A.前世から続く想い
アーモロートの街中にある広場。
話し込んでいる人達を、ベンチに座って眺めている人物がいた。
彼は話し込んでいる人達の1人を、何をする訳でもなくポーっと見つめていた。
「おや、またキミは[カレ]を見つめているのかい?」
声をかけられ振り向くと、そこにはヒュトロダエウスがいた。
「はい。なんだか目が離せなくて…」
「キミは変わってるねぇ。アゼムが魔力を制御するために作った分身に想いを馳せるなんて」
面白そうに小さく笑うヒュトロダエウスに、彼は困った様な笑みを浮かべる。
「自分でも、おかしいと思いますよ。でも、気になってしまうんです」
そう言って、彼はまた視線をアゼムの分身に戻した。
「そんなに気になるのなら[カレ]に声をかけてみたら良いじゃないか。[カレ]は創造物とはいえ、私達と変わらず意思はあるんだから」
ヒュトロダエウスの言葉に、彼は苦笑しながら答えた。
「何を話せばいいのか分からないですし、それに、十四人委員会のアゼムさんの分身ですよ?アゼムさんが多忙で見かける事も稀なのに、一般人の俺が邪魔したら悪い気がして…」
「アゼム自身がそう言うのを気にしないから平気だと思うんだけどね」
そんな会話をしていると、ヒュトロダエウスに気がついたアゼムが、「おーい!」と手を振り、ヒュトロダエウスは彼に「呼ばれたから失礼するよ」と去っていった。
その日を境に、世界の状況は悪化し、十四人委員会からアゼムが脱退。
それ以降、彼は[カレ]を見かける事が無いまま、世界は14に分かたれた。
**********
「ここが、アーモロートか…」
第一世界のテンペストにある、エメトセルクが創り出した古代の街。
アリスは、義姉のガウラにアーモロートの名前を聞いた時に、何故が行ってみたいという衝動に駆られた。
そして、いてもたってもいられなくなり、アーモロートへと来た。
「なんだろう。懐かしい感じがする」
キョロキョロと周りを見渡し、古代人の幻影とすれ違いながら、幻想的な街並みを歩く。
ふと、広場を見つけ、そこにあるベンチに腰掛けた。
ボーッと眺めていると、「隣、いいかな?」と声をかけられ、そちらに顔を向けると、1人の古代人。「あ、どうぞ!」と答えると、古代人は隣に腰掛けた。
「不思議なこともあるものだ。まさか、キミに出会えるなんてね」
「え?」
アリスは驚くと、古代人はクスッと笑う。
「ああ、すまない。キミと同じ魂を持った人と、よくここで話をしていたんだよ」
「あぁ、そういう事ですか!貴方の生きていた時代の俺って事ですね」
「理解が早くて助かるよ」
「いえ、知人にここの話を大体は聞いているので…」
アリスの言葉に、古代人は「知人?」と首を傾げた。
「はい!その知人に話を聞いて、なんだかここに来たくなってしまって…」
「なるほどね、ひょっとしたら、魂の記憶が少し呼び起こされたのかもしれないね」
古代人は面白そうに答えた。
「そう言えば、先程、昔の俺とよく話していたって言ってましたけど、どんな話をしていたんですか?」
「一言で言うなら恋バナかなぁ」
「恋バナ?!」
「うん。当時のキミは片想いをしていてね。この広場で、よく想い人を眺めていたよ」
「片想い…」
片想いと言う言葉に、アリスが考え込んでいると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
弾かれるように声の方に顔を向けると、そこにはヘリオの姿があった。
「ヘリオ?どうしてここに?」
「何も言わずに何日も家を空けるから探しに来たんだ」
「え?何日もって…まだこっちじゃ1日も経って無いんだけど…」
「原初世界と第一世界では時間にズレがあると姉さんにも言われただろ。こっちに来るなら一言でも言ってから来ないと、何かに巻き込まれたのかと思うだろ。ただでさえ、あんたは無茶するんだから」
大きな溜め息を吐くヘリオに、アリスは「ごめん」と苦笑い。
その2人の様子を、古代人は驚いた様子で見ていた。
「あれ?どうかしました?」
アリスの言葉に古代人はハッと我に返った。
「キミたちは、どう言った関係なんだい?」
「え?俺達はパートナーです」
「パートナー…」
それを聞いた古代人は、クスクスと笑い始めた。
キョトンとするアリスとヘリオ。
「すまないね、笑ったりして。いやぁ、キミはやっと[カレ]に想いを告げられたんだね」
「え?[カレ]って……」
「時代を経て、両想いになれて良かったじゃないか」
「?!」
アリスは驚き、ヘリオと古代人の顔を交互に見る。
「何の話だ?」
話の流れが見えないヘリオが疑問を投げた。
「えっと…、古代の俺が片想いをしてたらしいんだけど、その片想いの相手が古代のヘリオだったって事だと思う…」
「…ほう」
「そういうことですよね?」
同意を求めようと古代人の方に振り返ると、そこに古代人の姿は無かった。
「…あれ?居なくなってる…」
「…たぶん、さっきの古代人、姉さんが言っていたヒュトロダエウスだったんだろう」
「そうか、だからなんか、こっちの事情を知ってそうだったのか…」
アリスは先程までヒュトロダエウスが座っていたベンチを見つめる。
「それにしても、古代の時代から俺はあんたに目をつけられていたんだな」
「なんだよその言い方。なんか気に入らない奴をタゲしてる言い方じゃんか」
「ほかに良い表現が思いつかなかったもんでな」
「もー!」
アリスの反応に、笑いを堪えるヘリオ。
からかわれていると分かっていても、アリスは不思議と嫌な気持ちではなかった。
「でも、魂が記憶してたとしたら、それほど古代のヘリオの事が凄く好きだったんだろうなぁ」
「どうだか?」
「だって、時代を跨いで、ヘリオを好きになってるんだから、間違ってないと思うけど?」
「…あんた、相変わらずサラッと恥ずかしいこと言うよな…」
呆れながらも、頬を少し紅らめて言うヘリオ。
「さ、帰ろっか!リリンちゃんも心配してるだろうし。ヘリオ、探しに来てくれてありがとな!」
そう言ってアリスは歩き出した。それを追うようにヘリオも歩く。
古代からの魂の記憶。
また[カレ]と出会いたい。
その願いと想いは、これからも魂に記憶されていくことだろう。
今のアリスも、「生まれ変わっても、ヘリオと出会いたい」と、同じように思っていた。
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