A.別れの形は
グブラ幻想図書館で、アリスは呆然と座り込んでいた。
ガウラとヘリオの関係、それを維持していく方法は無いのかを探し、かなりの日にちをかけて読み尽くしたエーテル学の本。
時には古代文で記された本をも手に取り、解読をしながら読み漁った。
図書館にあるエーテル関係の本は全て読み尽くした。
「…無かった…2人が安全に存在し続ける方法なんて…無かった…」
瞳からこぼれる涙。
全身を蝕む絶望。
希望なんて、存在しなかった。
これだけ努力して、探したのに分かったことは2人が元の1人に戻ることが最善策であり、その方法の記述のみ。
本体のエーテルを支障がない状態に戻しつつ、エーテル体が存在し続ける方法など、どの本にも無かったのだ。
「俺は…どうしたら…」
静かな図書館に弱々しく響くアリスの言葉。
膝を抱え、顔を埋め、1人静かに泣き続けた。
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「おい、起きろ!」
かけられた声と同時に身体を揺さぶられ、アリスは目を覚ました。
顔を上げると、呆れた表情のヘリオの顔がそこにあった。
泣いているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしく、既に辺りは暗くなっていた。
「まったく、こんな所で寝てたら、モンスターに襲われても文句は言えないぞ」
「ごめん…調べ物してたら寝ちゃったみたいだ…」
目を擦りながらそう言うアリスに、ため息を吐くヘリオ。
「なかなか帰ってこないから、リリンが心配してる」
「それで探しに来てくれたのか、迷惑かけてごめん」
いつもなら、苦笑混じりに言うアリスが、落ち込んだ顔でそう言うのに違和感を感じるヘリオ。
だが、直ぐにアリスは立ち上がり
「探しに来てくれてありがとう。帰ろう」
と、弱々しく微笑んだのを見て、ヘリオは何も聞かずそのままアリスと帰宅した。
その日から、アリスはボーッとしている事が多くなった。
自分でもその事に気がついているらしく、大人しく家にいる事が多くなった。
日中はリリンもヘリオも外に出ている為、1人で考え込む。
「結局…、努力をしても俺は誰一人助けられないのか…」
2人を存在し続けさせたい。
それは2人の望みではない。
自分のエゴで我儘だと分かっていても、"何も出来ない"という事実は消えない。
「また…失うのか…何も出来ず…母さんの時のように」
そう言葉にして、胸が苦しくなる。
世話と看病だけしか出来ず、ただ弱っていく母を看取るしか出来なかった。
己の無力を感じながら迎えた母との別れ…。
「…別れ…?」
その言葉にハッとする。
生きていれば、別れは必然的にやってくる。
意見が合わずに仲違いする別れ、死という形での別れ。
形は違えど、出会いがあれば別れがあるのは当然ということに気が付いた。
「エーテル体は本体に帰ろうとする。それがすぐに出来るのであれば、ヘリオとガウラさんは元の1人に戻っているはずだ…」
2人が存在し続ける方法だけを考えていたアリス。
2人がどれだけの間、分離した状態なのかは分からないが、ヘリオの性格上、ガウラが危険な状態ならばどんな手段を使っても、エーテルとして帰ろうとする筈である。
それをしないのは、まだ猶予があるのだと、そう考えられないだろうか?
「…だとしたら、いつまでも落ち込んでないで、一緒に居られる時間を大事にした方が、クヨクヨしてるよりもずっといい」
無いものは無い。
なら諦めて、いつ来るか分からない"別れ"の時まで、自分の想いを精一杯伝え、幸せな時間を過ごした方が後悔しない。
「ははっ、こんな簡単な事、なんで気が付かなかったんだろ」
アリスは自分に苦笑いする。
「ひとつの事に執着すると周りが見えなくなるって本当だな」
いつか来る別れの時に、一瞬でも「幸せだった」と、ヘリオに思って貰えるように、毎日を過ごそう。
そう決心したアリスの顔は、晴れやかであった。
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