A.家族像
青魔道士のパワーレベリングとラーニングを終えて家に着くと、窓に明かりが灯っていた。
「ただいま」と家に入ると、先に帰宅していたリリンちゃんが出迎えてくれた。
「アリスお兄ちゃん!おかえりなさい!…あれ?」
リリンちゃんは、ヘリオを見て首を傾げた。
「ガウラお姉ちゃん?いらっしゃい!」
疑問符が付いたのは、多分、リリンちゃん自身、違和感を感じたのだろう。
俺はリリンちゃんに近寄った。
「リリンちゃん、前に教えたエーテルを見る方法をやってご覧」
「エーテルを見るの?」
リリンちゃんはヘリオに意識を集中して見つめる。
「え?ヘリオお兄ちゃん?」
「お、よく出来ました!そう、ヘリオだよ」
「ヘリオお兄ちゃんおかえりなさい!」
「あぁ、ただいま」
リリンちゃんはヘリオに近寄り、笑顔で出迎えた。
「ところでヘリオお兄ちゃん、幻想薬でも使ったの?」
「…まぁ、そんなところだ」
「そっか!」
説明するのがめんどくさかったのだろう、簡潔に答えるヘリオに思わず俺は苦笑した。
「さ、晩御飯にしよう!」
「俺が作る」
「わかった。俺、汗流したいから先にシャワー浴びてくる」
「じゃあ、リリンはヘリオお兄ちゃんのお手伝いするね!」
ヘリオとリリンちゃんはキッチンに向かい、俺は寝室で着替えを取り、シャワールームへと向かう。
汗を流し、着替えて出てくると、鼻をくすぐる良い香り。
思わず顔が綻ぶ。
「今日はムニエル?」
「あぁ、今焼き始めた所だ」
「まだ、手伝うことある?」
「いや、無い。リリンが手伝ってくれてるからな。あんたは晩酌でもして待っててくれ。つまみはこれな」
「ありがとう!」
渡されたほうれん草とベーコンのバターソテーを受け取り、グラスとウィスキーを取り出し席に着く。
すると、リリンちゃんが氷を持って来てくれた。
「はい!アリスお兄ちゃん!」
「お!ありがとう、リリンちゃん!気が利くね!」
「えへへ!」
リリンちゃんの頭を撫でると、嬉しそうに微笑むリリンちゃん。
(素直で可愛いなぁ~)
キッチンへと戻っていくリリンちゃんを眺めながら、グラスに氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。
そして、ウィスキーを1口飲んだあと、つまみを口に入れた。
「ん!美味い!」
「ほんと!?それね、リリンが作ったんだよ!」
「リリンちゃん、料理上手になったね!凄く美味しいよ!」
「やった!」
「ヘリオの教育の賜物だな!」
「…大袈裟だろ」
照れくさそうにそっぽを向くヘリオ。
そう言えば、1年前に比べて、ヘリオは色んな表情をする様になったよなぁ。
ふと、1年前にガウラさんに言われた言葉を思い出す。
"あれは感情の全てを知らないだけだ。
私が教えることはできない。お前が代わりに教えてやってくれ"
ヘリオの表情が増えたという事は、少しは言われた事を実行出来ているのだろう。
そう思ったら、何だか自然と顔がニヤケた。
「何をニヤニヤしてるんだ?」
「いや、ちょっと思い出し笑い」
「?」
こんな事を言ってしまえば、ポーカーフェイスを維持されそうなので、何とか誤魔化した。
晩酌をしてるうちに、晩御飯が出来、テーブルに並べられる。
「お!美味そう!」
「さぁ、食べるぞ」
「うん!」
「「「いただきます」」」
ムニエルを口に運ぶ。
「んーっ!うんまっ!」
「それはよかった」
「うん!俺、ヘリオの作る料理好きだなぁ」
「っ!?」
俺の言葉に、思わず咽るヘリオ。
「あ、あんた!前にも言ったが、照れくさくなるような事をいきなり言うなっ!」
「えー?でも、ホントの事を言ってるだけなんだけど…」
「~~~っ」
「ふふふっ」
そんな俺たちのやり取りを見て、リリンちゃんが笑いをこぼす。
「あんたのせいでリリンに笑われたじゃないか…」
「え?!俺のせい!?」
「なんか、お兄ちゃんたち見てると、お父さんとお母さんみたい」
「「え?」」
リリンちゃんの言葉に思わず顔を見合わせる。
「アリスが女になった時に、そんな事言わなかっただろ?」
「え?だって、アリスお兄ちゃん、作れるお料理と作れないお料理があるから」
「??」
「あーっ!なるほど!」
要領を得ないヘリオとは裏腹に、俺はリリンちゃんの言葉に手をポンと叩いた。
「リリンちゃんが読んでる絵本のお母さんは、ちゃんと料理が作れるから、そのイメージが強いんだね」
「うん!」
「あー…」
ヘリオは納得はするも複雑そうな表情をした。
だが、本当に嬉しそうなリリンちゃんの顔を見て、直ぐに苦笑いに変わる。
暖かな雰囲気で夕飯を終え、片付けをし、まったりとした時間を過ごした後は、寝る準備に入った。
「ねぇ、アリスお兄ちゃん…」
「ん?なぁに?」
「えっと…えっとね…」
リリンちゃんはモジモジして、なかなか要件を言い出せない。
このリリンちゃんの反応は、何がして欲しい事があるのに遠慮して言い出せない時のだ。
「どうしたの?遠慮せずに言ってごらん」
目線を合わせて笑顔で優しく言うと、リリンちゃんは俺とヘリオの顔を交互に見て、遠慮しがちに答えた。
「あ、あのね。さっき、お兄ちゃん達のこと、お父さんとお母さんみたいって言ったでしょ?」
「うん。言ってたね」
「それでね。えっとね…」
リリンちゃんは意を決したのか、1冊の絵本を目の前に出した。
「この絵本の最後のページと同じように寝たいなって思って…」
その絵本は、最近買ってきて、俺が読み聞かせをした事のある絵本だった。
「あー、あれか!お父さんとお母さんの間に子供が寝てるのと同じようにしたいの?」
「う、うん…」
俺とヘリオの間を邪魔したくないって気を使ってるリリンちゃんにとって、これを言葉にするのはかなりの勇気がいっただろう。
それに、モーグリに育てられたリリンちゃんが[家族]というものに憧れを持っていてもおかしくは無い。
俺は笑顔で答えた。
「いいよ!リリンちゃんのお願いなら、喜んで叶えてあげる!」
「えっ!いいの?!」
「うん!ヘリオもいいよな?」
「あぁ」
「決まり!」
「わーい!」
リリンちゃんは嬉しそうに自分の枕を抱えて俺たちの寝室へ。
俺は、自分の枕とヘリオの枕を離し、リリンちゃんの枕を置いた。
リリンちゃんを間にして川の字に横になると、満足そうな顔をした。
「ねぇ、もうひとつお願いがあるの」
「なんだい?」
「今だけ、お父さん、お母さんって呼んでも良い?」
「俺は構わないよ」
「…リリンがそれで満足するなら好きにしたらいい」
「えへへ、ありがとう!」
すると、リリンちゃんは体を起こし、俺たちの顔をしっかり見つめた。
「お父さん、お母さん、おやすみなさい」
「おやすみ、リリンちゃん」
「おやすみ、リリン」
挨拶を交し、寝に入るリリンちゃん。
数分もしないうちに、呼吸が寝息に変わる。
俺とヘリオは、リリンちゃんの寝顔を見つめたあと、互いに顔を見合わせた。
「リリンちゃん、幸せそうだな」
「そうだな。そういうあんたは、お父さんって呼ばれて、かなりニヤけてたな」
「えっ!?そんなに顔に出てた?!」
「あぁ、親バカ並に」
「うーわっ!恥ずかしいっ!」
あまりの恥ずかしさに顔を両手で覆う。
それを見て「ふっ」と笑うヘリオ。
「さ、いい加減寝るぞ」
「…うん、おやすみヘリオ」
「あぁ、おやすみ」
瞼を閉じると、簡単に眠りに落ちた。
その日、夢を見た。
優しく微笑む母さんと父さんがいて、幼い俺が2人に抱きしめられている夢だった。
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