C.友人
冒険者で賑わうカーラインカフェ。
その中で、暗い表情で一人紅茶を飲んでいるカルの姿があった。
彼のトラウマ克服訓練は、少しずつ成果が見られるようになってきた。
だが、やはり誰かが傷付くと、動悸と軽い過呼吸を起こす。
気絶する事は無くなったが、まだまだ克服までには時間を要する。
白魔法のセンスはズバ抜けて良く、白魔道士として優秀と言えるほどの能力を持ちながら、トラウマのせいで力を発揮出来ないのがもどかしい。
自分はなんの為に幻術師ギルドの門を叩き、白魔道士になったのか。
大きな溜息を吐いた時、「カルじゃないか!」と声をかけられた。
振り向けば、そこには古い友人ガウラの姿があった。
「ガウラちゃん…」
「暗い顔してどうした?呼び方も昔に戻ってるし…」
「すみません。どうやら気が滅入ってしまってるみたいです」
「私で良ければ、話を聞くよ」
無理に笑顔を作って話すカルを放っておけなかった彼女はそう答え、相席をした。
カルは、ポツリポツリと今の憤りを話し始めた。
「なんか、自分が情けなく感じてしまって…」
「私はそうは思わないよ」
「なぜです?」
「カルはトラウマを克服しようと頑張ってるだろ?それに、少しずつだけど、改善されてきてるじゃないか」
「………」
「本当に情けない奴って言うのは、トラウマを理由に何もしない奴だと私は思うよ」
「ガウラちゃん…」
ガウラの言葉に、瞳が潤む。
「もし、克服のために私やアリス、サランに迷惑かけてると思ってるなら、それは間違いだからな。前に進もうとしてるお前だからこそ、皆手伝いたいって思ってるんだ」
「……」
「冒険者だってそうさ。1人じゃできないことは皆で助け合う。やる気のない奴には誰も手を貸さない。人ってそういうもんだろ」
「そうですね…ありがとうございます。少し心のモヤが晴れた気がします」
「なら良かった!」
先程とは違う、しっかりした微笑みを浮かべるカルに、ガウラもニッコリと微笑む。
そこでふと、ガウラが思い出した様に言った。
「そうだ!話は変わるんだけどさ」
「はい?」
「カルの右の手首付近に刺青あったろ?久しぶりに見せとくれよ」
「あぁ、いいですよ」
カルは右の袖を捲る。
そこには白い4枚花弁の花の刺青があった。
「これこれ!相変わらず綺麗だよな」
「ふふっ。ガウラちゃん、これ見るの好きでしたね」
「あぁ。なんか懐かしい感じがしてなぁ。カルの家系の習慣なんだったよな?」
「えぇ。6歳の頃に祖母が亡くなる前に話してくれたんです。ご先祖様がこの刺青を入れる習慣があった見たいです。その人はグリダニアの森の最深部から出てきたらしいですよ。魔力を制御する為に入れていたらしいです。白魔法が得意だったみたいなので、僕が白魔法を使えるのはそのせいかもしれないです。まぁ、僕の魔力は人並みですけれどね」
「そうだったね!その話も、なんだか懐かしさを覚える話でさ」
「もしかしたら、ガウラちゃんは僕のご先祖様と縁(ゆかり)があるのかもしれないですね」
「もしそうだったら、世間は狭いよなぁ!」
すっかり昔の2人な会話になり、思い出話に花が咲いた。
その後、ガウラと別れたカルは、自分の為に協力してくれる人達の為に、少しでも早くトラウマを克服しようと、気持ちを持ち直したのだった。
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