A.新たな家族


木々の間から木漏れ日が差す中、俺は愛方のヘリオと、3日前に調査中に保護したリリンちゃんを連れてグリダニアを歩いていた。
多くの人が行き交う街に初めて来たリリンちゃんは、俺の後ろにピッタリ着き、服にしがみつきながら着いてきていた。

「リリンちゃん、大丈夫だよ。そんなに警戒しなくても」
「う、うん…」

返事をしながらも、離れることはないリリンちゃん。
まぁ、無理もないか。
ずっと塔の中でモーグリと生活してきた彼女には、こんな多くの種族が行き交う場所は初めてなのだから。

「アリス、双蛇党はそっちじゃないぞ?」
「うん。分かってるよ。先にリリンちゃんの服をどうにかしないとさ」

ヘリオの言葉に、俺はそう答えてマーケットへと向かう。

「さすがに、ブカブカのギャザクラ装備じゃ可哀想だろ?」
「あー、たしかに」

マーケットに着いて、リテイナーを呼び出し、ギルを卸してからマケボを確認する。
リリンちゃんに似合いそうな物をパパっと選んでいく。

「おい、アリス。そんな高いものを…」
「そう?以前に比べたらだいぶ値段安くなってると思うけど」
「そういう問題じゃないだろ…」
「だって、絶対リリンちゃんに似合うと思うぞ?このスプリングドレス」

俺の言葉に「やれやれ」と呆れるヘリオ。
装備を受け取った俺は、リリンちゃんに装備を渡そうと振り返った。

「リリンちゃ……あれ?いない?」

ヘリオも周りを見渡す。

「ここに来た時は一緒に居たよな?」
「あぁ」
「まさか、人攫いに?!」
「んなわけあるか、こんな人目の多い所で」
「と、とにかく、リリンちゃんを探そう!」

俺達は慌ててリリンちゃんの捜索を始めた。


**********


ミィ·ケット野外音楽堂。
その前でリリンは今にも泣き出しそうな表情でオロオロしていた。
マーケットでアリスとヘリオを待っている時に、通りかかったレターモーグリの後を追い、気がつくとここに辿り着いていた。

(どうしよう。お兄ちゃん達とはぐれちゃった)

見知らぬ土地で、1人になった不安で動けずにいるリリンの前を1人のミコッテが通り過ぎた。

「あっ!」

リリンは咄嗟に、そのミコッテに抱きついた。

「お兄ちゃんっ!!」
「えっ?!」

その声は女性のものだった。
リリンが顔を上げると、ヘリオに似た女性の顔。
リリンはヘナヘナと座り込んだと同時に、涙がポロポロとあふれた。

「どうしたんだい?迷子にでもなったのかい?」

優しく話しかける女性に、リリンはこくんと頷いた。

「今頃、家族が心配して探してるかもしれないね。ここで私と待っていよう。こっちから探しに行ったら、行き違いになるかもしれないからね」

その言葉にリリンは顔を上げる。

「だから、もう、泣くんじゃないよ?可愛い顔が台無しだ」

優しく微笑む女性を見て、少し安心したのか、リリンは「うん」と返事をした。

「よし、いい子だ!」

女性はリリンの頭を優しくポンポンとした。

「さて、何をして時間を潰そうかねぇ…ん?」

彼女はリリンの視線が自分の足元に行ってるのに気がつく。
そこには、彼女が連れていたミニオン。それをじーっと興味深そうに見つめていた。

「ミニオンを見るのは初めてかい?」
「うん」
「色んなミニオンがあるぞ?見てみるかい?」
「見たい!」

リリンの反応に「よーし!」と女性は気合いを入れた。
そして、リリンの目の前で代わる代わる出されるミニオン。
リリンは次々に出されるミニオンに、目を輝かせて楽しそうな表情。

「そして、最後に私の1番のお気に入りを見せてあげよう!」
「お気に入り?」
「あぁ!その名も!極合金ジャスティス!」

そう言って女性が出したミニオンは、他のミニオンより少し大きめのロボットだった。

「わぁー!」

リリンはジャスティスを食い入るように見る。
恐る恐るジャスティスをつつくと、途端にバラバラに崩れ、それを見たリリンはビクッと体を震わせる。

「あっ…」

どうしようと不安そうな顔のリリンに、女性は「大丈夫」と声をかけた。

「そのまま、じっと見ててご覧」

女性の言う通り、そのまま崩れたジャスティスを見ていると、また元の形に戻った。

「すごーい!」
「だろ?」
「うん!」

ニコニコしながらジャスティスをつついて楽しんでいるリリンを微笑ましく見守りながら、女性はリリンを探している人物が居ないか、周りを確認するのであった。


*********


「リリンちゃーん!」
「リリーン!」

俺とヘリオは、リリンちゃんの名前を呼び、探しながら早足で移動していた。
マケボを確認していたとはいえ、目を離してしまったのは間違いだった。
心配で胸が苦しくなりながらも、必死でリリンちゃんを探す。

「ほんとに何処に行ったんだろ…」
「そんなに時間は経ってないから、そこまで遠くには行ってないと思うが…」
「でも、きっとはぐれたって分かったら、不安になってるはずだよな」

早く見つけて安心させてあげたい気持ちが込み上げる。
そして、ミィ·ケット野外音楽堂が見えてきた所で、リリンちゃんを見つけた。

「リリンちゃんっ!」

名前を呼ばれて、リリンちゃんはこちらを振り向いた。

「あっ!アリスお兄ちゃんっ!」

リリンちゃんは駆け出し、俺に抱きついてきた。

「ダメじゃないか。ちゃんと傍で待ってなきゃ。心配したんだぞ?」
「…ごめんなさい。でも、帽子を被った大きなカバンを持ったモーグリが居たから…」

モーグリという言葉に、俺は何も言えなくなった。
育て親のモーグリと引き剥がしてしまったのは俺自身。
きっと、寂しいに決まってる。

「そうか…、でも、知らない所に来てるんだから、もう離れちゃダメだぞ?」
「うん!」

リリンちゃんの返事に、俺はヨシヨシと頭を撫でる。

「不安だっただろ?ごめんな、目を離して…」
「大丈夫!優しいお姉ちゃんがね、ミニオンって言うのを沢山見せてくれたの!」
「お姉ちゃん?」

その言葉に、俺が顔を上げると、そこには見知った顔があった。

「ガウラさん!?」
「よぉ、アリス」

ガウラさんの表情は「これはどういう事だ?」と説明を求めるオーラを出していた。
俺は今回の任務の事、リリンちゃんのことを説明した。

「なるほどね」
「で、双蛇党に報告する前にリリンちゃんの服をどうにかしようと思って買い物してたら、居なくなって探してたんです」

言って、リリンちゃんを見ると、極合金ジャスティスをつついて楽しんでいた。

「でも、リリンちゃんを見つけたのがガウラさんで良かったです。ありがとうございました」
「見つけたと言うか、抱きつかれたんだよ」
「抱きつかれた?」

極度の人見知りを発揮していたリリンちゃんが、ガウラさんに抱きついたと言う事実に驚いた。

「お兄ちゃんって言われてな。女の私と見間違う男なんて、どんな女男だと思ったが、お前達が来て理由がわかったよ」

ガウラさんはそう言って、ヘリオを見る。
ヘリオは苦笑い。

「リリンちゃん」
「なぁに?アリスお兄ちゃん」
「ひょっとして、お姉ちゃんの事、ヘリオお兄ちゃんだと思ったの?」
「…うん」

流石は性別は違っても双子。
不安で仕方なかったリリンちゃんには、背丈や性別の違いを見てる余裕は無かったのだろう。

「ねぇ、なんでヘリオお兄ちゃんと、お姉ちゃんはそっくりなの?」
「それはね、ヘリオお兄ちゃんと、お姉ちゃんは双子の姉弟なんだ」
「…ふたご…」

リリンちゃんは少し考え込んだ。

「あ!リリン、絵本で読んだことある!お顔がそっくりの兄弟!」
「お、リリンちゃんは物知りだな!」
「えへへ!」

嬉しそうに笑うリリンちゃん。

「リリンちゃんに紹介しないとな!このお姉ちゃんは、ヘリオお兄ちゃんのお姉ちゃん」
「ガウラだ、よろしくな!リリン」
「うん!ガウラお姉ちゃん!よろしくね!」

挨拶を交わす2人。
そして、俺はある事を思い出した。

「ガウラさん!お願いがあるんですけど」
「ん?なんだい?」
「リリンちゃんの着替え。手伝ってあげてくれませんか?」
「はい?」

事の事情を説明すると、ガウラさんは納得してくれた。

「さすがに、年頃の女の子の着替えは手伝えないので…」
「分かったよ。で、何を着せるんだい?」
「これです」
俺は装備一式をガウラさんに手渡した。
「…アリス、お前金遣い荒すぎじゃないかい?」
「それ、ヘリオにもさっき言われました」

苦笑いをする俺に、ガウラさんは呆れた顔をする。

「まぁ、良いけどね。お前の稼ぎなんだから、私がとやかく言うことじゃないしな」

ガウラさんは、「それじゃ、宿に行こう」と言って歩き出した。
俺達は宿へと向かい、カーラインカフェで着替えが終わるのを待った。
そして、宿から出てきたリリンちゃんは、やっぱり俺の思った通り、スプリングドレスが凄く似合っていた。

「リリンちゃん、凄く似合ってるよ!」
「アリスお兄ちゃん、ありがとう!」
「アリス、リリンには服の着方を一通り教えておいたから、これで着替えの手伝いは必要なくなると思うぞ」
「ありがとうございます!ガウラさん」
俺はガウラさんに礼を言った。
「これから、お前達はどうするんだい?」
「双蛇党に報告しに行ってから、冒険者登録と幻術士ギルドに行って帰ろうかと思ってます」
「あっちこっち行くのは逆に時間かかるから、先に冒険者登録してから報告しに行ったらどうだ?」
「あー、たしかに」

家に帰るのに、リリンちゃんの事を考えれば、移動に時間がかかるのを思い出した。

「じゃあ、ミューヌさん所で登録してから、GCと幻術士ギルドに行きます」
「じゃあ、私は帰るよ」
「ガウラお姉ちゃん、行っちゃうの?」

寂しそうなリリンちゃんに、ガウラさんは微笑みながら言った。

「いつでも会えるさ!なんだったら今度、家に遊びにおいで」
「うん!遊びに行く♪」

ガウラさんはリリンちゃんと約束をして、その場を去って行った。
俺達は、ミューヌさんの所に向かい、事情を説明して登録用紙を出してもらった。

「リリンちゃん、字は書ける?」
「うん!ピリスが文字の本をくれてね、少しだけど書けるよ!」

リリンちゃんはミューヌさんに少し警戒しながら用紙に記入をする。

「…ねぇ、お兄ちゃん。ふぁみりーねーむってなぁに?」
「あー、ファミリーネームか」

そういえば、リリンちゃんのファミリーネームは分からないままだった。

「ピリスから、名前の事で何か言われたことない?」
「…うん。リリンはリリンとピリスの名前しか聞いたこと無かった」
「そうか…困ったな…」

俺はヘリオの方を向いた。

「ヘリオ、ムーンキーパーのファミリーネームって、母親の姓を受け継ぐんだよな?」
「あぁ、見る限り、リリンはムーンキーパーだからな。この場合、ファミリーネームが分からない以上、応急処置的に母親替わりだったピリスの名前でも良いんじゃないか?」
「お!それいいな!」

それを聞いたリリンちゃんは、心做しか嬉しそうにファミリーネームにピリスと記入した。
記入中に、インクを滲ませて涙目になったりもしていたが、誕生日と年齢を記入し終え、リリンちゃんは無事に冒険者登録を済ませた。

「リリンちゃん、よく頑張ったな!」
「えへへ!」

俺はリリンちゃんの頭を撫でる。
そして、俺達は双蛇党に報告し、幻術士ギルドにリリンちゃんを連れていき、杖を貰って、そこからグリダニアのエーテライトを交感してから街を出た。

「さ、帰ろうか!」
「帰る?塔に帰るの?」
「あはは!違うよ、これからリリンちゃんが俺達と暮らす家にだよ!」

俺はレガリアの運転をヘリオに頼み、リリンちゃんと一緒に乗り込む。
初めて見る乗り物に、リリンちゃんは驚きの連続だった。
ウルダハに向かう途中にあるエーテライトを交感しつつ、黒衣森を通り抜けていく。
ザナラーンに入り、景色が一変すると、リリンちゃんは「わぁー!」と歓喜の声を上げた。
初めて見る物に対し、「あれはなに?」とひっきりなしに質問が飛んでくるのを一つ一つ答えながら、ウルダハに到着した。

「ここがウルダハだよ」
「わぁー!なんか、お城みたい!」
「あはは!あながち間違いじゃないかな。この街の中央にナナモ王女様が住んでるお城があるからね」
「王女様!」

リリンちゃんは「絵本の中みたい!」と目を輝かせる。

「さ、あともう少しで着くよ!行こう!」
「はーい!」

エーテライトを交感させながら、採掘ギルド付近から冒険者居住区ゴブレットビュートへ移動し、エーテライトでアパルトメントの前に飛んだ。

「アリスお兄ちゃん、ここがそうなの?」
「あぁ、そうだよ」
「大っきい~」
「ここはアパルトメントって言ってね、この中にいくつも部屋があるんだけど、その一部屋が俺達の家なんだ」
「一部屋?」
「うん、ここは色んな人が住んでる建物ってことになるんだ。まぁ、入って見れば分かるよ!」

アパルトメントに入り、4号室へと向かう。
扉の鍵を開け、室内に入った。

「ここが、今日からリリンちゃんの家だよ」
「えっと…お邪魔します」
「リリンちゃん、これからここで住むんだから、お邪魔しますじゃないだろ?」

俺がそう言うと、リリンちゃんは考え込んだ。そして

「…ただいま?」
「うん!おかえり!リリンちゃん!」
「うん!ただいま!」

リリンちゃんは嬉しそうに部屋の中に入った。
その後をヘリオが続く。

「さて、リリンちゃんの椅子とベッドを設置しないとな」

俺はトームストーンでハウジングシステムを呼び出す。
ロフトの上にあるダブルベッドを一旦しまい、以前使っていたシングルベッドをリリンちゃん用に引き出す。

「ベッドは何処に置くんだ?」
「俺達のベッドがあった所にリリンちゃんのベッドを置いて、俺達のはロフトの下に置こうと思ってる」

ロフトに置いてある棚とぬいぐるみを床に移動し、シングルベッドをロフトに上げる作業に入る。
なかなか難しい作業に四苦八苦していると、突然声をかけられた。

「なぁ、アリス」
「ん、なn……あーっ!ミスった!」

操作をミスり、ベッドが下に落ちる。

「あ、すまん」
「いや、ヘリオは悪くないよ。俺が不器用なだけだから。で、どうしたんだ?」
「…アレ」
「アレ?」

ヘリオの指さす方を見ると、リリンちゃんがぬいぐるみの山の中にいるガーリックスターを食い入るように見ていた。

「アレ、欲しいんじゃないか?」
「え?ガーリックスターを?」
「どう見ても、そうにしか見えないんだが…」

マンドラーズのぬいぐるみは全部揃えようと少しずつ集めている所だった。

「モーグリのぬいぐるみみたいにやらないのか?」
「いや…あれはマンドラーズを揃えようと思ってて…」
「また買えばいいんじゃないのか?」
「うぅ…」

モーグリのぬいぐるみの時に自分で言った言葉をヘリオに言われ、何も言えなくなる。

「…リリンちゃん」
「なぁに?」
「そのぬいぐるみ、あげようか?」
「え!いいの!?」
「うん。気に入ったのならあげるよ」
「わーい!ありがとうアリスお兄ちゃんっ!」

リリンちゃんは嬉しさのあまりに俺に抱きつく。

「うわっ!そんなに嬉しいかい?」
「うん!アリスお兄ちゃん大好き!!」

こんなに喜んでくれるなら、ぬいぐるみの1つや2つ、惜しくない気持ちになる。
その後、ハウジングを終え、夕飯を摂り、風呂に入った。
そして、明日の予定を話し合い、寝る準備に入った。

「アリスお兄ちゃん、ヘリオお兄ちゃん、おやすみなさい!」
「おやすみ!リリンちゃん」
「おやすみ、リリン」

リリンちゃんは、モーグリのぬいぐるみとガーリックスターを大事そうに抱き抱えてロフトを上がって行った。

「さて、俺達も寝るか」
「そうだな」

ベッドに横になり、俺はヘリオを抱きしめた。

「ヘリオ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
 
俺はゆっくりと目を閉じた。
今日から始まったリリンちゃんとの共同生活。
これからのリリンちゃんの成長を楽しみに、俺は眠りについたのだった。



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