A.エーテルの差


その日、部屋に籠っていたリリンが、アリスの元に嬉しそうに駆け寄ってきた。
聞けば、血で染ってしまったアリスの右目を治す薬が完成したのだという。

「リリンちゃん、ありがとう!俺の目を気にしてくれてたんだね」
「えへへ」

お礼を言われ、照れるリリン。
アリスは早速、その薬を右目に注した。
だが、その右目は光を取り戻すことは無かった。
血は除去出来たものの、長い間視界を遮られていたせいか、既に視力が無くなってしまっていた。

「せっかく作ってくれたのに…ごめんな…でも、ありがとう」

しょんぼりしているリリンに謝罪と再度感謝を述べる。
その時、視界がおかしな見え方をし始めた。
今まで見えていた景色に、青白いモヤが掛かったような、そんな見え方は初めてだった。
アリスは咄嗟に正常な左目を手で覆うと、視界は青白い景色を映し出した。

「これは…」

その景色が、エーテルを見せていると気付くのにそう時間はかからなかった。
右目だけで視ていると、体力が奪われた。
さすがに生活にも支障をきたすと判断したアリスは、その日から眼帯を着ける様になった。
そんなある日の事。
アリスの家に、任務帰りのヘリオと共に義姉のガウラがやってきた。

「おかえり、ヘリオ!ガウラさん、いらっしゃい!」
「ただいま」
「邪魔するよ」

アリスの眼帯を見て、ガウラは不思議そうに尋ねた。

「眼帯なんかつけて、傷が悪化でもしたのか?」
「いえ、実はリリンちゃんが血を除去する薬を作ってくれたんですけど、結局視力は戻らなくて…」
「どれ、見せてみろ」

少しだけなら大丈夫だろうと、アリスは眼帯を外した。
そして、見えたモノにアリスは驚いた。
ヘリオとガウラの極端なエーテルの差。
ヘリオが強いエーテルを持っているのに対して、ガウラのエーテルは弱々しい。
双子は何もかも同じと聞くが、エーテルは別なのだろうかと、疑問が生まれる。

「完全に色素が無くなってるね」

アリスの右目を見たガウラの言葉に我に返る。

「全然見えないんです。今はこの目を見ると、リリンちゃんが落ち込んでしまうので眼帯を着けるようにしてて…」
「なるほどね」
「リリンちゃんの状態が落ち着いたら、外そうとは思ってるんです」

そういった会話をした後、近況報告等をして、ガウラは帰宅した。
その日は、2人のエーテルの差のことが気になり、注意力散漫になり、いつも失敗しない料理を失敗したりと散々な目にあった。
翌日、アリスは本屋に向かいエーテル学の基礎知識が載っている本を購入し、近くのベンチに座り、読みふけった。
エーテルの強さは量を表す。
強ければ強いほど、量は多く、弱いほど少ない。
そして、読み進めていくと双子のエーテルについてのページが表れた。

「双子は見た目も同じで、エーテルも例外ではない…、じゃあ、なぜヘリオとガウラさんは、あんなに極端な差が?」

疑問が疑問を呼び、アリスはそのままグブラ幻想図書館に足を運んだ。
膨大な量の本が並ぶ本棚から、エーテル学関係の本を探すのは無謀とも思えたが、幸いだったのが本棚のジャンル分けを記した案内図を見つけた事だった。
案内図を元に目的のジャンルの棚をみつけ、1つ手に取る。
目次を見ては戻しを繰り返していく。
その日は、目的のモノを記した本は見つからず、また後日に来ることにした。
それを繰り返し、1週間目についに目的の本を見つけた。
流行る気持ちを抑えつつ、深呼吸をしてページをめくっていった。
そして、あるページで手が止まった。

─エーテルが分離するとどうなるのか─

そこに、答えが記されていた。

「エーテルが分離をすると、近いエーテルを持つモノを器として宿り、形を成す。その形はエーテルの持ち主に瓜二つの姿を持つ。性別は同性だったり、異性だったりする事が分かっている…」

読み進めながら、どんどん声が震えていくアリス。

「双子の様に見られるが、実際の双子とは違い、エーテルに多少なり差が生じる。そのエーテルの差は極端であったり、少し偏りがある程度だったりと様々だが、双子のように均等にはならない…」

次のページを恐る恐るめくる。

「そして、必ずエーテルが分離してしまった本体の方のエーテルが、形を生したエーテル体より、少ないことが分かっている……」

その一文で、アリスはその場に膝を着いた。

「そんな…、じゃあ、ヘリオは…」

認めたくない事実を突きつけられ、全身の震えが止まらない。

「…ヘリオは…人間じゃ…ない…」

この本の通りだとすれば、本体はガウラであり、ヘリオはガウラから分離したエーテル体。
その事実に、先の文を読むのが怖くなる。
だが、知らなければならない。
ただの知り合いであれば、その事実だけで十分だっただろう。
だが、アリスとヘリオは違う。
アリスはヘリオに好意を抱き、そしてパートナーとなった。
これから先、エーテル体にどんな事が起こるのか、本体にどのような影響があるのか、知らずに投げ出すことは出来なかった。
結果、分離した状態は本体の身体に不調を起こし、最悪死に至る場合があるという事、エーテル体を元に戻すのが1番の最善策である事が記されていた。
例外は無いのかと、その本を読み漁るが、エーテルが分離する事例が少なく、今後も研究が必要だと言う言葉で締めくくられていた。

「エーテルを戻す以外、手立てはないのか…」

義理とはいえ、姉となったガウラ自身の身も危ないとなれば、無視はできない。
家族を失った自分に出来た、たった1人の姉を失いたくはなかった。

「何か、他に方法は無いのか?2人が安全に存在し続ける方法は…」

それから、アリスは時間を見つけては足繁くグブラ幻想図書館へと通い、エーテル学の本を読み漁るようになったのだった。



とある冒険者の手記

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