A.ヴァレンティオン2021
今年もヴァレンティオンの季節がやってきた。
去年は色々あったが、今年こそは普段の姿でパートナーと過ごしたいと意気込むアリスの姿がそこにはあった。
「ヘリオ、今日はグリダニアでデートしよ!」
朝食を囲んで、ヘリオに嬉々として提案する。
突然のデートの言葉に、思わず食べていた物が喉に詰まり胸を叩きながら水で流し込むヘリオ。
「だ、大丈夫か?!」
「あ、あんた、突拍子もなく照れくさくなる単語を言うな!!」
「えー…」
頬を少し赤らめながら言うヘリオに、アリスは困った顔をした。
「なぁ、俺たちパートナーになってもうすぐ2年になるんだぞ?そろそろ慣れようよ」
「…恥ずかしいもんは恥ずかしいんだ!仕方ないだろ…」
バツの悪そうな顔で目線を逸らすヘリオ。
そんなパートナーが可愛いなぁと思い、アリスの顔がニヤける。
「それで、どうする?グリダニア行く?」
「…今年はヴァレンティオンとプリンセスデーが合同開催みたいだからな…まぁ、いいぞ」
「やった!!」
素直に喜ぶアリスに、自然と笑顔になる。
朝食を終え、去年取得したヴァレンティオンの衣装に着替え、2人はグリダニアへと向かった。
毎年のことながら、ミィ·ケット野外音楽堂は多くの人でごった返していた。
飾りを眺めながら2人で歩いていると「お兄ちゃーん!」と声がした。
振り向くとそこに居たのはリリンだった。
「リリンちゃん!」
「アリスお兄ちゃん!ヘリオお兄ちゃん!」
「リリンちゃんもイベント参加しに来たの?」
「それもあるけど、お兄ちゃん達に渡したい物があったから、ここに来れば会えるかなって思ったの!」
「渡したい物?」
そう言って、リリンはアイテムカバンから可愛らしい包みを2つ出し、アリスとヘリオに差し出した。
「ハッピーヴァレンティオンだよ♪」
「ありがとう!リリンちゃん!」
「ありがとな」
「いいえ!どういたしまして!じゃあ、私、フレンドさん達と待ち合わせしてるから、またね!」
「気をつけていくんだよ!」
「はーい!」
手を振って立ち去るリリン。
だが、そこからが大変だった。
リリンと同じ目的のフレンドや知り合い達から、ひっきりなしに呼び止められ、ヴァレンティオンのチョコを2人で受け取ることになった。
そして、気がつくとチョレートいっぱいの紙袋が3袋にもなっていた。
「やっぱ、ヘリオモテるな。2袋もあるのか…」
チョコの受け取りに疲労しきりながらも、自分のパートナーの受け取ったチョコの量に驚く。
「いや、1袋は姉さん宛だ。たぶん間違えたんだろ…」
「マジか…」
今回のように短時間で大人数と接触することが少ないせいか、流石のヘリオも疲労の色がみてとれた。
「じゃあ…ガウラさんの所に届けに行こう…」
「…あぁ…」
ヨロヨロと立ち上がり、エーテライトプラザからラベンダーベッドにあるガウラの家へと移動し、玄関のドアをノックした。
「ガウラさーん!お邪魔しまーす!」
声をかけて室内に入ると、そこにはテーブルいっぱいに置かれたチョコレートと睨み合っているガウラの姿。
あまりの量に、アリスとヘリオの動きが止まった。
「ん?…あ!お前たち、ちょうどいい所に!」
「「?」」
「お前たち、甘いの好きだったよな?食べるの手伝っとくれ!」
「「え?!」」
さすがに顔が引き攣る2人。
そして、ガウラは2人が持っている紙袋に気がついた。
「おー、お前たちも結構貰ったんだねぇ」
「1袋分は姉さんのだ」
「はい?」
「たぶん、間違えて持ってきたんだと…」
「……」
ガウラはゲンナリした表情を浮かべた。
自分が苦手な甘い物とは言え、人から貰ったものを無闇に捨てる訳にもいかない。
ガウラは袖をまくり、気合を入れた。
「よしっ!とりあえず、チョコの選別からだ!ビターチョコとそうでない物を別けるよ!」
その言葉に、アリスとヘリオは引きつった表情のまま頷いた。
そして、山のようなチョコの選別が終わり、3人では処理しきれないと踏んだガウラは、フレンドを呼び出し、大勢でのチョコレート殲滅戦を開始した。
最初は良かったものの、あまりの量に次第にその場にいる人達の表情が消えていく。
チョコレートを殲滅し終えた頃には、死屍累々状態。
「…もう…しばらくは…チョコ…見たくない…」
誰かの呟きが聞こえ、皆、それに頷き力尽きたのだった。
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