしまして!」
リリンちゃんは、鏡を見ながら三つ編みに触れてニコニコしている。
「次は服だな」
俺は自分のアーマリーチェストを漁る。
「アリス、あんた少し持ち物整理した方がいいぞ?」
「普段はちゃんと整理してるぞ?今回は急な任務だったし、ギャザクラの装備を購入してる所だったから、買うだけ買って、チェストに突っ込んだままなんだよ」
チェストから未着用のギャザクラ装備を引っ張り出した俺は、ピリスに服を手渡す。
「これ、着替えさせてあげてくれ!さすがに年頃の女の子の着替えは手伝えないからさ」
「分かったクポ!リリン、あっちの部屋で着替えるクポ!」
「はーい!」
ピリスとリリンちゃんは別室へと移動した。
着替えが終わるまでどうしたもんかと考えていると、ヘリオが口を開いた。
「アリス」
「ん?なに?」
「あんた、アパルトメントの個室に3人で住む気なのか?」
「うん、当分はな」
「当分は?」
「ヘリオを驚かせようかと思って黙ってたんだけど、実はマイホーム資金を貯めてるんだ」
「……は?」
豆鉄砲を食らった様な顔のヘリオ。
どうやら、気づいていなかったらしい。
「でも、あんたこの前FCハウスを買ったばかりだろう」
「あぁ、それとは別にコツコツ貯めてるんだよ。でも、今は土地もそんなに空きがないから、Sサイズが買えればいいかなぁって思ってるところでさ」
「今はって、土地の空きがあれば、どのサイズの土地を買う気だったんだ?」
「え?そりゃあLサイズだけど?」
「………」
今度は呆気に取られた顔をする。
「俺だって、パートナーには不自由ない暮らしをさせたいって思ってるんだ。アパルトメントだと、ヘリオのテレポ代も馬鹿にならないだろ?」
「それはそうだが……」
「それに、大きな家って憧れるしさ!土地が空いたら直ぐに引っ越せるようにSサイズの土地を狙ってるんだよ」
「…その割には無駄遣い多いよな?」
「うっ……、別にいいじゃないか。毎日欠かさず貯金額決めてしっかり貯めてるんだから…」
そんな会話をしてると、別室のドアが開き、ピリスとリリンちゃんが出てきた。
「お、これなら外に出ても大丈夫そうだな」
初めてちゃんとした服を着たのだろう、自分の姿をまじまじと見つめるリリンちゃん。
「そうだ、リリンちゃん。何か持っていきたい物はあるかい?」
「持って行きたい物?」
「この部屋にある物全部はさすがに持っていけないけど、気に入ってる物とかあれば、少しなら持って行けるよ」
「わかった!」
元気よく返事をしたリリンちゃんは、数冊の絵本を持ってきた。
「他には?」
「これだけ!」
「そうか、わかった!じゃあ、この絵本は預かっておくね」
俺は渡された絵本を荷物の中に入れる。
「ピリスも一緒に来るかい?」
「……モグは…、一緒には行けないクポ」
「…そうか…」
ピリスはリリンちゃんの元に近寄った。
「リリン、ちゃんと2人の言うことを聞くクポよ?」
「うん」
「ちゃんと、幸せになるクポよ?モグとの約束クポよ?」
「うん!約束!」
ピリスとリリンちゃんは、ギュッと抱き合った。
そして、ピリスはリリンちゃんに先に部屋を出るように促した。
素直にそれに従い、リリンちゃんが部屋の外へと出るのを確認したあと、ピリスは俺達に向き直った。
「リリンをよろしく頼むクポ!」
「あぁ」
「うん!必ず幸せにしてみせるよ!」
「あと、2人に注意して欲しいことがあるクポ」
「なんだ?」
「リリンは、恐怖を感じると魔力が不安定になるクポ。だから…」
「わかった。気をつけるよ」
その言葉を聞いたピリスは、ペコリとお辞儀をし……
光の粒子となって消えた。
「き…消えた…」
「……」
ヘリオを見ると、何かを察していた様子だった。
きっと、エーテルを見ることの出来るヘリオには、最初から分かっていたことだったのだろう。
それ以上の詮索はせず、俺達は部屋を出て、リリンちゃんと合流した。
「ねぇ、ピリスはどうして来れないの?」
「ピリスは、ここの片付けをしてから昔暮らしてた森に帰るんだって言ってたよ」
「そっか、じゃあ、いつかまたピリスに会えるかな?」
「…うん、たぶんね」
咄嗟に吐いた嘘。
世の中には知らなくていい事もある。
長い階段を降り、外に出る。
後ろを振り向くと、扉の前で外に出るのを躊躇するリリンちゃんの姿があった。
俺は、そっとリリンちゃんに手を差し伸べる。
「大丈夫、怖くないよ」
笑顔でそう伝えると、彼女は恐る恐る俺の手を取り、1歩足を踏み出す。
「これが、外の世界?」
「そうだよ。世界は広いから、きっとこれから色んな景色を見ることになるよ」
「ちょっと怖いけど、お兄ちゃん達がいれば、大丈夫だよね?」
「うん!大丈夫!」
「…怖くない、怖くない…」
自分に言い聞かせるように呟くリリンちゃん。
本当に、塔から出たことがないんだと、改めて思った。
少しずつ慣れさせて行かないとな。
「集落に報告に行くんだろ?」
「あぁ、そのつもりだけど」
「大丈夫なのか?リリンを連れて行って…」
ヘリオの言わんとしてることは、察しがついた。
ピリスから聞いた、集落の話。
おそらく、歓迎はされないことは想像はついた。
「大丈夫、どんな事が起きても、集落の人達をなんとかしてみせるから」
「1人で気負いするな、俺もいるんだから」
ヘリオの言葉にハッとした。
毎回の事ながら、自分で何とかしようとする悪い癖が出るところだった。
「わかった!頼りにしてるぜ!」
リリンちゃんを気遣いつつ、集落に辿り着くと、予想通りの反応だった。
「魔女だ!」
「救世主が寝返った!」
集落の人達は、俺達に罵声を浴びせ、中には石を投げてくる者も居た。
ヘリオは素早く大剣を構え、リリンちゃんを庇い、俺は自分に投げられた石を双剣で弾く。
閉鎖的な集落とはいえ、あまりにも酷いこの反応に、俺は激しい怒りを覚える。
「アリス!」
呼ばれて振り向くと、リリンちゃんの様子がおかしかった。
ピリスの言葉が頭によぎる。
俺は咄嗟に赤魔にジョブチェンジをし、人のいない所にヴァルサンダーをはなった。
動揺する人々。魔法攻撃を初めて見たのだろう、リリンちゃんも驚いた表情をしていた。
リリンちゃんの恐怖が驚きに変わったのを見て、俺は人々に向き直った。
「私はグリダニア双蛇党所属!フ·アリス中牙士である!聞け!世の中を知らぬ哀れな住民よ!魔力は本来、大なり小なりと差はあるが誰でも持っているものだ!」
俺は感情に任せて言葉を続ける。
「我々は元より、この地域の調査に来たのだ!これより、我々はグリダニアに戻りこの集落の存在を報告させてもらう。近々、ここに双蛇党の兵達が詳しい調査に来るだろう。その時、お前達は今まで行ってきた行為がどれだけ愚かだったのか悔いることになるだろう!」
俺はその言葉を最後に、ヘリオとリリンちゃんを連れて、集落を後にした。
集落が見えなくなった辺りで、俺はリリンちゃんに振り返った。
「大丈夫だった?怖かっただろ?」
「大丈夫。怖かったけど、お兄ちゃん達がいたから」
「良かった。怖い思いさせてごめんな」
「ううん。守ってくれてありがとう!」
彼女の笑顔を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
「アリス、この辺りからチョコボに乗れそうだぞ」
「わかった、リリンちゃんはどっちに乗せる?」
「俺はどっちでもいいぞ?」
「ヘリオ、お願いできるか?」
「わかった」
ヘリオはエターナルチョコボを呼び出し、リリンちゃんに手を差し伸べる。
「どうやって乗るの?」
「あー、届かないか。じゃあ持ち上げてあげるよ」
俺は断りを入れて彼女を担ぐと、すかさずヘリオがリリンちゃんをチョコボに乗せる。
それを確認し、俺も自分のマイチョコボを呼び出す。
「リリン、しっかり掴まれ。振り落とされるから」
「う、うん。わかった」
リリンちゃんは、少し遠慮しがちにヘリオの胴体に両腕をまわす。
「よし、行くぞ」
「あぁ、行こう」
合図と共にチョコボを走らせる。
俺は、あの集落から二度と罪のない命が失われなくなる事を祈り、グリダニアへと帰還したのだった。
0コメント