A.変化と欲
「う……ん……」
窓から差し込む光に、うっすら目を開く。
「朝か…」
いつもなら、そのまま体を起こすのだが、今日はなんの予定もない俺は、二度寝をしようとまた目を閉じ、隣で寝ているヘリオに抱きついた。
そこで、違和感を覚えた。
いつもより細身に感じるヘリオの体に思わず手を引っ込め、体を起こした。
そして、ヘリオの顔を見て驚愕した。
「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」!!!!」
言葉にならない悲鳴を上げ、ベッドから転げ落ち、盛大に後頭部を強打する。
俺の悲鳴と転げ落ちた音に、流石のヘリオも目を覚ましたのか体を起こす。
「なんだ…騒々しい…」
「ヘ…ヘリオ…?」
「あ?……あー……」
ヘリオは自分の体を見て、思い出したかのような顔をした。
そう、ヘリオの体は女性になっていた。
しかも顔はガウラさんそのまま。今までは男と女の違いで多少の違いがあったのが、女性になったことで、まんまガウラさんがそこにいる様だった。
驚きで池の鯉のように口をパクパクしてる俺を見て、ヘリオは吹き出した。
イイ反応だと言わんばかりのその笑いに、俺はからかわれたのだと悟った。
「なぁ…昨晩、俺が寝た後にわざと女になっただろ?」
「さぁ?どうだろうな」
1年ぐらい前、ヘリオに連絡がつかなくなった時があった。
そして、帰宅したヘリオが女になっていた。
たぶん、今回もそれなのだろうが、その時と違う点は[自分の意思で姿を変えた]ということだろう。
だが、やられっぱなしは癪だ。
それに、今後もこんな風に姿を変えられては堪らない。
俺は牽制を入れることにした。
肩を震わせ、「くくっ」と笑っているヘリオに近づく。
「……ヘリオ」
「ん?………っ!?」
名前を呼ぶと同時に、ヘリオをベッドに押し倒した。
目を見開き、驚いた表情で固まっているヘリオ。
「なぁ、俺が男だって分かってる?」
「……」
「惚れてる相手が異性になれば、欲も湧くんだよ?まぁ、それを望んでるなら話は別だけど」
「っ!?」
俺の言葉にヘリオは息を飲む。
「そうじゃないなら、面白半分で姿を変えないでくれ。勘違いしても責任とらないからな」
俺はそう言って、ヘリオから離れた。
「さぁ、着替えてご飯にしよ!」
振り返り、笑顔でそう言って、俺は着替えを始めた。
着替え終えた頃には、ヘリオも着替えの準備を始めていたが、表情は気もそぞろといった感じだった。
寝室を出て、リリンちゃんの部屋を通ると、既にリリンちゃんは出かけた後の様だった。
1階に上がると可愛らしい置き手紙に「アリスお兄ちゃん、ヘリオお兄ちゃん、行ってきます!」と書かれており、気持ちが和んだ。
それはヘリオも同じだったらしく、優しい笑みが浮かんでいた。
そして、朝食を作り、席について食べ始める。
「なぁ、ヘリオ!今日、ヘリオも予定無かったよな?」
「え?あぁ、予定はないが…」
「じゃあさ、ヘリオの青魔道士のパワーレベリング行かないか!?」
「は?」
呆気に取られるヘリオの顔。
「男の時と見え方が違うだろ?前に1度女になったとはいえ、期間が開いてるし、肩慣らしにさ!」
「あんたのレベリングは?」
「俺、この前リンちゃんに手伝ってもらって、青魔のレベリング終わったんだ!容量も何となく掴んだし、いけると思う!」
「ほう」
「レベリング終わったら、少しラーニングもしに行こう!」
「なんか、ハードスケジュールになりそうだな」
俺の提案に、ヘリオは苦笑いする。
「分かった、行こうか」
「やった!じゃあ、準備しよう!」
準備をし、パワーレベリングの為に西ザナラーンの帝国軍前哨基地に来た。
ヘリオがヘイトを取った帝国軍を、俺が暗黒騎士でなぎ倒していく。
最初はレベル差がありすぎて、遠隔攻撃の敵に、ヘリオが戦闘不能になったりしたが、そこは白魔を出して蘇生をいれたりと、なかなかにてんやわんやしていた。
ヘリオのレベルが40代になったあたりで、ヘリオが装備更新に離脱。
そこからアジス·ラーでのレベリングに切り替え、あっという間に青魔道士をカンストさせた。
「なかなかに爽快だったな」
「だろ?次はラーニングか…。ラーニングの前に飯にしよう!」
「もう昼回ってるのか」
時間を確認したヘリオは食事の準備を始める。
俺も、手伝えることをこなす。
食事が出来上がり、昼食を摂った後、少し胃を休める為に休憩する。
「それにしても、流石は双子だよなぁ。女性になると、まんまガウラさんみたいだ」
「そうか」
「でも、仕草とか、話し方が違うから少しホッとする」
そう言って微笑むと、ヘリオは少し頬を紅く染めてそっぽを向く。
─あぁ、可愛いなぁ─
俺はヘリオの頬に手を伸ばし、そのまま口付けをした。
ヘリオは一瞬固まった後、慌て始めた。
「あ、アリス!こんな所でっ!!」
「人の気配はないから大丈夫だよ」
「そんなの分からないだろ!」
睨まれて、俺は体を離した。
「なぁ、素朴な疑問なんだけどさ」
「なんだ?」
「今の状態って、体の構造も女性になってるのか?」
「恐らくな」
「そっかぁ」と、ヘリオの顔をじっと見ていると「なんだ?」と怪訝な顔をされる。
「いやぁ、本当に女性の体になってるのか色々調べてみたくないのかなぁって思って…」
俺がそう言うと、言葉の意味を理解したのか全力で「ないっ!!」と拒否された。
「あんた、何を考えてるんだっ!」
「だから朝言ったろ?欲が出るって。まぁ、女性の体になってなくても、俺は色々我慢してるんだけどさ」
「はぁ?!」
赤くなったり青くなったりしてるヘリオの顔を見て、思わず噴き出す。
「…あんた、からかってるだろ?」
「いや?言ってることは本心だよ?でも、あまりにヘリオの顔色の変化が目まぐるしいから」
ほんと、前に比べると表情が増えたよなぁと言うと、少し考えるように目線を外らすヘリオ。
「あんたといると、調子が狂う…」
ヘリオにそう言われ、俺は苦笑いをするのだった。
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