A.ホワイトデー
「ん、ん~っ!」
眠りから目が覚め、体も起こさず布団の中で伸びをする。
体を起こそうと隣を見ると、一緒に寝ていたはずの愛方の姿はなかった。
「あぁ、今日は早く家を出るって言ってたっけ…」
愛おしい人の顔を見れなくて、少し残念な気持ちになりながらも、ベッドから降りて着替えをする。
階段を上がりリビングに移動すると、テーブルの上に見慣れないものが置いてあるのに気がついた。
白いリボンの着いた、少しオシャレな水色の小さな紙袋。
その紙袋の前に、メッセージカードが置いてあった。
表紙には「アリスへ」の文字。
自分宛のカードを開いて内容を見て、俺は胸の辺りがホッコリした。
送り主は愛方のヘリオ。
ヴァレンティオンのお返しで、作る時間が無かったから買ってきたらしい。
袋を開けて見ると、中にはクッキーが入っていた。
1枚取り出し、口に運ぶ。
「あ、すげぇ美味い!」
クッキーを味わいながらメッセージカードをじっくり見ていると、カードの右隅に小さく店の名前が印字されていた。
「これ……最近人気の店のじゃん!?」
その店は最近出来た新しいお菓子屋で、開店して直ぐに完売してしまうぐらいの大人気の店だった。
そういえば、1度食べてみたいと話した事があったっけ。
「覚えててくれたんだ…」
嬉しさに胸がいっぱいになる。
「どうせなら、ヘリオにも食べさせたいな」
俺はクッキーの入った紙袋の口を閉じ、棚に閉まった。
ヘリオが帰ってきたら一緒に食べよう。
俺は今晩を楽しみにしながら、今日の身支度を始めたのだった。
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