番外編・黒の祖
それは始まりの白であり、黒の祖
黒は白を守る為
白と黒は1つになり
黒は白を守る為
白と黒に分かたれた
生い茂る木々の中、道無き道を歩く1人の男のミコッテ。
その容姿は黒い髪に焦げ茶色の肌に緑の瞳をしていた。
彼の名はカ·ルナ·ティア。
この時代のエオルゼアには珍しい刀を腰に下げ、森をさまよっていた。
「うむ…、森はいかんのう、景色が何処も同じに見える…」
つまりは迷子、道に迷い早くも1週間が経とうとしていた。
腕が立つ故、狩りをして過ごし、食料には困ることは無かったが、いい加減変わらぬ景色にも飽きてきていた。
だが、動かなければ森を抜け出すことも出来ない。
いつかは森を抜けるだろうと、歩き続けていると、湖に出た。
「おお~!これは綺麗な!」
日差しに反射する水面の美しさに感動しつつ、辺りを見渡すと1つの小さな小屋を見つけた。
もしかしたら誰か居るかもしれない。
もし居れば森を抜ける道を聞ければ儲けものと、小屋に近づく。
だいぶ小屋に近づいた時、中から1人のミコッテ族の女性が現れた。
白い肌に白い髪、息を飲むほどの美しさに、ルナは一瞬足を止めた。
すると、女性はこちらに気が付くと、警戒心を露わにした次の瞬間、術を放った。
「うおっ!!」
まともにそれを食らったルナは、身動きが取れなくなった。
まるで時が止まった様な感覚に驚く。
「貴方は何者です?!」
警戒心を解かずに問われ、ルナは慌てて答えた。
「驚かせてしまったのなら謝る!決して怪しいものでは無い!道に迷ってしまい、森の出口を聞きたかっただけなのだ!」
その言葉に、女性は警戒しながらもルナを真っ直ぐ見すえる。
ルナも信じてもらいたい一心で、彼女を見つめ返した。
「…分かりました、その言葉を信じましょう」
そう言って、彼女は術を解いた。
身体に自由を取り戻し、「おおっ!」と感動するルナ。
「お前さんの術は凄いのう!初めて見る術だった!」
無邪気に感動するルナに、困った様な顔をする女性。
「して、お前さん、何者かに追われておるのか?」
「…まぁ、そんな所です。立ち話もなんです。中で話をしましょう。時期に雨が降ります」
「雨?」
こんな天気が良いのにかと不思議に思っていると、ポツリポツリと雨が降ってきた。
「天気雨とは、また珍しい…」
「風邪をひきたいんですか?それなら別に構いませんが…」
「あいや、それは勘弁願いたいな」
ルナは慌てて小屋に入った。
「かたじけない、驚かせてしまった上に雨宿りまでさせてもらって、恩に着る」
「いえ、誤解で魔法を仕掛けた上に風邪をひかれては目覚めが悪かっただけです」
「かっかっかっ!これは手厳しい!」
豪快に笑うルナに、怪訝な顔をする女性。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はカ·ルナ·ティア。お前さんの名は?」
「…ニア·リガンです」
「ニアか!良い名だ!」
ルナはうんうんと頷く。
ルナの能天気さに少し呆れながら、ニアは本題に入った。
「そんな事より、森の出口を探しているんでしたね」
「おう!」
「ここから湖とは反対側にしばらく行けば道に出るはずです。とは言っても、今降っている雨は数日は続きます」
「そんなことまで分かるのか?!」
「えぇ、雨が止むまではここに居て構いません」
「おお!それは有り難い!」
ルナは再び「恩に着る」と頭を下げる。
「ですが、1つ問題があります」
「問題?」
「食料がもつかどうか…」
「それなら心配いらんぞ!」
そう言って、ルナは自分の荷物から、以前狩りをして余った肉を、保存食として燻製にしたものを出した。
「これがあれば、幾日かはもつであろう?」
「…そうですね」
この男は一体何者なのかと疑問に思うニア。
それを察してか、ルナは自分のことを話し始めた。
昔、剣術士をしていた事、そして、世界を転々と旅をしていたことなど、色んな事を話した。
ニアはそれを黙って聞いていた。
そして、ルナに話を振られ、ニアもポツリポツリと自身の事を話し始めた。
人並外れた魔力を持っている事、それを狙う輩が居ること。
普段は人避けの結界を張っていることを話した。
「あい分かった。ならば、宿を借りている間、そういった輩が現れれば私が追い払おう」
「その心配は無いと思いますが、もしもの時はお願いします」
ニアのその言葉通り、結界の効力なのか、彼女を狙う輩は現れなかった。
だが、時折迷い込むモンスターが居た為、ルナは実力を活かすことが出来たのだった。
***********
2人が出会って数日。
久しぶりの青空を拝む。
だが、ルナは森を出る事をせず、「恩義を返す」と言い、ニアの為に食料を調達する事を申し出た。
ルナは狩りの為に小屋を出た。
獲物を探し、身を潜めていると武装をした集団が通りかかった。
「この辺りだったな。目撃情報があったのは」
「あぁ、見ればひと目で分かるらしい。なんせ、真っ白らしいからな」
この会話で、集団がニアを追っている者達であると察したルナ。
「人並み以上の魔力を持ってるらしいぜ?噂によるとその魔力は角尊並か、それ以上らしい」
集団の向かう方向は、紛れもなく湖の方向だった。
ルナは迷いもせず、集団の前に立ちはだかった。
「あい、待たれい!」
「な、何者だ!?」
突如現れたルナに驚く集団。
ルナは刀の柄に手をかけたまま、言葉を発した。
「ここから先は、如何なる事情があっても通さぬ!立ち去れ!」
「俺たちの邪魔をしようってのか?上等だ!!」
一斉に襲いかかってくる集団を、ルナはいとも簡単に倒して見せた。
「峰打ちだ。命に別状はない。だが、立ち去らなければ次はその命、貰い受けるぞ」
ルナの言葉に「ヒィッ!」と悲鳴をあげて逃げていく集団。
集団の姿が見えなくなったところで、溜め息を吐く。
「これはなかなかに厄介だ。ニアはあんなのを1人で相手にしておったのか…、あの細っこい身体で…」
彼女が人里離れたところで、1人で暮らしていたのが理解出来てしまったルナ。
これは、簡単には彼女の傍を離れる訳にはいかないと思った。
「せめて、ああいった輩が寄り付かなくなるまでは、理由を付けて傍にいなくては…」
ルナは彼女を守る事を決め、狩りに戻った。
獲物を仕留めて持ち帰り、ニアの料理を食す。
「うむ!最初にも言ったが、やはりお前さんの作る飯は美味いっ!」
「そう、ですか」
褒められて悪い気はしないが、格別料理が上手い訳でもない。
一般家庭並の物しか作っていないのに、こうも美味しそうに食べるルナの姿に、戸惑いを隠せないニア。
すると、「そういえば」とルナが何かを思い出した様に言い出した。
「お前さん、香水かなにか使っているのか?」
「はい?そんな高価な物、持っているわけがないでしょう」
「うーむ。そうなのか…」
ニアの返答に考え込むルナ。
「一体、何故そんなことを?」
「いやな、初めて出会った時から思っていたんだが、お前さんから甘くて良い香りがしていてな。なんの香りか気になっていたんだ」
「香り?」
ニア自身も首を傾げる。
「いや、心当たりがないなら忘れてくれ。変なことを聞いて悪かった」
「…いえ…」
その時は香りの正体に気が付かなかったが、直ぐにそれがなんなのか、ルナは知ることとなった。
ニアが結界を張る時、魔力として放出されるエーテル。
その時にいっそう香りは強くなったことで、香りの正体は彼女のエーテルが放つものだと判明したのだった。
***********
ニアとの生活が続いて早くも1年半が経った。
その頃には結界の効果なのか、ルナの陰ながらの護衛の効果か、はたまたその両方か、彼女を狙う輩の姿は見なくなった。
ルナは迷っていた。
最初は、彼女が安全に暮らせるようになるまでと決めていた。
だが、共に生活する中で、ずっと彼女の傍にいたいと思う気持ちが強くなっていた。
いや、ひょっとしたら、初めて彼女を見た時から、傍にいたいと言う気持ちがあったのかもしれない。
真っ白で美しく、無愛想だが優しい彼女を、ずっと傍で守りたい。
その気持ちが自分の中にある事をしっかりと確認し、ルナは今日の獲物を持って帰宅する。
その日の夕食後、ルナは洗い物をしているニアに告げた。
「お前さんを護り続けたい」
ルナのその言葉に、ニアは一瞬キョトンとしたが、直ぐに言葉の意味を理解したようで、「お好きな様に」と答え、洗い物へと視線を戻した。
その頬は少し赤らんでいるようにも見えた。
それからの2人は、自然と距離が縮まり、夫婦としての契りを結ぶまで、そう時間はかからなかった。
そして、ニアは子を宿し、ルナはヌンとなる。
腹の子が成長していくにつれて、疲労の色が多くなっていくニアに気がついたルナは、今よりも安全な場所をさがしていた。
そして見つけた。
森の奥深いところに、陽の差し込む美しく開けた場所。
ここならば人が来ることは無いだろう。
だが、1つ問題があった。
今住んでいる場所から、ここまでかなりの距離があり、身重の彼女に負担が大きすぎることだった。
でも、身重になっても結界を張り続ける今の状況も、負担が大きいのも分かっていた。
一時の負担か、それともずっと続く負担を選ぶか…。
1人悩んでいても埒が明かない。
最終的な判断は、彼女に任せることにした。
急いで家に戻ると、家の前で不安そうに立っている彼女を見つける。
安心させようと大きな声で話しかけたが、逆に驚かせてしまった。
そして、先程見つけた場所の話をし、判断を委ねると、彼女はそこへ向かうと決断した。
2日で準備を整え、身重の彼女を気遣いつつ、その場所に辿り着くと、彼女は「これは…精霊ですか」と呟いた。
自分には見えないが、どうやら精霊がいるらしい。
彼女は角尊にしか出来ないはずの精霊との対話をし、力を示し、この場所に住む許可を得た。
そして、彼女は言った。
「この先産まれる子達は、ある程度の歳になるまで時々彼らに遊ばれてしまうでしょう」
ルナはその言葉に不安を感じたが、時を待てば問題ないと言うことだったので、気持ちを切り替え、ここに住む為の家を建てる準備を始めた。
************
あれから、3年半という年月が過ぎた満月の夜。
ルナは1人家の外で、手製の木人で腕を磨いていた。
ここで住み始め、無事に産まれた子供は双子。
1人は母親に似て白く、1人は父親に似て黒く右腕に蝶の痣を持って産まれた。
成長していくにつれ、子供達は白は魔力、黒は武力と、それぞれ別れた特性を表し始めていた。
「ふぅ、今日はこれぐらいにしておくか…」
流れる汗を拭き、片付けをしていると、気配を感じ振り返る。
そこには白い方の我が子が立っていた。
「もう寝ている時間であろう?どうかしたのか?」
不思議に思い声をかける。
すると、我が子は目を光らせ唸り声を上げる。
様子がおかしいと思った瞬間、子はルナに向かって飛びかかった。
腕を引っ掻かれ、倒れ込むルナ。
子はルナに馬乗りになり、なおも襲いかかろうとする。
子の両手を掴み、何とかそれを阻止しようとするルナ。
「くっ…なんて力だ….っ」
我が子に手荒な真似は出来ないと、四苦八苦していると、異変を察知したニアが家から飛び出してきた。
ニアが子の名前を叫ぶと、一瞬だが子供の注意が母親に向いた。
その隙を逃さず、ルナは子を押し倒し、剣術士をしていた頃に使っていたフラッシュを放つ。
目が眩み、徐々に落ち着きを取り戻していく我が子。
「大丈夫か?」
ルナが子に尋ねると、子の顔は徐々にクシャクシャになり、「うわ~ん!!」と泣き始めた。
「おーおー、怖かったなぁ。だが、もう大丈夫だぞ!」
宥めるように頭を撫でると、「おと~さ~ん、ごめんなさ~い!!」と泣きじゃくりながら抱きついてきた。
駆け寄ってくるニア。
ルナの腕の引っ掻き傷を見て、慌てて回復魔法をかける。
「無茶をしないでください」
「いやぁ、すまんのう。突然の事で咄嗟に避けれなかった」
苦笑しながら答えるルナに、呆れるニア。
傷が塞がると、ルナは子に腕を見せた。
「ほれ、母さんが治してくれたから大丈夫だ!だから、もう泣くんじゃない」
笑顔でそう言うと、鼻水をズビズビ啜りながら「うん」と答える我が子。
「安心せぇ、父さんがお前たちをしっかり守ってやるから」
そう言って、我が子を抱き抱える。
「さぁ、もう寝よう」
ルナは我が子の頭をクシャッと撫で、3人で家の中へと向かった。
子供が寝付いたあと、2人で先程の事を話し合った。
あれが精霊のイタズラ。
それは、イタズラにしては度が過ぎるほどの力だった。
「イタズラという言葉を甘く見ていた。今後、気を引き締めねばならんな…」
「そうしてください。流石にさっきのは肝が冷えました」
「それはすまなんだ」
苦笑するルナに、呆れ顔のニアであった。
************
長い年月が経ち、2人の血筋は混血を交えながらも続いていた。
だが、ある事件が起こった。
それをきっかけに、白と黒を分ける事にした。
白はその場所に留まり、黒は白を守る役目はそのままに、別の場所へ隠れ住んだ。
こうして、黒は影から白を守る黒き一族として誕生したのであった。
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