A.七夕
「さ~さ~の~は~サ~ラサラ~♪」
上機嫌で歌いながら、アリスは庭に笹を設置し、飾り付けをしていた。
「アリスお兄ちゃん、その歌はなぁに?」
「ん?この歌はね、七夕の歌だよ」
「たなばた?」
アリスはリリンに笑顔で答える。
「クガネの方から来た文化でね。七夕の日に願い事を書いた短冊をこの笹に飾ると願いが叶うって言われてるんだ」
「そうなんだ!私もお願い事書きたい!」
「これが短冊だよ!はい!どーぞ!」
「わーい!ありがとうアリスお兄ちゃん!」
リリンは嬉しそうに短冊を受け取ると、願い事を書く為に家の中へと入って行った。
それと同時に、家の門の前にテレポをしてきたへリオが現れた。
「ヘリオ!おかえり!」
「あぁ、ただいま。七夕の飾り付けしてるのか」
「うん!さっき、リリンちゃんに短冊渡したんだ!」
「そうか、あんたは何か願い事を書いたのか?」
ヘリオの言葉にアリスは困った様な笑顔を向けた。
「それがさ、なかなか思いつかなくて」
意外な返答に、ヘリオは内心驚いた。
てっきり、「今の生活が続くように」等と書いているのだろうと思っていたからだ。
「昔は、母さんが元気になるようにって書いてたけど、母さんが亡くなってからは、願い事を思いつかなくて、結局書かずじまいでさ」
「意外だな」
「そう?なんて言うのかな、自分の夢とかそう言うのを書く人がほとんどだと思うんだけど、俺は努力をすれば何とかなりそうなことは、書かないようにしてるんだ」
その言葉に、ヘリオは「じゃあ、どんなことを書くんだ?」と聞く。
「自分ではどうにも出来ないこととか、誰かの為に願い事を書くんだ。自分のことは大抵どうにかなるからな。まぁ、結果が思わしくなくて叶わないこともあるけど、それは自分の問題だろ?なにも、自分の為だけの願い事じゃなくて良いと思うんだ」
「なるほどな…」
ヘリオは「自分の為だけの願い事じゃなくて良い」の言葉に、目からウロコだった。
「誰かの為の願い事」ならば、自分でも書けそうな気がした。
「アリスお兄ちゃん!お願い事書けたよ!」
とびきりの笑顔で家から出てきたリリン。
「あ!ヘリオお兄ちゃんおかえりなさい!」
「ただいま、リリン」
「ヘリオお兄ちゃん!今日は七夕なんだって!だから、私お願い事書いたの!」
「なんて書いたんだ?」
ヘリオの質問に、リリンは短冊をヘリオに見せた。
「ほう」
「なになに?リリンちゃん、俺も見ていい?」
「うん!見ていいよ!」
アリスも短冊を覗き込む。
そこには
「みんなが笑顔でいられますように。」
「少しでも、人見知りが減りますように」
と書かれていた。
アリスとヘリオの顔は優しい笑みを浮かべる。
「叶うといいな」
「うん!」
「じゃあ、リリンちゃんの短冊を笹に飾ろう!」
「わーい!」
アリスはリリンから短冊を受け取り、高い位置に飾った。
「そうだ!リリンちゃんにプレゼントがあるんだ!」
「なぁに?」
「はい!七夕の絵本だよ!」
「わー!ありがとう!アリスお兄ちゃん!」
アリスの本のプレゼントはいつもの事だが、今回ばかりはヘリオは何も言わなかった。
こういった季節のイベントはリリンには初めての事。
そのイベントの由来になった物語の本となれば、話は別と思ったからだった。
そして、その夜。
ヘリオは庭の笹の前にいた。
[ヘリオ]として生まれてから、初めて書いた短冊を笹に飾る。
「こんなもんか…」
さっさと家に戻ろうとした時、アリスが家から出てきた。
「あれ?ヘリオ、こんな所に居たのか」
駆け寄ってくるアリスの手には、短冊が握られたいた。
「願い事、決まったのか?」
「うん!だから、飾ろうと思って」
そう言って、アリスが笹に目を向けると、短冊が1つ増えているのに気がついた。
「ヘリオも書いたんだ!」
「…まぁな…」
「なんて書いたんだ?見てもいい?」
「好きにしろ」
ヘリオの答えに「どれどれ」と短冊を確認したアリスは小さく笑った。
「笑うな!」
「ごめんごめん!なんか嬉しくてさ!」
「なにが嬉しいんだ!」
「ヘリオも俺と同じ事考えてたんだなって思ってさ」
「…は?」
そう言って、アリスは自分の短冊をヘリオに見せた。
そこには、自分と同じ事願い事が書かれていた。
思わずヘリオも「ふっ」と笑う。
アリスも「へへっ」と笑い、自分の短冊を笹に飾った。
「さ、家に戻ろう?」
「あぁ、そうだな」
家の中へと戻る2人。
そよ風に揺られる2人の短冊。
そこには
「リリン(ちゃん)の願いが叶いますように」
と書かれていた。
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