A.飲み会
情緒溢れるクガネの街。
アリスは義姉であるガウラと飲み会をする為にエーテライトプラザに1人で立っていた。
相手を待たせてはいけないと、早めに家を出たのは良いが、気が早すぎたのか、1時間も早く到着してしまった。
だが、待っている間、文化が全く異なる街並みを眺めているのは、飽きなかった。
衣服も見慣れないし、たまに通りかかる帝国兵の服装も、ひんがしの国のデザインを模していて、帝国も郷に入っては郷に従えの精神があるのだと、少し驚きもした。
そうやって時間を潰していると、見覚えのある白銀にピンク色のメッシュの入った髪色の人物を見つけた。
「ガウラさーん!」
「アリス!待たせたかい?」
「いえ!さっき来たとこです!」
相手に気を使わせないようにというのもあったが、実際のところ、早く来すぎたのを呆れられそうな気もして、お決まりのセリフを言う。
「誰かと飲むなんて、久しぶりで凄く楽しみにしてたんですよ!」
「いつもは1人で飲んでるのかい?」
「はい!実は1回だけお酒で失敗しちゃって、それ以来自宅で1人で飲んでるんです」
「なるほどね、失敗を元に自衛が出来てるならいいじゃないか」
「感心感心」と頷くガウラ。
「じゃ、潮風亭に行こうか!」
「はい!」
2人は肩を並べて潮風亭に向かい、空いている席に座る。
「ここの料理って変わったものが多いよな」
「そうですね。エオルゼアでは生魚の料理なんて無いですからね。俺の故郷にはクガネから来た人がいて、たまーに振舞ってくれてましたけど」
「ほう。じゃあ、馴染みの味って訳だ」
「そうですね、初めてクガネに来た時、懐かしくなりましたね」
そんな会話をしながら、適当に料理と酒を注文する。
程なくして、料理と酒が運ばれて来た。
「お、来た来た!」
「それじゃあ乾杯しましょう!」
「「カンパーイ!」」
ガラスのコップに入った清酒を1口飲む。
かなりアルコール度数が高いのか、体が一気に暑くなる。
「へぇ~、これ結構強いお酒ですね」
「国が違えば酒もこんなに違うんだな」
「これは好みが分かれそうですね」
「酒の弱い奴には飲めないヤツだな」
料理をつまみながら、1口、また1口と清酒を飲み進める。
「このスルメとか言うの、結構好きだな」
「あ、ガウラさん。それ、もっと美味しく食べる方法ありますよ」
「ほう?」
アリスはそう言うと、店員を呼び止め、マヨネーズと七味が無いかを尋ねる。
それを聞いた店員は笑顔でマヨネーズと七味を運んできた。
すると、アリスはスルメを手に取り、指先に弱いファイアを出して炙る。
炙ったスルメを七味のかかったマヨネーズに付け、ガウラに差し出した。
「どうぞ」
「どれどれ…、ん!これは良いツマミになるね!」
「でしょ!乾き物は炙ってこうやって食べると、最高のツマミになるんですよ!」
「これも、お前の故郷の食べ方かい?」
「はい!まさか、こんなところで役に立つとは思ってませんでしたけど」
意外なところで自分の知識が役に立ったのが嬉しくなるアリス。
次の酒が運ばれて来た時に、ガウラから話が振られた。
「そーいや、アリス。お前はなんで冒険者になったんだ?」
「あれ?ヘリオから聞いてません?」
「あいつがペラペラとそういう事を話すと思うかい?」
「はははっ!確かに必要以上のことは話さないですからね、ヘリオは」
笑って、運ばれてきた芋焼酎を1口飲む。
「俺は、父さんを探すために冒険者になったんです。最初は冒険者にならずに双剣士ギルドで情報を集めてたんですけど」
「なんで双剣士ギルドで情報を?」
「俺の父さん、海賊なんですよ。俺が赤子の時に1度逢いに来たらしいんですけど、それ以来顔を出しに来なくなったみたいで、俺は名前しか知らなかったんです。だから、海賊の情報が入ってくる双剣士ギルドに入ったんです」
「なるほどね。そこから冒険者になったと…」
「はい。なかなか情報が集まらなくて悩んでたところに、ある冒険者が英雄と呼ばれる程の偉業を成したって噂を聞いて、それで俺も冒険者になって活躍出来れば、父さんの方から気がついてくれるんじゃないかって思って」
「それって…」
ガウラにとっては耳が痛い話であった。
そして、まさか自分の活躍がきっかけの1部になっているとは露ほども思っていなかった。
「…で、父親は見つかったのかい?」
「んー、正確に言うと会えなかった…が正しい言い方なのかな?」
「どういうことだい?」
「実は、かなり前に父さんはこの世を去っていたんです。海賊同士の抗争で…」
「あ…、悪い」
「いえ!俺の方こそすみません、お酒の席でこんな暗い話しちゃって!」
「さ、話題を変えましょ!」と、アリスはガウラの空になったコップに酒を注ぐ。
そこから話題は、アリスが体験してきた冒険の話や近況報告。戦いの時の立ち回りの話などに変わっていった。
「ガウラさーん?ガーウーラーさーん!起きてください!もう閉店するみたいですよー」
テーブルにうつ伏せているガウラの肩を、アリスは軽く揺する。
話が弾んで、酒も進み、かなりの量を飲んだガウラは、気分が良くなりすぎたのか、そのまま寝てしまっていた。
「ガウラさーん?」
「ん~…」
「あ~…これは起きないヤツだ…、仕方ない」
先に会計を済ませ、ガウラの元に戻ったアリスは、ガウラを抱えあげた。
その体は、思いのほか軽かった。
ガウラをお姫様抱っこをしたまま、アリスは潮風亭を出て望海楼へ向かう。
受付で部屋を2つ取り、部屋へと向かう。
アリスは、ベッドにガウラを寝かせ、布団を掛けた。
「おやすみなさい、ガウラさん。良い夢を」
そう声をかけると、アリスはもう1つの部屋へと向かったのだった。
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