A.心配事は突然に


それは、アリスがウルダハの裏路地の入口付近を通りかかったときだった。
一通りもまばらなその場所で、家族の1人、リリンを見かけた。
そのリリンの表情は怯えており、壁に背をつけ追い詰められている様子だった。
ただ事ではない様子に、アリスは足を止め、周りを見渡すと、リリンに詰め寄る1人の男。
下心を隠そうともしないその顔に、アリスは何が起こっているのかを察したと同時に、アリスの中でブッツンと何かが大きな音を立てて切れる音がした。
早歩きで2人の元に向かい、リリンと男の前に割って入った。

「アリスお兄ちゃんっ」
「あんた、うちの身内に何してんの?」

男に向けたアリスの顔は、海賊であった父親の血なのか、まさに極悪な笑みだった。
男は一瞬「っ?!」と怯んだが、獲物を盗られてなるものかと言うプライドなのか、アリスに食ってかかった。

「邪魔すんじゃねぇっ!!」

男は叫びながら拳を繰り出す。
その拳の腕を、いとも簡単に掴んで動きを止めた。

「何をしてるんだって…聞いてんだろっ!!!」

身動きが取れなくなった男の鳩尾に、アリスの拳が叩き込まれる。

「うぐっ…」

呻き声を上げて崩れ落ちる男に、冷ややかな目線で見下ろすアリス。
男が気を失ったのを確認すると、アリスはリリンの方に振り返った。

「リリンちゃん、大丈夫?」

その顔は、いつもの優しい笑み。
リリンはホッと安心した顔で「うん!」と答えた。
それを聞いてアリスは安堵し、「家に帰ろ?」と促し、帰路に着く。
その途中、リリンはアリスに話しかけた。

「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?なんだい?」
「さっきのお兄ちゃん、お茶しない?って言ってたんだけど、どういう意味なの?」

リリンの言葉に、アリスはナンパをされているという憶測が当たっていたことに苦笑いした。
そして、一瞬返答に悩む。
アリスと出会うまで人と接せず育った彼女に、その言葉の意味を伝えるのに抵抗があった。

「えっと、それはね、カフェでお茶を飲みながらお話しないってお誘いだったんだよ」

苦笑いのまま、そう答えると「そっかぁ」と考え込むリリン。

「それなら、一緒にお茶してあげれば良かったかなぁ…」

その呟きを聞いたアリスは、一気に血の気が引き、思わずリリンの両肩を掴んだ。

「っ?!」
「リリンちゃん!知らない人とお茶しちゃダメだよ?わかった?」

アリスの引きつった笑みに、物言わぬ迫力を感じ、一瞬息を飲んだリリンだが、すぐにいつもの無垢な笑顔で「はーい!」と元気よく返事をした。
この日からしばらくの間、アリスの過保護が酷くなったのは言うまでもなかった。


気絶した男の傍に1人の男が佇んでいた。
男はアリスの相方であり、リリンの家族であるヘリオ。
ヘリオも、ナンパの一部始終を見ていたが、アリスが先に行動を起こしたので、影から静観していた。
アリスから制裁を食らったとはいえ、この男がまた同じことをしないとは限らない。
ヘリオは男を担ぎあげ、ウルダハの外へと出た。
凶暴性の低い魔物の巣に辿り着くと、ヘリオは男を巣へと放り込んだ。
好戦的な魔物では無いとはいえ、魔物は魔物。少しはお灸になるだろう。
そして、ヘリオは何事も無かったかのようにその場を立ち去り、2人の待つ家へと帰るのであった。




とある冒険者の手記

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