A.ヴァレンティオン2020


「はぁ~」

ここ数日、大きなため息ばかり出る。
と言うのも、自分の身に降りかかった災難と言うべきか。
なぜ、このタイミングでこんな事が起こったのか。
数日前、アパルトメントの自室で、錬金術をしていたリリンちゃんが、調合を確認するために本棚に登り、梯子から転落しそうになったのを庇ったのだが…
その時に調合途中の薬品を被り、子供の姿になってしまったのだった。
その姿を見たリリンちゃんは「お兄ちゃんごめんね!ごめんね!」と泣きながら必死に謝っていた。
そんな彼女を宥めるのに四苦八苦していたら、ヘリオが帰宅して、代わりに宥めてくれ、ひとまずは落ち着いたのだが……

「な~んでよりによってヴァレンティオン間近で、こんな目に会うかなぁ………」

もう少し梯子をしっかり取り付けておくんだったと、後悔をしても遅い状況。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
なんとか元に戻る方法はないかとグプラに行って、錬金術の本を読み漁ったりもしたが、対処法は「薬の効果が切れるのを待つ」しか記載されておらず、思わず頭を抱えた。
いつ効果が切れるのか分からないまま数日が経過したが、未だに効果が切れる気配がない。

「はぁ~……仕方ない。ヴァレンティオンまでに効果が切れるのを祈りながら、やるべき事をするかぁ~」

俺は身支度を整え、ウルダハのマーケットへと向かった。


*********


ヴァレンティオン当日。
俺の願いは叶わず、薬の効果は未だに切れていなかった。

「結局、まだそのままなのか」
「うん……」

隣で苦笑いを浮かべるヘリオに、塞ぎ込みながら答えた。
こんな姿じゃ、ただの親子か、いいとこ兄弟にしか見えない。
せっかくの愛のイベントだってのに…
何回目かの大きなため息を吐く。

「せっかくのイベントなんだから、少しは楽しんだらどうだ?その姿になってしまったのは、どうしようもないことだろう」
「……分かってるよ」

まぁ、いつまでも塞ぎ込んでても状況は変わらないし、わざわざ予定を空けてくれたヘリオにも失礼だ。

「よしっ!!やるぞ!!」

気合いを入れて、イベントへと向かった。


**********


ヴァレンティオンの投票を終え、去年も参加した絆を確かめるコンテンツをクリアし、報酬で衣装を貰った俺たちは着替えのために宿に向かった。
個室でいそいそと衣装に袖を通し、鏡を見る。
衣装のデザインは気に入ったが、何より気に入らないのは自分自身の姿。

「あ~ぁ、元の姿だったらなぁ…」

過ぎてしまった事を引き摺るのは良くないとは思うが、こればっかりは楽しみにしていた分、本当にショックが大きかった。

「はぁ、着替えたから出よう」

トボトボと部屋を後にし、カーラインカフェに出る。
そこには既に着替え終わったヘリオの姿。

「お、出てきた」
「!」

思わず足が止まる。

「?俺の顔に何か付いてるか?」
「いや、カッコイイなぁって見惚れてた」

そう答えて、俺はヘリオを抱きしめた………が。
背が小さいせいで足にしがみついた子供のようになり、様にならない。

もーヤダ、この姿………

軽く凹んでる俺に、ヘリオは俺の頭にポンっと手を置いた。
顔を上げると、微笑を浮かべたヘリオの顔。

「お褒めに与り幸いだ」

あぁ、この小さい体がもどかしい。

本来の姿なら、甘い雰囲気なんだろうなぁ……

そう思った瞬間、当初の目的を思い出す。

「ヘリオ!ちょっと付き合ってくれないか?」
「ん?いいぞ?」

俺は、ヘリオの手を引いてラベンダーベッドの広場までやってきた。
広場に着いた俺は、いそいそと荷物を漁り、目的の物を出した。

「ハッピーヴァレンティオン!」
「?!」

ヘリオは鳩が豆鉄砲を喰らった表情をしながら、赤いリボンの付いたピンクの包装袋を受け取った。

「これは……」
「まぁ、その、なんだ……、手作りチョコって言うのかな……」

俺は、少し照れながら答えた。

「ヘリオは、ガウラさんと違って、甘い物好きだろ?だから、作ってみようかなって……ただ、俺、料理下手だから見た目は悪いかもしれないけど……」
「……開けていいか?」
「うん」

包装袋を開けて、中から歪な形のチョコの塊を1個取り出す。

「……っ!これはっ……!」
「ば、バブルチョコを作ろうとしたんだけど、上手く形が整わなくてっ!で、でもっ、味は保証するからっ!」

予想外の形のチョコに、笑いを必死で堪えているヘリオに向かって、俺は必死に弁解をする。

あー!こういう時、料理できる人が羨ましい!

ヘリオは手に取ったチョコを口に運んだ。
口に合わなかったらどうしようと不安になりながら反応を待つ。

「ん、美味いな」
「ほんとか!良かったぁ!」

俺は、ホッと胸を撫で下ろした。
お菓子なんて初めて作ったから、不安で仕方なかったけど、苦労して作った甲斐があった。

「ありがとな、アリス」

優しいヘリオの笑顔。
それだけで胸がいっぱいになる。
そんな時…

「きゃあっ!」

女性の悲鳴が聞こえた瞬間。

バシャッ

俺の頭から全身にかけて液体がかかった。
その瞬間…
俺の視線の高さが高くなった。
でも、いつもの高さより低い。
何が起こったのかと自分の体を見れば、なんと女性になっていた!

「な、な、なんだこれ!!」

慌てふためく俺に、悲鳴の主と思われる女性が駆け寄ってきた。

「ご、ごめんなさい!転んだ拍子に、持ってた幻想薬がかかってしまってっ」
「え……」

いやいや!待て!幻想薬がかかったのは良いとして、なんで女の姿になるんだよ!
俺は、元の姿に戻りたいって思ってたのに!
女性は後日、元に戻れるように幻想薬を持ってくると言って去っていった。
呆然と立ち尽くす俺。

「も~なんなんだよ~」

薬品絡みの災難が続いて脱力している俺に、ヘリオが口を開いた。

「まぁ、あんたにとってその姿が今は都合が良いんじゃないか?」
「なんで?」
「例えば…」

近くに歩み寄ってきたヘリオは、俺を抱きしめた。

「へ、ヘリオ?!」
「こうしてても他人からは違和感ないだろ」

な、なるほど…
珍しいへリオからの行動にどうしていいか分からずにいると、

「自分でやっといてなんだが、恥ずいな……」

その言葉に、思わず吹き出す。

「あははっ!」
「笑うなっ…」
「ごめんごめん!」

俺は、ヘリオの背中に手を回し抱きしめ返した。

「ありがとな、ヘリオ」

そして、俺は赤面しているヘリオの頬に口付けた。
神様がいるなら、ここ数日の災難だと思っていた日々は、神様がくれた奇跡なのかもしれない。
そんなことを思いながら、その日は甘い時間を過ごしたのだった。


とある冒険者の手記

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